085. デリカシー
スタンピード解決の一報であがった街中の歓声を、私は教会に設置していた避難所で聞いていた。冒険者ギルド職員として設置した避難所で避難者の受け入れ対応をやってたけど、それももう終わりだね!
「いやぁ、良かったですなぁ」
「ですねぇ」
教会のおじいちゃんが一緒に喜んでくれる。なんでも教会は今、妖精擁護派と妖精排斥派で分かれているらしいよ。今回のスタンピードが全部妖精様のおかげで解決したって知ったら、派閥のバランスが変わるんじゃないかなぁ。
「あとはやっておきますから、あなたは冒険者ギルド職員にしかできないお仕事をやってきてくだされ。ほれ、お迎えも来たようですしな」
「お迎え?」
おじいちゃんが示した入り口を見ると、サブマスとダスターさんが入ってくるのが見えた。
「ああ、リスティさん。お疲れ様です」
「お疲れ様です。魔物は全部倒せたんですか? オークキングも?」
「ええ、オークキングやオークジェネラルなど、強力な魔物は全部ダスターさんが倒してくれたのですよ」
「えっ!? ダスターさんて全体の監視役だったんじゃないんですか!? 戦ったの? しかも全部ダスターさんが倒したんですか!?」
事前に聞いていた作戦と違うよ!? 作戦だと王城の魔術師団長が魔法で魔物を殲滅しつつ、撃ち漏らした魔物を前衛の皆さんが倒すことになっていたハズ。ダスターさんは目が良いからって、撃ち漏らした敵の確認役だったんじゃなかったっけ?
どうしてダスターさんが戦ってて、どうしてダスターさんが全部倒すことに!? っていうか、ダスターさんてそんなに強かったの!?
「おい、その話は本当か!? 全部その兄ちゃんがスタンピードの魔物をやっつけたって!?」
「ええ、本当かい? じゃぁその兄さん英雄じゃない!」
「あ、いや……、全部じゃなくて」
まわりで聞いていた避難民の人たちが集まってきた。もともとスタンピード終了で興奮していた人たちがヒートアップしてきたよ。
「おーいみんな、この兄ちゃんがスタンピードを1人で全部やっつけたんだとさ!」
「ええっ!? すごい!」
「あ、やめ……、あ」
集まってきた人たちにダスターさんがもみくちゃにされ始めたよ。
「ちょ、ちょっとサブマスぅ! 大騒ぎになりそうですよぉ!」
「これは困りましたね、早く離れましょう。ダスターさん、行きますよ! リスティさんも」
「え、どこに行くんです?」
「城です」
「え?」
どうしてお城に行く必要があるんだろう? 完了報告かな? でもそれって私必要なくない?
「ほっほ、ではまた。ありがとうざいました」
「あ、ありがとうざいました、おじいちゃん!」
私がサブマスを追って馬車に乗ると、どうやったのかダスターさんがすでに人だかりを抜けて馬車に乗っていた。横にはしょぼくれた魔術師団長様もいる。
「魔術師団長様もお疲れ様です」
「ああ、お疲れさんじゃ」
「どうしてそんなにしょぼくれてるんです?」
「いや……、訊いてくださるな」
「?」
「リスティさん、人には守りたい尊厳があるのですよ」
「はぁ?」
なにがあったんだろう。ダスターさんが魔物を全部やっつけたって話が本当なら、魔術師団長は活躍できなかったのかな? それでしょぼくれてるのか。え、じゃぁ本当にダスターさんが魔物全部1人でやっつけたの?? すっごーい!
「ダスターさんダスターさん、魔物全部1人でやっつけたって、どうしてそうなったんですかぁ?」
「あ……、そうじゃない。俺1人じゃないぞ」
「えー? なんだかよく分かりませんよ」
「その辺りの状況説明も城で
サブマスがそう言って話を中断してきます。ニコニコのサブマス、しょぼくれた魔術師団長様、いつも通りのダスターさん。さっきは人だかりから離れるのに気を取られて気付かなかったけど、馬車のまわりには近衛騎士様もいる。
「あの、私も行く必要あります? あんまり行きたくないんですけどぉ」
「何を言っているのですか。私が不在の間はあなたが先頭に立っていたのです。あなたも重要人物ですよ」
「えー」
しょうがない、行くしかなさそうだよ。でもまぁ、成功報告するだけだし、私は現場にはいなかったし、気楽にしてればいっか。いきなり妖精に拉致られた前回よりは全然マシだよね。
そうして城門にたどり着くと、何やらお城の中が騒がしく感じた。
「気を付けろ! そっちに行ったみたいだ! 絶対に外に出すな!」
遠くで誰か叫んでるね。何かが逃げ出して捕まえようとしてる? え、お城に侵入者でもあったのかな? 物騒だねー。
サブマスたちが馬車を降りたので、私も馬車を降りる準備をする。一応エスコートしてもらえるみたいで、私が降りるのは一番最後だ。
「何ですか? 何があったのです?」
サブマスが門番さんにそう尋ねると、門番さんの返答の代わりに爆発音が響いた。
ドゴォォォォォォォン!!
「うわ!」
「なんだ!?」
「ひゃぁ!」
「ヒヒィィィィン!!」
「まずい、馬が!」
爆発音に驚いたのか馬が突然走り出した! え、ヤバい!
「ぎょぎょぎょ御者さんん、ととと止めてくだだださいいい! ってぇ!」
御者さんが乗ってないい!
「あばばばばばば!」
やばいやばいやばい、馬車が暴走してるよ!
ドゴォォォォォォォン!!
「ひいいいいい!?」
また爆発したぁ! って妖精だぁ! ボロボロの妖精が追ってくるぅ! 何が妖精様だぁ! やっぱり妖精なんてろくなもんじゃないよおおお!
ダンッ
「大丈夫か?」
「ダダダダスターささん!」
ダスターさんが助けに来てくれた! 良かった!!
「安心しろ、
うおおおお、頼もしいぃ! いつも酒場で飲んだくれてる駄目人間とは思えないぃ! そうしてようやく馬車が止まったけど、ボロボロ妖精はまだ追ってきてるよ!
「よくやった! そこの冒険者! その人形を捕まえてくれ!」
「む?」
「気を付けろ! 一定範囲内に誰もいなくなると
ええっ!? なにその極悪仕様! 捕まえるには見えないと駄目だから誰かが近くにいないとダメだけど、近づいたら爆発する!? そんなバカな人形あるぅ? 絶対あのバカ妖精の仕業でしょ! これもバカ妖精が何かを想定した結果なんですかサブマスぅ!?
ドゴォォォォォォォン!!
「ヒヒィィィィン!」
「どう!どう!」
「ダスター殿! 人形の胸あたりから魔力を感じますぞ! 魔石か何かがある筈ですじゃ! 人形を捕まえて魔力の元を外せば止まる筈っ!!」
「よし、任せろ!」
魔術師団長様の提案を受けて、ダスターさんがあっという間にバカ人形を捕まえた! はっや! ダスターさんてあんな速く動けるんだね! めっちゃかっこいいじゃん!
「ダスターさぁん!」
「む……、大丈夫か?」
「は、はいぃ」
私は思わずダスターさんに抱き着いてしまった。
「あ、あー……」
「? なんです?」
もしかして照れちゃってます? えへへ……。
「鼻水とヨダレが……」
デリカシィィッ!!!!
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