071. 新たな知らせ

「ダスターさん、結局参加しなかったんですね」


 ダスターさんは今日もいつも通り、ギルド併設の酒場で飲んだくれていた。今は南のスタンピード対策で緊急依頼が出されていて、ほとんどみんなそっちへ出払っている。4日前に本隊も出発して、ギルド職員も何人かは付いて行ったんだよね。


 だから今は先輩もいない。サブマスは王都に残ったけど、なんだか色々あるらしくて今はギルドに不在だった。なので、今現在ギルドの1階には私とダスターさんしかいないんだ。2階には事務員さんがいるんだけど、ほとんど下りて来ない。緊急依頼に行かなかった冒険者たちも、今は別依頼やら何やらで不在だった。


「あ、ああ。俺は討伐任務向きじゃないからな」


「もー、ちょっと前に魔物討伐もしてたじゃないですかぁ。今回は下位ランクの人たちも行ってるんですよぉ?」


「いや……、妖精の影響で皆調子が良いんだろう? 俺がいなくても大丈夫さ」


「もー」


 ダスターさんはほとんどギルドに居て数日に1回くらいしか依頼を受けないけど、その達成率はほぼ100%だ。馬鹿にしている人も多いけど、評価してる人も多い。聞けばノウハウをしこたま溜め込んでて、効率的に動くという点においては右に出る者はいないらしい。こんなに口下手なのに、新人さんも質問してたりする。



 ダスターさんとそんなやりとりをしていると、突然ギルドに人が走り込んで来た。


「た、大変だ! スタンピードが発生した!!」


「えー、知ってますよぉ? 大丈夫です。今みんなで対策に行ってますし」


 この人は確か……、西門の門番さん? なんで今更そんな報告しに来たのかなぁ?


「ちがうちがう、そっちのスタンピードじゃない! 王都のすぐ西で別のスタンピードが発生したそうだ! 怪我人もいる。回復薬とか残ってないかい?」


「ええー、大変じゃないですかぁ! 回復薬はぁ、ギルドに残っていたのはほとんど南の遠征に持って行っちゃったんですけど、傷の具合はどれくらいなんですか?」


「重体1名、重傷1名、軽傷3名。重体1名は間に合わないだろうが、普通のポーションなら10個近く欲しい」


「じゅ、重体! えーと、怪我人は西門にいるんです? スタンピードの規模は?」


「そうだ、怪我人は西門にいる。規模は……、冒険者たちが言うにはオークが500はいたらしい」


「オークが500ぅ!? 王都付近にオークは分布してませんよ!? えーと、それで回復薬10個ですよね」


 ギルドにはもうそんなに回復薬は残ってない。治療院もなけなしの回復薬を分けてもらったばかりだ。あるなら薬師ギルドだよね……。その前にスタンピードの対策を始めないと! あわわ……。


「ダスターさんダスターさん! 2階の事務員さんを全員呼んできてください! 全員ですよ! その後は西門へ状況確認してすぐ戻ってきてください! 行き帰りで他の冒険者に会ったら緊急招集でギルドに行くよう指示してくださいね! 私は薬師ギルドにポーションが余ってないか確認してきます!」


 えーと、えーと、それから……。


「門番さんは事務員に詳細を伝えて! サブマスがたぶんもうすぐ戻ってきます。会議の準備を降りて来たギルド職員に指示しておいてください! では!」



 急げ急げ、私は薬師ギルドに走った。


「大変、大変ですよ!」

「なんだね、騒がしい」


「王都西で新たなスタンピード発生です! 怪我人がいるため余っているポーションを全部出してください! 強制です!」


 有事の際には冒険者ギルドは優先的に物資を使用できる制度があったハズです。


「冒険者ギルドの職員かい? そちらのサブマスターにも言ったがね、ウチもポーションの在庫はないと伝えておるではないか」


「そんなことは分かってますよぉ! 妖精の粉に夢中で入荷を忘れてたんでしょぉ!? あげくその粉も盗まれちゃったって話じゃないですかぁ! それより本当に1個もないんですかぁ? 行きますよ、倉庫!」


「あ、ちょっと」


 薬師の若い人が付いてきます。その後ろからさっき偉そうに応対してくれたおじさんも付いてきてますね。


「こっちですか? 地下? 開けてください、ほらほら早く!」

「待って待って、今ボクが開けますから」


 そうして私達は地下の倉庫に下りた。


「あるじゃないですかぁ!! あるじゃないですか、こんなにいっぱいぃ!」


「え、ええ~!? 確かに前回確認したときはすっからかんでしたよ? 師匠、いつポーションを入荷したんです? 作ってはいなかったですよね?」


「んん~、ワシも知らんぞ!?」


「今は! そんなこと! どうでも良いんですよぉ! 運びますよ! 手伝ってください」


「待って待って、こんなポーション見たことない。効果が分かりませんよ?」


「効果ぁ?」

私は腕を爪でひっかいた。ポーションを掛ける。


「治った。効果あり! 効力は分かりませんが治りが異常に早い。ないよりマシです! そっちのボクくん、あなたは20個持って西門に行ってください、怪我人がいるから急いで!」


 門番さんは10個あればと言っていた。効果は分からないけど、こんなに一瞬で傷が治ったのだ。何よりこんな高価そうな瓶に入っている。妖精っぽい模様が綺麗だし、瓶が高価なんだからきっと高価なポーションのハズだよ。効果が低すぎるなんてことないハズ。20個もあれば何とかなるでしょ。


 えーと、後は冒険者ギルドにストックがあれば良いんだよね。それからギルドに戻って対策を練らないと。


「そっちのおじさんは台車でも使って、とりあえずこの棚とそっちの棚の分を冒険者ギルドに運んでください! 私は一旦戻りますからね! すぐにですよ!」



 とりあえず私は両手に2本ずつ4本のポーションを持って冒険者ギルドに戻る。到着すると事務員さんと門番さんが会議室に集まっていた。サブマスはまだいないかぁ。


「お待たせしました。まずは回復薬は大丈夫そうです。先ほど西門にポーションを20個運ばせました。現在は冒険者のほとんどが王都にいませんが、サブマスが戻る前に状況確認だけでも済ませましょう。それから、申し訳ないですが1階を無人にするのは不安です。場所を1階の受付カウンター内側に移しましょう」


 オークが500、えらいことになっちゃった。頼れる先輩も怖いギルマスも今は居ない。


 私がなんとか対応しないと!


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