102. 箱馬車

 盛大にお酒マン像を崇めた後、パレード一行は貴族街の入り口前まで移動した。


 鳥籠メイドさんは先回りしていたのか、貴族街手前でパレードの到着を待ってたよ。そして銀髪ちゃんとともに、私はすぐに屋根付きの箱馬車に移動させられた。


 外から見えなくなった途端、銀髪ちゃんの笑顔は一瞬にして消えた。こわ。ギャップ怖いわ。いつものムスッとした銀髪ちゃんが帰ってきたよ。



 箱馬車は乗合馬車くらい大きく、鳥籠メイドさんと銀髪ちゃんの後に続いて、おじゃーさん、筋肉オバケ、小太りさん、受付しょうさん、お酒マン、さらには弓を担いだ知らないおじさんまで乗り込んできた。


 いや、弓の人に関してはおじさんと呼ぶには少し若いかもしれない。本人的には「お兄さんと呼んで」とか言いそうだ。いつものように適当に言葉を混ぜて呼び名を付けようと思ったけど、「おじさん」と「おにいさん」って混ぜると言葉的には「おじいさん」になって年齢が上がるよね。弓兄さんにしとくか。その弓、弦張ってないけど飾りなのかな。



 鳥籠メイドさんが地図出してのサインをしてくる。地図好きねー。地図ブーム? 地図を出していつものように指示に従って縮尺調整すると、みんなが地図を覗き込み話し合いだした。お祭りパレードとは思えない雰囲気だ。



 あー、分かったかも。分かっちゃったかもよ。最初はパレードの進行確認とかお祭りの状況確認とかかなと思ったけど、どうも違うっぽい。たぶん赤い点の冒険者をピックアップしようとしてるのかな。なるほどなるほど、だからこの面子なのか。


 つまりあれだ。冒険者がお城のペットとそのお世話係のメイドを襲って強盗しようとした。飼い主である銀髪ちゃんとしては「冒険者ギルド何してくれてんねんボケェ!」ってことでしょ? それで冒険者ギルドのお偉いさんを呼びつけたんだ。そして、鳥籠メイドさんと私は被害者なので謝罪に立ち会ってると。


 そりゃそうだよね、鳥籠メイドさんは殺されかけたんだし謝罪の1つも無いなんて許されないよ! やべ、思い出したら腹立ってきた!


 んで、謝罪が終わったら次はどうするか? もちろん再発防止だよね。そして再発防止に1番手っ取り早く対応できる素晴らしいアイテムがある。私の地図だ。強盗とかなら赤い点で表示されるから、冒険者ギルドとしては、赤い点の冒険者を洗い出すんで勘弁してくだせぇってとこか。



 うーん、利用されてる気もするけど、それで平和になるなら地図くらいいくらでも出していいかな。減るもんじゃないし。



 徒歩でパレードに参加していた冒険者たちの多くはここで解散のようだ。それ以外はお城に向かってカッポカッポ進む。騎士団を含む大所帯での移動は、カッポカッポというよりも闊歩闊歩といった威圧感があるね。


 箱馬車内の話し合いはまだ続いていて、ときおり受付しょうさんの大きなリアクションが挟まる。要所要所で驚いたり感心したりしてて聞き上手だなと思うよ。リアクション芸人だ。リアクション見たさについ色々話してしまうんだ。芸人しょうさんだ。



 お城前の広場まで進むと、ここでも盛大に出迎えられた。普段は何もないだだっ広い空間の両脇に、旗を持った兵士やラッパみたいな楽器を吹いてる兵士がズラッと並んでいる。


 ふむー、街だけじゃなくてお城でも何かお祭り的なイベントがあるんかなぁ。街の中央広場に銅像がたつほどの偉業を、お酒マンは成し遂げたらしい。そしてそのお酒マンがパレードの主役として街を練り歩いた後、お城に向かっている。普通に考えるとこの後は謁見か?


 本日の主役で間違いないハズのお酒マンは、箱馬車に乗ってから一切しゃべってない。存在が空気なんだけど良いのかな。もっと話しかけてあげたりしなくて良いの? 街に銅像がたつ有名人だよ。



 そう思って見てたら、お酒マンが何か言ってきた。なるほど、わからん。お酒飲みたいんかな?


 言葉もなー、覚えた方が良いとは思うんだけどなー。でも現状言葉が通じなくても十分楽しく過ごせてるし、英語も満足に習得できなかったからなぁ。教師も教材も揃ってて、英文と日本語訳の対比ができる状況でみっちり数年勉強させられても英語ができなかったんだ。ノーヒントで異世界語を習得できるとは思えないし、勉強なんてしたくないよ。



 私にできることは、そう。頷くことだけだ。


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