097. 緊急会議
間違いなく人生で最も激動の日だった、その翌日の午後。お母さまは主立った人物を集めて緊急会議を始められた。
敵国に王城内まで攻められたのだ。緊急会議も当然だろう。
「では、妖精剣は5本とも同時に所持した状態で、土と風と水を使用されたのですな?」
「そのとおりです」
国の重鎮達からの質問に、私は簡潔に答えていく。
「どう思われますか? 帝国に妖精剣の存在を知られた可能性がありますが」
「襲撃中は敵味方双方、大混乱でした。妖精剣の目撃者が逃走した可能性は否定できませぬな」
「最悪を想定しておくべきです。属性と同じ色をした魔力を帯びた剣を5本所持した状態で、3色の効果を見られた。各属性1本ずつ計5本あることは知られたと見るべきでしょう」
「では、帝国はどこまで妖精様の情報を握っているのでしょうか?」
長く続いた妖精剣に関する話題が終わったようです。緊急時であったとは言え無断で持ち出した是非や、5本とも持ち出す必要があったのかなど、多くの追及を受けていた。
その後に宝物庫から王冠が持ち出されていたことから、あのまま妖精剣を残していれば帝国に奪われてしまっていた可能性があったこと、妖精様ドールが帝国兵を引き付けていたとは言え、最終的に倒せたのは持ち出した妖精剣のおかげであったことから、それらの追及をかわすことができたが、長時間にわたり自身の不備を追及され続けるのは堪える。
「捕えた帝国兵は妖精様の存在自体は知っていたようです」
「それはそうでしょうな。王都商業ギルドが妖精様を喧伝して街輿しをしておるのです。妖精様にあやかろうと一般人も集まり始めておりますし、帝国が知らない筈がない。問題は妖精剣や不作の改善など、妖精様がもたらしてくださった奇跡との関係をどこまで掴まれておるのか、でしょう」
「それにつきましては、帝国兵は妖精様の危険性をほとんど認識していなかったようです。しかし、今回妖精様ドールのご活躍により、見た目がそのまま妖精様であったためさすがに妖精様の力であると思われるでしょう」
「ふむ……」
「先ほども言いましたが、最悪を想定しておくべきです。妖精様のお力は全て露見しているとした上で、今後の対策を練るべきでは」
「それでは、内通者の洗い出しの件に移りましょう」
これまでほとんど無言だったお母さまが、やや強引に話題を変えられた。
「帝国兵やすでに捕らえた内通者からの情報と、本日実施しました内通者洗い出しによって、今現在城内の内通者はゼロと判断して良いでしょう」
内通者の洗い出しを本日実施した? この会議は昼から始めている。午前中だけで内通者の洗い出しを終えた上で、漏れがないと言い切れるのだろうか。
「失礼ですが王妃様、内通者がゼロと言い切れる根拠は?」
当然、私以外にも同じ疑問を抱く者が出てきた。
「妖精様にご協力頂き、特別な手段で城内を確認しました。どのような手段かは言うつもりはありませんが、漏れはないでしょう」
「……左様で」
「また、妖精様が内通者を炙り出す手段を持っているという情報は、帝国に漏れているでしょうね」
「うむむむ……」
「悲観することはありません。帝国は今後、不用意に内通者を送り込んでくることができなくなったと言うことです」
「おおっ」
「それは有難い」
会議参加者達がどよめく。内通者をすぐに見破る手段があると分かった上で、すぐに見破られる内通者をわざわざ送ってはこない、ということだろう。
やはりお母さまはすごい。帝国襲撃を事前に察知して、妖精様の協力を得ながら完璧に対処されたのだ。お母さまの頭の中では、その後の対処法もすでに筋書きができているのだろう。私も将来、お母さまのようになれるのだろうか。
「妖精様の件でもう1つご報告を。昼前に妖精様が地下牢を訪れ、帝国兵の様子をご確認されておりました。妖精様が近づかれた影響で、帝国の負傷兵が全快しております」
「なるほど、拷問による負傷も全快したのであれば、再度拷問にかけることも可能ですね」
「ティレス、あなたはいつの間にかえげつない思考になりましたね……」
兵の報告を受けて思わずつぶやいてしまった私に、お母様が呆れた顔を向けられた。合理的な考えだと思ったのだが、こころなしか周りから怯えの感情も感じてしまう。
「……では、今後の行動を話し合う前に、1度情報を整理致しましょう」
話し合いに一区切り付いたと見た宰相が、場を見渡してそう発言した。微妙な空気になっていたので正直ありがたい。
「停戦中であった帝国で後継者争いが激化。継承順位の低い第二皇子派が功績欲しさに、我が王国を落としにきたのが今回の発端のようです。裏工作自体は先の戦争中からすでに始まっており、雨不足による不作、ポーション買占めによるポーション不足、前宰相の呪殺、王妃様の呪殺未遂、ティレス第二王女殿下の暗殺未遂、王都への毒物散布、野盗による流通および情報の遮断、スタンピードなどを受けました」
前宰相は現宰相の父だ。自身の父親の呪殺を発言する際には、彼の顔が少し歪んだように見えた。
改めて列挙されるとやりたい放題だと感じる。王都への毒物散布など、私達が認識していなかった工作も含まれている。私の暗殺未遂とは隣国からの帰還中に野盗に襲われた件である。あれも帝国の仕業だったらしい。
「毒物に関してはすでに影響が出ている筈だったようですが、特に影響が出ているといった事実はありません。すでに妖精様が解決された可能性もありますが、要調査案件です」
妖精様は毎日奔放に城下で遊びまわっておられると思っていたが、そうみせかけて日々帝国の裏工作対策に勤しんでおられたのかもしれない。本日も妖精様は城下に行かれたらしいが、今も帝国の工作と戦っておられるのだろうか。
「なお、呪いの詳細、雨をどうやって止めていたのか、どのようにスタンピードを起こしたのかは不明。今後は第2騎士団の帰還後、帝国兵侵入経路である地下道の確認が必須事項です」
地下道から帝国兵が出てくるのを直接見たのは私しかいない。地下道突入の際には何かしら力になれるのではないだろうかと思ったが、私は地下道突入メンバーからは除外されてしまっていた。
「また、東の国境警備隊に察知されることなく帝国は王都まで進軍。国境警備に穴があるか、迂回路の存在が疑われます。こちらの確認も必須でしょう」
国境警備隊と言えば、2番目の兄である第二王子が詰めている。帝国に抜けられたと知ればさぞ悔しがるだろう。もう1年は会っていないが元気だろうか……。
「現在、第2騎士団が最大の内通者であるバスティーユ公爵の捕縛に動いております。バスティーユ公爵から取り調べができれば追加情報を得られる可能性が高いでしょう。さらに、冒険者に紛れていた内通者を2名捕縛。王都に連行するよう連絡を走らせました。しかしこちらは現在辺境にて捕らえておりますので、取り調べは15日以上先となります」
「宜しい。では、今後の話し合いを始めましょうか」
これから今後の帝国対策が話し合われる。今まで散々好き勝手やられたのだ。
ここからは反撃の時間だ。
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