083. 尊厳

 素晴らしい、彼は正に英雄だ。王都に押し寄せたスタンピードは今のところ、ダスターさんと魔術師団長殿の活躍でなんとか対応できています。


「んぞおおおおあああああああああッ!!」

ズドォン!!



 辺境のスタンピード対策でギルドマスターを含めた多くの冒険者が王都を離れている間、サブマスターである私が留守を預かると言っても、本来は通常業務を淡々とこなすだけの予定でした。


 それがまさか、こちらでもスタンピードが発生して、少ない人員で対応しなければならなくなるとは。絶望的な状況でしたが、妖精様の采配により光明が見えてきました。妖精様が特に懇意にしていたダスターさんには、やはり特別な力が与えられていたのです!


「ぬらぼおおおおおおおおおおおおおッ!!」

ズドォン!!



 ここまでは全てが上手く回っていて、スタンピードも最早残り1/4をきったところでしょうか。しかし、まだオークキングが残っています。魔術師団長殿はまだまだ大丈夫そうですね。


 ダスターさんの状況を確認したいところですが、彼は最前線に居るためここからでは声が届きにくいでしょう。誰かに確認させるにも、1人だけ次元の違う戦闘を繰り広げているため、近づける者がなかなかいません。


「くぁっぺええええええええええええッ!!」

ズドォン!!



「ふぅ……」

ゴクリゴクリ


「のぅ、サブマス殿」

「なんでしょう?」


 魔術師団長殿が魔力回復ポーションを飲みながら話しかけてきました。戦闘がこの形に落ち着いた以降に、魔術師団長殿から話しかけられるのは初めてですね。どうしたというのでしょうか。


「ワシ、ちょっと腹がたぽんたぽんなんじゃが……」


「……! どれくらいもちます?」


「……今すぐトイレに駆け込みたいくらいじゃ」


「……小さい方ですか?」


「……大きい方」


「どうして! もう少し早くおっしゃられてくださらなかったのですか!? っと、来てます! 撃ってください!」


「え……、どんぐあああああああああああああああああッ!!」

ズドォン!!


「うっ」

「……!! 衛兵!衛兵!」


 これはマズイですね。このような事態、想定していませんでした。


「ど、どうされましたか!?」

「緊急事態です! 今すぐオマルを持ってきなさい!」


「え?」

「早く! あなたのオマルに王都の未来がかかっているのですよ!」


「は? はッ! 了解しました!」



「い、いやじゃ! 人前で脱糞しながら魔術を放ち続けるなんて! 戦場でもそんな鬼畜な指示はなかったぞい!?」


「そのご意見はごもっともです。しかし、ここも戦場ですよ。貴方の尊厳と王都の人々の命、どちらを優先すべきですか? ほら、来てます!」


「畜生め! んがああああああああああああああああッ!!」

ズドォン!!


「あ」

「……!!」



「サブマス殿! 持って参りました!」

「素晴らしい! 魔術師団長殿の下に設置してください! それからあなた達! 魔術師団長殿に背を向けて並んで囲みなさい! 魔術師団長殿の尊厳を守る盾となるのです!」


「……はッ!」

「しょ、承知しました!」

「おい、いくぞ……」

「ぇ……、わかった」


「魔術師団長殿! 早く放って!」

「それはどっちを?」


「魔術をです! 次が来てますよッ!!」


「ちょ、ちょっと待ってくれんかな!? お、お、よし、どっこいしょ……」

「早くッ!」


「ええい、くそがああああああああああああああッ!!」

ズドォン!! プリッ



 ふぅ、これで当面もつでしょう。後はダスターさんがオークキングを倒してくだされば全て解決の筈です。すこしばかり臭っても贅沢は言っていられません。


「ワシの、そんげえええええええええええええええんッ!!」

ズドォン!!



 いよいよ、ダスターさんがオークキングと交戦を開始しました。そのとき、またもや予想外の出来事が発生してしまいす。いや、これは予想しておくべきでしたね。ダスターさんがキングに攻撃を仕掛けた際に、彼の剣が砕け散ってしまったのです!


「ああっ!」

「おいおい、まずいんじゃ?」


 これはマズイですね。全体に動揺が広がってしまいました。このままでは士気の低下に繋がります。幸いダスターさんにダメージなどはなく、キングの攻撃を避け続けていますが……。


「ふんぬぅううううううううううッ!!」

ズドォン!!



 なにか手は、打開策はないでしょうか。まだジェネラルも残っています。ダスターさんに他の武器を与えられれば良いのですが、生半可な武器では駄目でしょう。ジェネラルでさえダスターさん以外では刃が通らなかったのです。キングはさらに硬いと予想されます。これまでは妖精様の布石でなんとかなってきましたが……。


「らんぞおおおおおおおおおおおおいッ!!」

ズドォン!!



 妖精様? 彼女は他に何か残しているかもしれませんね。何か、何か……。できれば非常に切れ味の良い武器があれば良いのですが……。まさか? いや、妖精様のおこないに全て意味があったとすれば……。非常に切れ味の良い武器、ありましたね。


「魔術師団長殿、魔術使用を殲滅目的から牽制に変更です! ジェネラルの動きを止めることに専念してください! それから皆さん! 残ったハイオークの殲滅戦を開始! ジェネラルの動きに注意しつつ事前説明どおり1体に対して5人以上で対応してください! 私は少し離れます」


「りょうかいじゃああああああああああッ!!」

ズドォン!!


 急げ急げ、アレはギルマス部屋に保管していた筈。誰か足の速い者に取りに行かせたいのはやまやまですが、緊急時と言えど部外者にギルマス部屋を漁らせたくはありません。


 ――間に合ってくださいよ!


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