074. スタンピード

「ふぬぉおあばあああああっっ!!」

ズドォン!!


 王城の魔術師団長殿の絶叫とともに大きな炎の筋がオークの群に飛んで行き、2~3体のオークが吹き飛んだ。王都近郊にスタンピードが発生したと知らせが入ってから2日後、オークの群はついに王都に到達したのだ。


「のぁぐどおおおおっっ!!」

ズドォン!!


 妖精の影響で目が良くなった俺は、西門上の見張り台から全体を見渡し、状況を逐次サブマスに伝える役割に就いている。総指揮はサブマスだ。


 西門の衛兵の一部は古傷が治り戦えるようになっていたが、それでも大半が傷病兵のままであり、スタンピードの中ではまともに戦えない奴が多い。それを補うため、東門と南門から応援を呼んでいる。また、街中の治安維持担当の衛兵も大半がこの場に居た。さらに、王城から魔術師団長1人と近衛騎士5人が参戦している。もちろん冒険者も軒並み参戦しているが、王都に残っていた冒険者は30人程度だった。


「おんじゃぁあああああッ!!」

ズドォン!!


 2日の余裕があったため俺達はそれなりに準備ができた。この2日でサブマスと受付嬢は、妖精ポーションと通常回復薬を使用する基準を決め、街の治療院職員に周知徹底させていた。


 士気を上げるためにサブマスは妖精ポーションが大量にあると喧伝していたが、実際には薬師ギルドの倉庫1つ分しかない。スタンピード対策に戦闘要員で集まった奴ら全員に、1人5回も使ってしまえば無くなってしまう量だ。よって負傷の程度で、手当だけで済ますレベル、通常回復薬を使用するレベル、妖精ポーションを1/4与える、1/2与える、1瓶まるまる与えるといった基準を作っていた。


「うばるぁああああああッッ!!」

ズドォン!!


 同時並行で街中の一般人の避難や、避難場所の設置、受け入れ準備、また西側の封鎖や既に街の外へ出ていた一般人の回収など、様々なことが行われた。この場には居ない受付嬢も、今は避難場所で一般人の対応をしている筈だ。


「だばぁあああああああッ!!」

ズドォン!!


「ふぅ、もう1本」

ゴクリゴクリ……。


「ぷはぁ! ぬおおお、力が漲ってきおるわ!」


 2日前の対策会議の後、薬師ギルドの倉庫から回復ポーションと同じだけの魔力回復ポーションが発見された。そのため、今回のスタンピード対策は魔術師団長に魔力回復ポーションを使用してもらいながら、城壁から絶えず魔法を撃ち続けてもらうというのが作戦のかなめとなった。


「いぐぅわああああああッ!!」

ズドォン!!


「すげぇ、さすが王国の悪魔って呼ばれるだけあるぜ……」


「ああ、今は歳のせいで戦場には行かなくなったらしいが、昔はバンバン敵を吹っ飛ばしてたらしいな。話盛ってると思ってたが、実際見るとすげぇ……」


「そうだな。てっきり悪魔のように絶叫するから、王国の悪魔って呼ばれてると思ってたぜ。こんなん敵で出てきたらマジ悪魔としか思えん」


「でも味方だからな! 頼もしいぜ!」

「そうだな!」


 今王城に残っていてまともに攻撃魔法を使用できるのは、高齢のため戦場に行っていなかった魔術師団長殿1人しかいない。王都に残っている他の魔術師団員は、スタンピードで役立つほどの魔術を扱えないのだそうだ。しかし1人だけでもこの戦力。最初はブルッていた新人冒険者達も次々に吹き飛ぶオークを見て、今は余裕そうにしている。



「ぜすとぉおおおおおおおっ!!」

ズドォン!!


「あそこ、右だ。2体漏れた」

「右2体です!! 5人ずつ10人で対応してください!」


 今のところ作戦は上手くまわっている。魔術師団長殿が打ち漏らしたオークを俺が確認して、サブマスが全体に指示する。普通のオークなら複数人で囲めばなんとかなるようだ。ハイオークの場合は練度の高い東の奴らが、それでも危ない場合は近衛がカバーする。しかし、違和感が……。


「ざばあああああああああッ!!」

ズドォン!!


 弱い。皆妖精の影響で強くなってたんじゃないのか? これじゃぁ、普通と変わらない。もしかして強くなったのは俺だけ?



「そろそろ来ますね……」


 サブマスターがつぶやく。オークジェネラルが魔術師団長の射程圏内に入ろうとしていた。ジェネラルに魔法が有効かどうかで、このスタンピードを楽に乗り切れるかどうかが決まると言っても過言ではない。さてどうなる……?



「きょぇえええええええええッ!!」

ズドォン!!


「まずい、効いてない!」

「東組、ジェネラルを迎え撃ってください! 魔術師団長殿はそのまま、敵の数を減らすことに専念して!」


「いくぞ!」

「うおおおおお!」


 練度の高い東の奴らが勇ましく迎え撃つが、まずいな……。ダメージを与えられていない。



「下がれ、代わる!」

近衛がカバーに入るが……、駄目そうだ。



「抜けた、まずいぞ」


「むむ!? この……」

「駄目だ魔術師殿! 俺がカバーに入る、魔術師殿は数を減らすことを優先で!」


 行くしかない、討伐が苦手だなんて言ってられないんだ。俺は見張り台から飛び降りて、抜けてきたジェネラルを迎え撃つ。普通は見張り台から飛び降りようものならそれだけで大ダメージだが、妖精の影響のおかげで問題なく着地できた。



「ダ、ダスターさん!?」


 新人が何か言ってくるが、今はそれどころじゃない。ジェネラルが腕を振り上げるのが見える。大丈夫、見えてる。ジェネラルが右手を振り下ろすと同時に左に避け、相手の右懐へまわる。そんな太い腕をしていればこちらは死角だろう? 人型をしているのがお前の敗因だな、対人と同じ対処が通じるぞ。


 ジェネラルはこちらに振り向きざま右腕を振るってくるが、それをかがんで避けつつ斬り付ける。いけた、ただの鉄剣でもダメージを通せる。なら、簡単だッ! 返す刀でジェネラルの首を刎ねた。


「す、すげぇ!」

「え、ダスターさんてあんなに強かったのか!?」

「おおお!」


「皆さん、気を抜かないで! 次が来てますよ!」


 もう1体ジェネラルが来たか。オーク戦は初めてだが、筋肉の付き方は人と同じように見える。なら、こっちに腕は曲げられないだろ? そのまま死ね。


「うおおおお!」

「ダスターさんすげぇえええ!」


「ぷぎぃいいいいいいいいいいいいいいッッ!!」

ズドォン!!



「すごいなお前!」

近衛の1人が話しかけてくる。


「あ、ああ」

「なんだ、もっとシャキっとすればかっこいいぞ」


 そんなこと言われてもな、俺は話下手なんだ。できればほっといて欲しい。



「あばああああああああッ!!」

ズドォン!!


「ダスターさん! そのままオークジェネラル100体いけますか!?」


 サブマスが問いかけてくる。さっきのを100回か……。2~3体いっぺんに来ても大丈夫だろう。問題は、この戦い方をどのくらいの時間続けられるかだ。くそ、こんなことになるなら、討伐が苦手とか言っていないで力の確認をしておくべきだった。情報収集を怠った奴から死んでいくって先輩も言っていたのに……。しかし、ここで無理なんて答えれば士気が下がる。


「あ、あー、たぶん、大丈夫だ」

「おいお前、その答えは駄目だぞ」


 なんだ? 近衛が駄目出ししてくる。


「今はお前がかなめだ。今、お前は英雄なんだよ。自信を持て。お前の言動1つで士気が変わる。お前の言動1つでこのスタンピードを乗り切れるかが変わってくるんだぞ! ウソでも『絶対・・大丈夫、全く問題ない・・・・・・』と言え!」


 む……、自信、自信か……。俺に足りなかったのは、技術でも若さでも強さでもなく、自信だったのかもな……。そうだ、100体ならいけるんじゃないか? きっと大丈夫だ。いや、絶対・・大丈夫だ!



「ほげえええええええええッ!!」

ズドォン!!



 ――よし。


「大丈夫だ! 全く問題ない・・・・・・!」


「了解です! 頼みましたよ! さっそくですが、次が来ます!」


「ああ、任せておけ! 絶対・・倒してみせる!」


 こうなったら、とことんやってやろう。多少ミスっても妖精様のポーションがあるんだ。絶対・・大丈夫、全く問題ない・・・・・・


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