123. ツキ

 追ってきてるな……、殺すか?


 いや、冒険者ギルドが何処まで掴んでいるか分からん。追ってきているのは本職の冒険者ではなく、たかが受付嬢だ。冒険者ギルドが俺をマークしているのであれば本職を寄越すだろう。


 つまり、今のところあの女個人が俺を疑っているということか? その場合、あの女を下手に殺せばそこから冒険者ギルドにマークされる可能性がある。最終手段として転移で逃げることはできるが、貴重な転移回数を女1人に使いたくはない。


 何処まで疑っている? 黒濃厚と思われているのなら尾行を撒けば良いのだが、「もしかして」程度なら下手に尾行を撒いてしまうと疑いを強めるだけだ。適当な地上の水路から地下へ入りたかったんだが、あの女が見ている前では入りたくない。やっかいだな。



 どうやら俺には間諜の素質は無いようだ。そもそも間諜の訓練など受けてはいないからな。少しだけ話した冒険者にも魔術師かと疑われ、依頼受注のやり取りをした受付嬢にも何らかの疑いを持たれてしまった。ウチも人手不足になったものだよ。あのナヨナヨした冒険者は優秀だった。失ったのは惜しいが、転移は1人だけ。あの冒険者を連れて牢から転移はできなかった。殺すしかなかったのだ。



 さて、あまり変にうろつくと疑いを強められるな。幸い地下構造は把握している。たしか東門の外の河からも地下に入れた筈だ。1度東門から出て王都から別の街へ行ったと思わせよう。その後戻って河から地下に入るか。面倒だがしょうがない。


 東門を出ると、期待通り受付嬢が外まで追ってくるようなことはなかった。しかし念のため王都から少し離れる。東門前の橋を渡ってしまったので、王都側の対岸へ戻る必要があるが、簡単だ。門番の視界から外れたところで透明化の魔道具を羽織り、透明化して見つからないように橋を戻った。


 把握している構造では、東門から王都外を壁沿いに北へ少し行くと、でかい排水路がある筈だ。河に浸かって歩く必要があるが、背に腹は代えられない。幸い足もつく浅さで流れも緩やかだ。


 よし、あった。排水路横の通路によじ登る。まったく、天下の魔術師が人目を避けてずぶ濡れになり地下へ潜るなど、度し難いものだよ。



 ……なんだ? 異常な魔力を感じる。メンテナンス用なのか、排水路横はある程度広いスペースとなっている。その端に異常な魔力を放つ何かが隠されているようだ。排水機構に魔道具を使っている? いや、そんな情報は無かった。なんだ?


 照明の生活魔法で辺りを照らしながらその場に近づく。そこには無造作に木片が積まれていた。木片を足で蹴ってどかすと、5本の剣が……! 火、水、風、土、光のそれぞれの属性魔力を強力に纏った剣だ!


「はははははは!」



 どうやら俺にもツキが回ってきたようだ! それぞれの属性の5本の魔剣、帝国が言っていた「魔法の刃を飛ばす剣」に違いない! 5本とも揃っている! こんな異常な魔力の剣がそうポンポンとあってたまるか。魔剣はこれで全部だろう。王国の切り札である魔剣を全て手に入れてやったぞ!


「くくく……」


 王国も馬鹿ばかりだ。こんなところに魔剣を纏めて隠しておくなんてな。これを奪えるのであれば、貴重な転移回数を消費してもお釣りがくる。


 俺は転移でその場を離れるのだった。

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