073. 妖精様はお見通し
「あ、ダスターさん! ちょうど良かった、さっきサブマスも戻ってこられたところですよ!」
私たちがギルドカウンター内側で状況確認をしていると、ようやくサブマスが、そして少し遅れてダスターさんも戻って来た。ダスターさんの後ろには新人パーティーも付いてきてるね。
「あ、ああ、負傷した冒険者はこいつらだった。この通り、今は問題ない」
「それは良かったです!」
「おお、無事でしたか! それでは、申し訳ないですが最初からざっと、おさらいさせてください」
サブマスが進行を変わってくれたよ。良かったぁ、これで私のお仕事はほとんど完了だよね。
「まず、王城に連絡は?」
「別の人間が知らせに走っている」
サブマスの質問に門番さんが簡潔に答えます。
「ではそちらの5人、まずは無事でなによりでした。それで、スタンピード発生と衛兵に報告したとのことですが、状況および何故スタンピードと判断したかを説明してください」
「お、おぅ。あ、いえ、はい! えーと……、俺達は"初心者の林"に向かっていたんだ」
負傷して戻った5人の話によると、この5人は初心者の狩場として定番の西の林に向かっていたらしい。ややこしいんだけど西の森とはちがって、もっと王都寄りに"初心者の林"と呼ばれるそれほど広くない林があるんだよね。その林に向かっていたら、林の中からオークの群れが出てきて襲われたって。
「オーク500体が突然林から出て来たのですか? 初心者の林は貴族が兎狩りをすることもあるほど安全で、とてもオーク500体が出てくるような場所ではありませんよ」
「で、でも見たぜ!」
「ああ、俺たちは嘘なんて言ってねぇ!」
「いえ、嘘と言っているのではありません。……話を進めましょう。ダスターさん、西門の様子はどうでしたか?」
「あー、オーク500って話だったが、1000近くいた。半分近くがハイオーク、ジェネラルが100ほど、それからオークキングを1体確認した」
「え、ええーっ!?」
「なんだと!? 1000匹のオークにキングまで?」
「ほ、本当に?」
「おいおい、西門からはまだ魔物を目視できるほど近付かれてなかった筈だ。どうやって確認したんだ?」
ダスターさんの報告に門番さんが言い返した。確かに、目視できる距離ならもうとっくに相手の数まで報告が回ってて良さそうなものだけど、こんなに具体的な数字は初めて出てきたよ。
「いや、見えたとしか……。妖精の影響で目も良くなったみたいなんだ」
「本当か? いや、妖精か。なら本当だろうな。西門の先輩方も妖精のおかげで古傷が治ったとか騒いでいたよ」
それ、私も聞いたよ! 他にも街の人で妖精の近くに行った人は、体の調子がどんどん良くなってるんだって! 私は逆に、良くないことがどんどん起こってるんだけど!
「なるほど、まずは事実として話を進めましょう」
「それから……、薬師ギルドの若いのが持ってきたポーションで、そっちの2人が全快した。1人は瀕死だったのにだ」
「そうだ、あれは凄かったぜ!」
「ああ、コイツもう絶対死ぬと思ってたのに……。うう、泣けてきた」
「本当、助かった」
「良かったぁ、ボクくん間に合ったんですねぇ」
「ふむ、そのポーションが、リスティさんが薬師ギルドで見つけたというポーションですか」
「たぶんそうです、薬師ギルドの倉庫の棚いっぱいにありましたよぉ! 今薬師ギルドの人たちに20個を西門に運んでもらって、2棚分を冒険者ギルドに運ばせてます。そっちに置いてあるヤツがさっき運ばれてきたポーションですね。まだあるので往復させてますよぉ」
「ああ、確かにそれと同じモノだったな」
「……これですか。薬師ギルドはポーションの在庫なんて無いとずっと言っていたのですがね。どういうことでしょう?」
「私が行ったときも無いって言ってましたねぇ」
「おいおい、薬師ギルドがポーションを隠してたってのか?」
「いえ、この瓶の妖精の羽のような模様、それに異常な回復効果……。そういうことですか」
なんだかサブマスが全て悟った!みたいな顔をしてうんうん頷いてる。サブマスはいつももったいぶった話をするんだよねぇ。なんだか賢いアピールみたいでイラッとするときがあるよ。
「もー、なんですかぁ? もったいぶらずに説明してくださいよぉ!」
「そうですね。全ては妖精様の想定通り、ということなのでしょう」
「妖精ぇ? どういうことなんですかぁ?」
妖精といえばあの妖精でしょ? あんまり良い印象ないんだけどなぁ……。
「まず、今回のスタンピードはおそらく人災です。人為的に起こされたのでしょう」
「ええーっ! 本当ですかぁ!?」
「なんだと!?」
「まさか! スタンピードなんてどうやって人が起こすんです?」
「手順は分かりません。しかし誰が起こしたか、であれば帝国でしょう」
「帝国!」
「あー」
サブマスの犯人断定に私たちは全員納得した。やりそうだよね、帝国なら。
「まず、西の林のような狭い場所では、オーク1000匹どころかゴブリン50匹規模のスタンピードすら起こらないでしょう。そもそも王都近郊にオークは分布していません。それから西というのも作為的です。西の門番が居る前で言うのは何ですが、王都の衛兵で西門が1番練度が低い」
「む……、確かに西は傷病兵の掃き溜めみたいな側面がある。練度が低いのも事実だ。東では許されない問題も、西では特に問題にならない場合が多いしな」
サブマスの西はダメ発言に、西門の門番さんが真顔で同意した。ええ、西門ってそんな状態なの? 東隣は帝国だけど、西隣は友好国だからかなぁ?
「犯人が帝国と思われるのは、"双子神"様の氾濫の数日前に帝国間諜が大量に捕まった件からの推測です。捕まった人数から、帝国が近々停戦協定を破るのではと話が出ていましたね」
あー、そう言えば久々に雨が降った翌日、お城の騎士さんたちがいっぱい
「その帝国間諜大量捕縛は、妖精様が街に出たことがきっかけになったと聞いています。おそらく妖精様は、帝国間諜の存在を我々に知らせるために
「む、それはただの推測では?」
「確かに、それ1つ取ると推測の域をでませんが……。このポーション、これもおそらく妖精様が用意されたモノでしょう。瀕死の人間を一瞬で完治させるなど、いくら高価なポーションでもおそらく不可能です。聞いたことがありません。それほどの効果であれば、まさに伝説の霊薬の類ですよ。人間には用意できません」
「えー、つまり、妖精が今回のスタンピードを予測してポーションを大量に置いて行ったと?」
「そうです。王都に雨が降るようになった以降で氾濫の少し前、私は実際に薬師ギルドの倉庫をこの目で確かめていますが、そのときには本当に倉庫はほぼ空っぽでしたよ。つまり、それ以降に妖精様が用意されたのでしょう」
「むー。あの妖精、辺境のスタンピードの知らせがあった日、私をお城に道連れにしたんですけど、あれも何か意味があったんですかぁ?」
「それはおそらく、アナタに場数を踏ませるためだったのでしょう。辺境に大人数が移動することと、その後に王都にもスタンピードが発生することを予見していた妖精様は、王都に残りそうな人材で、でも経験が足りなさそうなアナタをお城に連れて行ったのです。そうすることで、身分の高い人間とのやり取りに慣れさせたのでしょうね。リスティさん、事実アナタは私が不在の間、見事な立ち振る舞いをしてくれました」
「え、ええ? えへへ。でも……、あのお城拉致にそんな意味があったなんて……。あ! じゃぁじゃぁ! 冒険者ギルドに初めて来た日は!? 大暴れしてましたよ!?」
「それはまだ確証を持てないのですが……、おそらくダスターさんを見出したんでしょうね」
「は? 俺か?」
「ええ、アナタは冒険者では誰よりも妖精様と交流を持っていました。そして、主要な人材が軒並み不在となってしまった状況の中、それでも王都に残っている……。偶然とは思えません。何か妖精様から託されたか、他の人よりも強く影響を受けたようなことはありませんか?」
「い、いや……。そりゃ、俺も古傷は治ったし体の調子もすこぶる良い。でもそれは他の奴らもなんだろう?」
「確かに妖精様の影響で調子のよくなった者は多いですね。ああ……、でもそうですね。その目かもしれません」
「目?」
「目ぇ??」
「ええ。ダスターさんには見えたのでしょう? 西門の衛兵が見えなかったオークの数と種類の構成が」
「あっ!」
「あー!!」
「おお、なるほど。だから俺達が見えなかったオークが見えたのか!」
「す、すごい! 妖精すごーい!!」
「ああ、妖精すげーな!」
「おお、絶望的な状況だと思ってたけど、なんか無事に乗り切れる気がしてきたぜ!」
「そうだぜ! なにせ瀕死になっても全回復できるポーションがまだまだいっぱいあるんだろ!? それだけでも安心感が全然違うじゃねーか!」
「ああ! これ、いけるぞ!」
「うおおお、やってやるぜぇ!」
すごい! みんなの士気もめちゃくちゃ上がったよ! これも妖精、いや、妖精様の効果!? すっごーい!!
妖精様はなんでもお見通しなんだ!
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