122. 違和感

 目の前の男に漠然とした違和感を持ちます。どうしてでしょうか?


「どうしてパレード参加者しか受注できないのだ?」

「お答えすることはできません」



 しばらく前に王都に2度響き渡った怪音の調査依頼を、サブマスの指示のもと出しました。何故か、先日の凱旋パレードに参加した冒険者のみ受注可という条件付きです。


 そして今は、この調査依頼を受けようとした冒険者の1人がパレード参加者ではなかったため揉めているところです。ギルマスは王都不在で、サブマスも王城に上がり不在です。長引くと面倒ですね。


 この依頼は不味い部類ではありませんが、美味しい部類でもありません。報酬額は相場どおり、調査場所が王都のため遠出はないものの、下水道という不衛生な環境。どうしても受けたいという理由が分かりません。



「そうか……。残念だ、今回は諦めることにするよ」


 冒険者との揉め事にしては、素直に引き下がりましたね。しかし、「今回」ですか……。次があると?



 それにしても、どうしてパレード参加者のみ限定なのでしょう? サブマスは、今は機密が多いと言っていました。機密絡みで何か訳ありなのでしょうが……。念のため依頼先はパレード参加した冒険者にする、「念のため」とは何に対して? あの男のような存在が出てくることを予想していた?


 あの子は何て言っていた? 「今は・・機密が多くてですね」? 先程は新人から突然サブマスに昇進したため、扱う機密が多くなったのだと受け取り疑問に思いませんでした。


 しかし、それなら「今は・・」と言うでしょうか? 「これからは・・・・・機密が多い」といった言い回しになるのでは? つまり、本当に今現在何かが進行しているということ?


 思えばあの子が王城に上がるのはこれで4度目です。前ギルマスは長年ギルドマスターの任に就いておられましたが、前ギルマスが王城に上がられたのは数回程度だった筈。それに対してサブマスになったばかりのあの子は4度目。いくら何でも頻繁過ぎます。


 王都に怪音が鳴り響いたのは確かに異常事態ですが、その直後に気軽に王城へ上がるものなのでしょうか? 王城が関わる程何か重大な事態が進行していて、あの子はおおよその事態を把握しているのでしょう。


 あの子がこれ程重要なポジションとなったのはスタンピードのときです。あのスタンピードも人為的に発生させられたと発表があっただけで、私が知る範囲では詳細調査などが行われていません。通常、そんなことはあり得ないのです。



 それらを踏まえてもう1度あの男を観察します。すると、遠目に見たということもあり、装備と動作のちぐはぐさに気が付きました。装備は前衛ですが、動作が前衛のようではありません。重心移動など新人冒険者のそれです。あの男、本当に冒険者ですか?


 少なくとも前衛ではないでしょう。武器防具に着込んでいる服は前衛装備ですが、よく見ますと携帯している小物類はどちらかと言うと魔法職です。腰に隠すように携帯している前腕部程度の長さの棒、あれは魔術用の短杖では?


 仮に、もし仮に本当に冒険者ではないとすると、では何か? 王都地下調査に対する異常な執着を見ますと、王都地下に行きたがっているのでしょう。何故? あの怪音が関係している? 王城と敵対するような目的を持って?


 王城と敵対するような目的? 王城が敵なのだとすれば王都を攻めることになり、効率的に王都を攻めるのにスタンピードは有用でしょう。もしかして、スタンピードにも関係しているのですか?


 今現在王城と敵対しているとすれば、バスティーユ派の貴族、――もしくは、帝国。


 いえ、これ以上推論に推論を重ねるべきではないでしょう。仮定のまま推論を重ねますと、無意識に結論を自分の都合の良い方向に捻じ曲げてしまう可能性があります。しかし、あの男は要注意ですね……。



 あの男がギルドを出ていきます。依頼を受けられなかったというのに、他の依頼を全く確認せずに出ていく? 追いますか? いえ、冒険者なら私のような素人の尾行はすぐバレるでしょう。……しかし、冒険者でないのなら?


「あなた、申し訳ないけど依頼受注手続きを代わってください。私は急用ができました。――それから、先程この依頼を受けようとした冒険者の経歴を可能な範囲で調べてください。名前は控えてありますよね?」


「え? ちょっと、先輩?」


「では」

「え、ええ?」


 私はあの男を追うことにしました。


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