099. サブマス候補
「もうすぐ辺境スタンピード対策本隊が戻ってきますが、彼らには王都手前で下船して頂き、陸路で西門に向かってもらいます」
2人だけの冒険者ギルド内会議室で、サブマスが私に色々と説明してくれる。たかが新人受付嬢にどうしてそこまでの情報をと思わなくもないけど、大人しく聞いている他ないよね。
「同時に我々も西門へ行き、戻ってきた冒険者たちや北から戻ってくる第2騎士団と西門前で合流します。そして、魔術師団長や妖精様など王城の方々が合流後、西門から王都に入って凱旋パレードです」
「えっと、私も参加するんです?」
「もちろんですよ。何せあなたはスタンピード無血防衛の立役者ですからね」
「うぇー、何も聞いてないんですけどぉ」
「だから今連絡しているではありませんか」
あー、もう決定事項なんだね。何を言っても強制参加なんだぁ。
「パレード順はこの資料の通り。戻ってきた本隊をこの配置でスタンバイさせてください。我々冒険者組は第2騎士団の後ろですよ」
「え、私が? スタンピードに突っ込む気満々だった荒くれ組を行儀よくスタンバイさせるんです? ええ……」
おかしいな、凱旋パレードってもっと気持ち良く楽しめるモノだと思ってたんだけど、すでに鬱々とした気分になってきたよ。
「文句言わないでください。パレードは西門から入って中央広場へ進み、そこで一旦止まります。そして英雄像の除幕式を執り行ってから、進路を北に変えて貴族街手前まで進みます」
「英雄像ってダスターさんですよね。よくこんな短時間で作れましたよねぇ」
中央広場噴水の南側には初代国王陛下の石像が設置されてるけど、噴水の西側に新しくダスターさんの石像が立てられるんだって。いつもギルドの酒場で飲んだくれてた冴えないおじさんが初代国王陛下と同列になるなんて、世の中何があるか分からないなぁ。
「貴族街手前で、辺境派遣組の冒険者は離脱。第2騎士団と王都防衛組の冒険者はそのまま王城へ進み、謁見後パーティーです。あなたのドレスは王城側で準備してもらえるそうですよ」
「パーティー? 貴族もいるパーティーに参加ですか? あの、辞退は……」
「強制です」
「うぇー」
「それが終わると、翌日にギルドマスター就任式をおこないます」
「え?」
ギルマス替わるの? 誰に? 今のギルマスは?
「現ギルドマスターには退任して頂き、私が次期ギルドマスターになる予定ですよ」
「ええっ!?」
「担当地区にスタンピードが発生したにも関わらず、偽の情報に踊らされて戦力を他へ移動させていた責任を取らされる形になります。本部は現ギルドマスターを力量不足と判断したということですね」
「でもそれって、帝国の王国侵攻の一環だったんですよね? 冒険者ギルドは国家間の抗争には関与しないんじゃ……?」
一国家があんな大規模に裏工作で動いた結果なんだ。それを未然に防げなかったから責任取れって、あんまりな気がするよね。ギルマスかわいそすぎる……。
「それは箝口令が敷かれていますよ。軽々しく口にしないでくださいね」
「でもみんな、あのスタンピードが人為的だったって薄々気付いてるんですよね?」
王都近郊に居ないはずのオークが、初心者向けの狭い林から1000頭近く出てきたんだよ? あんな狭い範囲にどうやってオークが1000近くもおさまってたんだって、みんなも騒いでたしなぁ。
「表向きはバスティーユ公爵が企てたことになります。現ギルドマスターはバスティーユ公爵の計画を見抜くことができず、陽動情報に踊らされたあげく、担当地区街を壊滅の危険にさらしました。それを力不足とみなされ解任」
あ、帝国のせいじゃなくて王国内の貴族が犯人にされるんだ。うわー、帝国侵攻だったって、誰まで知らされてるんだろ……。なんか私、知りすぎちゃった気がするよぉ。
「そもそも凱旋パレードに騎士団が参加する理由は王家の面子を保つためですが、表向きの理由はスタンピードを企てていたバスティーユ公爵の動きを事前に察知して見事バスティーユ公爵を拘束したという筋書きになります。今回のスタンピード防衛に騎士団が蚊帳の外だったなんてことは、王家としては認められないのですよ」
「でもみんな気付いてるんじゃぁ……」
「世の中本音と建て前です。冒険者ギルド本部にも、正式な報告は建前の方を報告しておりますしね」
うへー。
「あ、じゃぁサブマスターは? サブマスがギルマスになられるなら、次のサブマスターは誰がなるんです?」
「よくぞ聞いてくれました。冒険者ギルド本部は、あなたをサブギルドマスターに強く推薦していますよ」
「ええええええええ!?」
なんでなんで!? どうしてそうなるの!?
「戦力が全くない状況からスタンピードを無血防衛という、人類史上稀にみる偉業を成し遂げた一員であるあなたを、本部は高く評価しているのです」
「えー、私は薬師ギルドの倉庫に乗り込んだだけですよぉ! 無血防衛の立役者って理由なら、ダスターさんがサブマスになれば良いじゃないですかぁ!」
新人受付嬢がいきなりサブマスは荷が重い! 周りからの目も気になり過ぎる。どんな顔して先輩方に対応すれば良いかわからないよ!
しかもサブマスがギルマスになって私がサブマスになるってことは、現ギルマスも私の部下になるってこと!? やだやだやだやだ!
「ダスターさんはあれほどの能力をお持ちです。まだまだ現役を続けて頂かないと、引退なんてもったいない」
「それってぇ……、決定事項なんです?」
「はい」
やだー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます