072. ポーション
「しっかりしろ、大丈夫だ! 今回復薬を取りに行かせてるからな!」
「あぁ……、う……」
俺は西門に着くなり衛兵たちに話しかけようとしたが、非常に話しかけにくい。しかし話しかけない訳にもいかないだろう。
「あの、ちょっと良いか……?」
「なんだ!? 今忙しいんだ! お前冒険者か? 回復薬を持ってきてくれたのか?」
「いや、そうじゃなくて……」
「じゃぁ、なんなんだ!」
あー、しまったな。怒らせてしまった。
「ダスターさん!」
「あ、ああ、お前たちだったのか……」
怪我をした5人パーティーの冒険者は知り合いだった。まぁ、王都を拠点にしている冒険者はほぼ全員知り合いだ。特に親しかった訳じゃないが、知り合いが大怪我をして戻って来るのを見るのはいつまで経っても慣れない。
見れば1人はもう手遅れに思える。彼らはまだ若い。駆け出しが調子に乗って死んでいくのはごまんと見てきたが、今回のは完全に想定外だ。運が悪かったとしか言いようがない。なんと声を掛ければ良いか、俺には分からなかった。
「……わるい。ちょっと上に登らせてもらう」
その場に居づらくなった俺は、街門の上に2つある見張り台の1つに登った。見張り台の上には既に衛兵がいて遠くを見つめている。
「スタンピードと聞いた。もう見えるのか?」
「む、冒険者か? 遠くにうっすら見えるぞ。でもまだ何かが群れている程度にしか見えない。負傷して帰還した冒険者の話じゃぁオークってことだが、まだ1日か2日は余裕がある筈だ」
「そうか……」
俺も衛兵が見ていた方向を見る。なんだ……? 見えるぞ? あんなに遠くなのに問題なく見える。これも妖精の影響なのか? 確かにオークだ。500って話だったが、1000近くいるんじゃないか……。しかも半分近くがハイオーク、それにオークジェネラルが……100ほど、オークキングまでいる。まずいな。
「なるほど。俺は1度ギルドに戻るんだが、他に情報はないか?」
「いや、俺は特にないな。下に居る冒険者の方が詳しいだろう。訊いてみたか?」
まだ衛兵も詳しい情報を聞き出せてないのか。それとも情報が行き渡っていないだけか? どちらにしても下の奴らにもう1度話しかける必要があるな……。
「まだだ。訊いてみる。ありがとう」
そう言って俺は下に戻った。するとちょうどそこに、箱を抱えた若い男が1人走ってくる。あの服装は薬師ギルドか。回復薬を確保できたようだな。
「すみません! ポーション持ってきました! 怪我人は……」
「良かった、こっちだ! コイツを助けてくれ! 頼む!!」
「うわぁ……。えと、もう……。いや、そうですね」
仲間の冒険者が薬師の若い男を呼ぶが、薬師の男は驚愕して手が震えている。それだけ酷いのだ。正直今更ポーションを使ったところで……。
「おおおお!」
「すごい!」
「う……、ここは……」
なんと、ほとんど瀕死だった奴が一瞬で治った? すごい、起き上がってるじゃないか!
「やった、よかったな! 助かったんだぞ!」
「頼む!こっちの奴も助けてくれ! お願いします!」
「は、はい!」
「うおおおお、なんだその効き目!?」
「治った! おい、俺がわかるか? 街に戻れたんだぞ!」
「すげぇ……」
「お前、薬師ギルドか? 薬師ギルドってぇのはすげーんだな!」
「え……、え? いや、なにこの効果、あり得ないですよ。こわ」
「はぁ? まぁ、お前まだ若そうだしな! お前んとこの先輩らはすげーってこったな! がっはっは!」
「え? ええ?」
「ありがとう! ありがとうございます! おかげで仲間が助かった!」
「あ、はい」
なんだあの反応。確かに異常な効果だったが、あのポーションは薬師ギルドが用意したんじゃないのか? まぁ、とりあえずこの場はおさまったか。早くギルドに戻らないとな……。
「お前たち、悪いが動けるようなら冒険者ギルドに来てもらいたいんだが……」
「あ、ダスターさん。どうだ、お前。ギルドに行けるか?」
「ああ、全く問題ない。むしろ調子が良いくらいだ」
「俺もだ。人生で今が1番最高なくらい体が軽いぞ!」
「え、なにそれ。こわ」
薬師の男が最後にボソリとつぶやいた。
酷い怪我だった2人は完治したが、軽傷だった3人はそのままだ。おそらく異常な効果に対価を支払えないと思ったのだろう。無理もない。しかし手当は受けていて動くには問題なさそうだ。よし、5人とも連れて行くか。
「じゃぁ、急いでギルドに向かうぞ」
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