098. 考察

 今後の帝国対策に関して様々なことが話し合われた。


 そうしておおよその方針が決定し、後は各部署持ち帰りで詳細を詰めていくということになって、そろそろ解散かと思われたタイミングでお母さまが1枚の羊皮紙と1つの瓶を出された。どうやらまだ解散とはならないらしい。



「王妃様、それが例の妖精様が仕込んでいたという瓶詰でございましょうか?」

「そのとおりです」


 妖精様が仕込んでいた瓶詰? 見たこともない緑色の小さな果物が詰められている瓶だ。妖精様関係であれば今更見たこともない果物が出てきてたところで驚きはしないが、「例の」というほど話題になっていたのだろうか。



「では、こちらの紙は何でございましょう?」

「こちらは、この瓶詰に関しての妖精様直筆の補足説明です」


「おお。して、この絵は何を示されているのです?」

「ふふふ、試しにあなた達で意図を読み解いてみなさいな」


 妖精様が描かれたという絵を指して問うた貴族に、お母様が妖艶な笑みを浮かべた。絵の意図……、一緒に置かれている瓶詰と思しき図と、点印を含んだ円が描かれている。



「果物と言えば、陛下は妖精様から頂いた果物をお食べになられたことで超人的な力を手に入れられたとか」


「確かにそうだが、ワシが食した果物は手の平サイズであったよ。それとは別物だ」


 お父様がそう答えられた。私の記憶が正しければ、お父様はこの会議で初めての発言の筈だ。お父様は意外にもものぐさな性格をされているため、普段から会議に出席はしてもほとんど発言はされないという。どうやらその噂は本当だったらしい。



「むむ、では陛下が食されたモノとは異なる効果が得られる可能性は」


「いやいや、そのような果物見たこともありませぬよ。そもそも食べられる果物なのですかな?」


「聞いた話では調理場に置かれていたのでしょう? 聡明な妖精様が食せない果物を誰に知らせることもなく調理場に置かれるでしょうか?」


「酒作りでは? 日当たりの良い窓際に置かれていたのでしょう? 料理場であれば湿度もそれなりでしょうし」


「酒造りにしては中の果物が潰されておらんではないか。これでは発酵せずただ腐るだけだ」



 妖精様の果物に関してみながあれこれ意見を出し合い始めた。しかし、瓶詰は羊皮紙とセットで示されたのだ。であれば……


「羊皮紙の図も加味して瓶詰の意図を考えるべきでしょう。腐敗物を密封すると破裂することがあると習いました。この図の瓶は、間違いなくその瓶詰でしょう。そしてこちらの円ですが、これは敵陣を示しているのではないでしょうか? 円の中の点印は敵兵です。そしてこの矢印、妖精様はこの瓶詰を敵兵に投げ込んで破裂させろと言っているのでは?」


「……いやいや、王女殿下。妖精様は神話時代のような圧倒的なお力と、誰もが見抜けなかった帝国の裏工作を見抜き短期間で完璧な対策をご用意されるほどの頭脳をお持ちなのです。そんな妖精様が、敵兵への対処に腐敗した果物の瓶詰を投げつけるといった子供の悪あがきのような対策をご用意されるでしょうか?」


「では、この図は何を示していると言うのですか? 妖精様がご用意された瓶詰です。破裂後になんらかの攻撃力、もしくは妨害能力を持っている可能性も否定できないのでは?」



「私が思うに、この点は位置関係を表しているのではないでしょうかねぇ。この点の位置に種を植えるとか、もしくはこの点の位置関係をもった構造物の場所が存在するとか……」


「では、その円はどこかの場所を示していると? 何の情報もなしに円だけで場所を特定するのは困難では……?」


「さすがに妖精様も、まったく脈略もない場所をノーヒントで示されはしないでしょう。王都か王城、はたまた帝国領や帝都を示しているような……」


「帝都に瓶詰を投げ込めと?」

「王女殿下、投げ込むことに固執しすぎではないですかな」


 むぅ。



「まずは可能性を潰していきましょうか。その瓶内の果物が円内の点よりも少なければ、少なくとも"その配置で植える"という意見は誤りと判断できます」


「……開けるのですか? 宜しいですか、王妃様」

「ええ、開けてみなさいな」


 お母さまは何の気概もなく開けることに了承された。やはりお母さまはこの瓶詰の意図を知っておられるのだろう。そうでなければ、開けることで効力を失う可能性などを考慮して開けても良いという判断を下せない筈だ。



 そうして数えられた瓶内の果物の数は、図の点印の数と一致したのだった。


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