080. 逃がさないよ
何日も何日も馬車で進んできて、そろそろ本当に飽きてきた。何か娯楽がないと本当に耐えられないよ!
娯楽に飢えた私は早朝、まだ鳥籠メイドさんが寝ている間、鳥籠メイドさんの腰のリボンにオモチャのカエルを仕込んだ。そして鳥籠メイドさんが屈むとカエルが跳び出すように調整する。
鳥籠メイドさんはびっくりするほど姿勢が良い。いつもピーンと背筋が伸びていて、それは座っているときもなのだ。もはや背骨に関節がないのでは?と疑うレベルだよ。
でもそんな無関節鳥籠メイドさんでも腰を曲げるときがある。食事の準備をするときだ。この世界は魔法があるからか、馬車旅でも食事
そんなとき、いつも超真面目な鳥籠メイドさんの背中からオモチャのカエルが跳び出たらどうなるか? 女性冒険者は大ウケだ! でも、鳥籠メイドさんはお城の人間。庶民の女性冒険者がお城の人間を指さして爆笑するなど許されまい! いや、許されるかもしれないけど、ここは許されないと仮定しよう。
そうするとどうか。何も知らない鳥籠メイドさんと、絶対に笑ってはいけない女性冒険者! はいおもろー! 採用です。
日が出て朝になり、いよいよ朝食準備かと思っていたのに、筋肉オバケが指で四角を作って見せてくる。どうやらマップを出してほしいらしい。
最初意味が分からずシャッターチャンスなのかと思ったんだけど、この世界にはたぶんカメラはない。少なくとも見たことない。シャッターチャンスじゃなければ何だろう、四角くて私が筋肉オバケに何かしたことがあるモノ。試しにマップを出したら当たりだったみたいで、その後はマップを見たいときのサインになってしまった。
ほら、マップだよ。筋肉オバケとナヨ冒険者がマップを覗き込んでいる間、鳥籠メイドさんと他の冒険者たちが食事の準備に行ってしまった。あー!爆笑カエルドッキリを見逃しちゃうよ! 早く終わってくれないかな!? ナヨ冒険者が女性冒険者を呼び寄せて話し込んでしまう。これ、話長くなるヤツ?
私は筋肉オバケたちがマップを見終わったらすぐに鳥籠メイドさんのところへ行けるように、マップで鳥籠メイドさんの点を目で追った。しばらく見ていると……、あれ? 赤点が1つ消えた? 赤点が消えるってことは何だ? 死んだ? え、マジで?
ヤバい、ドキドキしてきた。見てるとナヨ冒険者が鳥籠メイドさんたちの点が見えないように移動してくる。おい、邪魔だよ。気付いてないの? 筋肉オバケたちも進行方向ばかり気にしているみたいだし。あ、また赤点が消えた。
これはマズイ、考えている場合じゃないよ! 私が鳥籠メイドさんの方へ飛ぶと、冒険者は剣を抜いていて鳥籠メイドさんを襲おうとしている!? なんで? そして鳥籠メイドさんがうずくまり、カエルが跳び出た!
いやいやいや、望んでたのは起死回生の一手とかじゃないから! ドッキリ大成功だから!
剣を抜いて、相手の女性がうずくまっている。言い訳のしようがない、よく見れば鳥籠メイドさんの腕が斬られてる!? おのれ、有罪確定! 排除!排除ーッ!! 私は感情のまま攻撃魔法をぶっぱなした。
すると極太レーザーが出てしまった! うわー!? そんな太いの出るぅ? やっべ、殺してしまった? 人殺してしまったのか……? うわー! とりあえず鳥籠メイドさんの傷を癒して、冒険者は……、体が残ってないから無理か。光がドバーッと出たら相手が死んだから、殺した感触がない。でもどうしよう。冷や汗が出てきた。
いや、よく考えろ。私が来る前からすでに赤点が何個か消えていた。と言うことは、鳥籠メイドさんが殺したのだ。つまり相手を殺さなければ鳥籠メイドさんが死んでた可能性がある。よって正当防衛! ゆえに無罪! 閉廷!
うわ、今気づいた。なんか男が1人ビチビチ飛び跳ねてる。キモ。あ、これ裏路地マンか。後から走ってきたみんながビチビチ裏路地マンを拘束した。ビチビチが止まり、ただの裏路地マンに戻る。
そして裏路地マンから落ちたネックレスを鳥籠メイドさんが回収して装着した。私があげたヤツだ! 付けててくれてたのか、嬉しいね。
あ、つまりあれか? この男らは私があげた鳥籠メイドさんのネックレスを盗もうとしたのか。あー、いつも悪意みたいなのが出てたからねぇ。
む、悪意と言えばもう1人いたな。ナヨ冒険者だ。アレも排除した方が良いんだろうか? いやいやいやいや、まてまてまてまて。
こんなことがあったから気持ちが高ぶって思考がダークサイドに落ちかけている。私が初めてお城に行ったときや、初めて冒険者ギルドに行ったとき、私を捕まえようとしてきた人たちのほとんどから悪意のようなものが出ていた。
つまり悪意のようなものが出ているイコール、悪人と決めつけるのは駄目な気がする。もしそうだとすれば、お城の人や冒険者たちは、ほぼ全員悪人だったことになってしまうからね。
それより鳥籠メイドさんだ。こんな中世みたいな世界で女性を1人にすべきじゃなかった。日本の感覚が抜けきってなかったよ。少なくとも帰るまでは私が付きっきりにならないと!
私は鳥籠メイドさんのエプロンドレスのポケットに入った。帰るまでもう離れないよ! ――と思ったけどここは駄目だ! 揺れる! スカートがファサッってする度に吐きそうになる! えーと、どこか良いところは……。私は鳥籠メイドさんの胸とエプロンドレスの間に挟まった。うむ、ジャストフィット!
あれ? そう言えばナヨ冒険者どこ行った? いないよ? 私はもう1度マップを出してみる。ちょっとちょっと、めっちゃ離れたとこに移動してんじゃん! もうめっちゃ逃げてます状態だよこれ! 怪しい、逃げるなんて怪しい!
逃がさないよ。
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