081. 捕縛
ズドォン!!
はぁ……、はぁ……、あの妖精、魔術撃ちすぎでしょぉ!? 俺の横をぶっとい光の柱が通り過ぎていく。まったくもぉ、あともうちょっとで地図の範囲から出られる筈なんだけどねぇ。
ズドォン!!
当ててこないのはワザとかな? 死んだら情報を引き出せないと思ってる? それにしては撃ってる方向がバラバラだ。たぶんこっちが見えないもんだから、地図からおおよその位置に撃ちまくってるってところかな?
身を低くして走っていても、光が通り過ぎる高さは成人男性が直立していることを想定した高さだ。これなら極太魔術を撃たれても、その度に伏せればなんとか逃げ切れるんじゃないかねぇ。
この先には小さいが林があった筈。そこには当然魔物もいる。あの地図は魔物も赤い点で表示されていた。つまり林まで逃げ込むことができれば、魔物に紛れて位置を誤魔化すこともできるよねぇ。――っと!
ズドォン!!
うへー、当たったら即死、かすっても下手すりゃ致命傷だよこれ。でもま、当たらなければ意味ないよねぇ。狙いが高すぎるって……、ねっ!
ズドォン!!
ったくぅ! 撃たれる度にゴロゴロ転がされるこっちの身にもなってよ。でもま、もう林だ! 俺の勝ちだねぇ、と思ったんだけど……。顔を上げると目の前に妖精がいた。驚愕に身が固まる。
この妖精、後ろから魔術を撃ってたんじゃぁ……。まさか。振り返ると魔術を撃っていたのは侍女の方だった。あの侍女さん、こんなに射程があったのか! 聞いてないよ、まったく! しかも
「ザンテン! どうした、なぜ逃げる!?」
ギルマスか。あーぁ、囲まれてる。後ろに気を取られ過ぎた。あの侍女に魔術を撃たせまくっていたのは俺を仕留めるためじゃなくて、回り込んでいることに気付かせないためだったってか? でも、まだ俺の姿は消えてる筈だよねぇ?
「捕縛しろ! 絶対逃がすなよ!」
「分かってるわよ!」
「でもギルマス、見えないですよ! ホントにいるんですか?」
包囲網が狭まって来る。さすがに冒険者どもは警戒しているが……、戦い慣れてないのか侍女さんが無防備に近づいてきたな。あの侍女さんは妖精にとって、どうやら特別らしいからね。アイツを人質に取ることができればまだチャンスはあるかい?
「ひゃ」
「ほーら、動かないでよぉ! うぐっ?」
「ぴゃっ」
いけると思ったんだけど、妖精が泥水をぶっかけてきやがった。俺も侍女も泥まみれ、これじゃぁ丸見えじゃないか。
「いた!」
「ほんとに透明だったの!?」
「おいザンテン、無駄な抵抗はよせ!」
「いーや、まだ……」
言い終わらないうちに妖精から光が飛んできた。腕に違和感を感じてせっかく人質にした侍女を解放してしまう。なんだ、右腕がなくなってる……? こいつぁ……、これは、詰みだねぇ。はぁ。
「まってまって、降参だ。降伏するよ」
俺は透過の魔道具の効果を切って、両手を上げて投降する。直後、上げている俺の腕を妖精が吹き飛ばしやがった! イカレてるのかコイツ!?
たまらず俺は傷口を手で押さえる。――手で? 手がある。不思議に思って両手を見つめたその瞬間、また妖精が俺の腕を吹き飛ばした! おいおいマジかよ! マジで狂ってるじゃないかい! 見れば両手は何もなかったかのように付いていて、次の瞬間にはまた吹き飛んでいた……。
「や、やめてくれ! 投降するって! 全て話す!」
くっ、この妖精、首を傾げやがった! 今更言葉が通じない演技かよ! こんな奴相手にすべきじゃなかった! なにが街の人気者、なにが可愛い妖精さんだ! 悪魔じゃないか!
「あー、妖精殿。もういい、もういいぞ。――おい、捕縛しろ」
その後、俺は捕縛されて馬車まで連れ戻された。見ればノスが簀巻きにされ転がされている。生き残っていた1人はノスだったのかい。意識はないが目立った怪我もなさそうだね。
「で、なぜ逃げた?」
「さぁ、なんででしょうねぇ」
ギルマスと4人の冒険者、それから侍女と妖精に囲まれて尋問が始まった。
「こいつ全く反省してないじゃない。もっかい腕斬ってやったらどうだい?」
「いいねー、妖精さんにまた生やしてもらえば斬り放題じゃない?」
「くっ……、どいつもこいつも狂ってるねぇ。まぁ、俺を捕まえたところでアンタらの負けは決まってるのさ」
女冒険者2人が好き勝手言ってきちゃうけど、どうとでも言えば良いさ。どうせここまで妖精を引っ張ってこれた時点で、俺達の勝ちだからねぇ。
「どういうことだ?」
「辺境にスタンピードなんか起きちゃぁいない。本当のスタンピードは王都で起きるんだ。アンタらが帰った頃にゃ、王都は壊滅ってワケ。さらに同時に帝国が王城を落としてる筈さ。いくら俺を捕まえたところで、王国が無くなっちまえば俺は晴れて無罪放免」
「王都でスタンピードに城攻めだとぉ!? おまえッ! 帝国に繋がっていたのか?」
「あっはー! 今頃気付いたのかい? 滑稽だねぇ!」
6年だったかな? 6年も全く気付かれなかったもんねぇ、滑稽以外の何者でもないでしょうよ。
「くそが!」
「ぐっ! くく、捕虜に暴力はいけないんじゃ……、うわ、やめろ! その妖精を俺に近付けるな! やめてくれ!」
俺の目の前に妖精が飛んでくる。こいつはマジでやべーやつだ。体が震えてきやがった。今はくっついてる腕が疼く。
本当にこの妖精をここまで引っ張ってきただけで帝国は王国を乗っ取れるのか? あんな極太魔術をポンポンぶっぱなされるんじゃぁ、帝国兵が何人いても勝てやしない。
「なんだ、大人しくなったじゃない。アンタ妖精さんが怖いの? ほーら、妖精さんよぉ」
「やめろ、やめてくれって!」
「あっはははは!」
「おい、遊んでる場合じゃねぇ。今後のことを決めるぞ」
「ああそうね。で、急いで王都に戻るの?」
「いえ、
「そうだな、確かにそうだ。だが、その妖精なら1体でも壊滅的な状況をひっくり返せるんじゃないか? 辺境伯軍を引っ張って来るには状況説明をして辺境伯を説得、それから軍備の整えってやってると、かなりの時間がかかっちまうぞ」
「あー。じゃぁさ、2手に別れたら? 妖精さんを連れて王都に戻るグループと、辺境伯軍を呼んでくるグループ」
「――よし、それでいくか。しかしザンテン、長い付き合いだったが、本当に残念だ。今まで散々頼っちまったが……。冒険者に国境はねぇ。だから帝国に行ったりするのは全く問題ない。が、国盗りに加担するのは重罪だぜ、なぁ」
「け、んなことは知ってますって……」
あー……、どうしてこうなった? たとえ帝国軍が王城の占拠に成功しても、こんな小さな妖精が1匹突っ込むだけで全て取り返されるんじゃないかい? いつから計画が狂っていたんだ? いや、そんなことは分かりきってるって。
このクソ妖精が現れてからだよねぇ。
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