084. オークキング
ついにオークキング、こいつさえ倒せればこのスタンピードはほぼ終わったも同然だ。そういう気の緩みもあったのかもしれない。オークキングへの1発目の攻撃で、俺の鉄剣は砕け散ってしまった!
ただの鉄剣ではあるが、先輩から譲り受けてそれなりに長く使ってきた剣だ。少しこみ上げてくるものがある。しかし、今は感傷に浸っている場合ではない。気を抜くと死んでしまう。
俺の背丈の2倍近くありそうな巨体が、右腕で横薙ぎに棍棒を振るう。相手が人型の場合、振るった方向と逆側に避けるのがコツだ。そうすれば自然と相手の背後を取りやすい。また、剣術や格闘術が自己流の奴は、横薙ぎ攻撃の後に脇腹があきやすい。このオークキングも横薙ぎの後は脇腹ががらあきだ。しかし、今は攻撃手段がない。
オークキングは他のオーク共とは違って攻撃の狙いがかなり正確だ。逆に言うと避けやすい。溜め動作も大きく狙いが分かりやすいとくれば、避けるのは簡単だ。後は何か攻撃手段さえあれば……。
周囲を確認すると、周りの動きが変わっていることに気が付いた。前衛は普通のオークやハイオークの殲滅を始めており、それまで数を減らすことを目的に放たれていた魔術攻撃は、数が少なくなったオークジェネラルの足止め目的で放たれているようだ。俺がオークキングとマンツーマンになってしまった影響で、前衛ではジェネラルの対処ができなくなったからか……。
「おい、ダスターとやら! サブマス殿から届け物だっ!」
視線を向ければ小さな木箱が投げられるのが見えた。オークキングの攻撃範囲を考慮してだろう、木箱はワザと少し遠くに向かって投げられている。俺は屈んで地面を手で掻き、オークキングの目に砂を掛けながら木箱に向かって走った。
木箱をキャッチして開けると小さな小さな剣が入っており、刃の部分がどこにも触れないように柄の部分で固定されている。
――これは、あの妖精が肉を食っていたときに使っていた剣か?
「それでオークキングの足の腱を切って動きを止めろってよ! できるか!?」
近衛騎士がサブマスの要求を伝えてくる。そう言や、この剣はめちゃくちゃ切れ味が良いとかザンテンが言ってたな……。刃渡りが俺の人差し指程度しかない小さな剣だが、刃さえ通れば足の腱くらいなら斬れるか?
「ああ、
「よし、頼んだ! 動きが止まったら矢で仕留めるらしい!」
「矢? 刺さるのか!?」
「知らんが、妖精の槍を矢じりにするとかって話だ!」
「そうか、なら
妖精の槍とは、妖精がこの剣で肉を食っていたときに肉を串刺しにしていた串のことだろう。あれも異常なほどよく刺さるって話だった。
俺は人差し指と親指で小さな小さな剣の柄をつまんで持った。この小ささだ、慎重に狙わないとな。俺はオークキングの攻撃を避けながら、相手の動きを観察する。
こいつはパワータイプだ。その力を上手く攻撃に乗せるために、軸足に体重が乗り過ぎている。そして軸足でない方の足は軸足から離れがちだ。足幅を広くとり重心を素早く移動させることで、巨体の遅さを補っているのだろう。
狙いは振り下ろしだな。振り下ろした際に軸足にほぼ全体重が乗っている。そして軸足でない方は、無防備に後ろに突き出される傾向にあるようだ。
横薙ぎを避け、足蹴りを避け……、そして……、棍棒を振り上げた! 右腕の振り下ろしがくる! 軸足は左か! 俺は相手の左足を中心に回転し、振り下ろしを避けつつ左足の腱を斬り付けた。なんだこの切れ味、全く抵抗を感じない!
オークキングは全体重の乗った軸足の腱を失い、体勢が崩れる。あとはその無防備な右足だけだ! すれ違いざまに右足の腱も切断、オークキングが倒れ始める。すかさず1本の矢が飛んできてオークキングの眉間に刺さった。
ズシィィィン!
「うおおおおおお!」
「やったあああああ!」
「ひゃっほぉ!」
周りから歓声が上がった。……終わったな。
「よくやった、英雄! 俺の予備を貸してやる、ジェネラルの殲滅も頼む!」
「わかった。さっくり終わらそう」
近衛騎士が投げよこした剣を受け取り、切れ味が良すぎる小さな剣を木箱にしまった。
そうして残ったジェネラルを俺が、オークやハイオークを他の前衛が殲滅し、王都のスタンピードは終焉を迎えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます