067. 密会
「これだけ? 聖結晶は?」
「こっちも最善を尽くしたんだけどねぇ」
城での話の後、バスティーユ公爵令嬢さまからすれ違いざまに霊石を受け取ることに成功したんだけどねぇ。
霊石は紙でくるまれていて、色々と走り書きされていた。それによると公爵令嬢さまは、先に潜伏していた魔術師団員から霊石を受け取ったそうだ。霊石の採取はその魔術師団員がやったってワケ。
「自分は採取前の霊石も聖結晶も見たことないけどね、なんでもめちゃくちゃ硬くて採取できなかったらしいよ。土ごとほじくり返せばいけるかもだけどねぇ、そんな時間なかったんでしょうよ。その霊石の欠片は、以前妖精自身が霊石を採取した際の欠片だろうって話でさ」
「なるほど。聖結晶がないのは惜しいが、妖精の鱗粉がこれだけあれば呪いの進行も遅らせられるだろう。よくやった」
ははぁん、やっぱりこいつ、あちら側か。霊石と聖結晶と妖精の鱗粉が揃ったら魔道具で呼んだ魔術師に渡せって言うもんだから、てっきり帝国の魔術師が来ると思ってたんだけどなぁ。
渡されていた魔道具は、どうやら人を遠くから召喚する転移系の魔道具だったみたいだ。よく分からないまま指示どおり魔道具を使ってみたら、いきなりこいつが目の前に現れたんだよねぇ。でもよく見ると帝国の魔術師じゃなさそうだったんで、薄々そうかなぁと思っていたんだけど、やっぱりあちら側かぁ。
「ところで地下道が一部封鎖されてんだけど、こちらが送った新規のルートは連絡受けてるかい? それから王都地下の毒は解毒されてたんだけど?」
「なんだと!? そんな話は一切聞いてないぞ!」
「うーん、やっぱりそうかぁ。帝国からの連絡も無くなってるんだけど、こっちからの連絡も帝国に届いてなさそうだねぇ。これはもう、確実にどこかでインターセプトされてるなぁ」
あの妖精、あれが来てから色々と話がおかしくなり始めた気がするんだよなぁ。でもまさか、帝国との情報遮断まで妖精がやってるワケないだろうから、情報遮断は王国の仕業ってことになる。一部の情報は王国に漏れてると考えた方が良さそうだ。
「これまでの情報は王国に漏れてる可能性があるよ。スタンピードと地下道からの奇襲は読まれてる可能性があるねぇ」
「まさか!? 本当なのか? 毒まで無効になってるんじゃぁ、色々と計画が破綻してくるぞ」
「でも中止は指示されないまま計画が進んじゃってる。今更止められないし、ここから挽回するしかないっしょ。そっちは何か新しい展開はあったのかい?」
「新しい展開……、北のバスティーユ領で王国側が何かしているらしく、その調査に人員が割かれた程度だな」
「北? バスティーユ領と言やぁ帝国と内通している公爵様の領じゃないか。まさか気付かれたの?」
それはますますヤバい状況になるんじゃない? やだやだ、どんどん状況が悪化していってるよ。
「気付かれてはいない筈だ。今のところ何も動きはない。まぁ、泳がされてるんじゃなければだがな」
「んー、これは一気に決めないと秋までもたないかもねぇ。まずはその北の部隊に暴れさせてよ。多少捕まっても公爵様がなんとかしてくれるでしょ? 今、第2騎士団が公爵領で足止めされてる筈だ。派手に暴れて第2騎士団が戻って来れないようにして欲しいなぁ」
「ふむ、なるほどな」
まぁ、こいつの発言力が分からないからね。提案はしてみるけど実行されるかは分からない。保険みたいなもんだよ。ただ、実行されたか されなかったかで、こいつの発言力がだいたい分かる。
「それから、これが地下道の新ルートだ。間違って前のルートで行かないようにねぇ。あと、これも渡しとくよ」
「む、これは?」
「王都貴族街の通行証だ。まだしばらく使える。地下道からの奇襲は予見されていると思った方が良い。だからそれを上手く使って地上からも同時に攻めてよね。1枚しかないけど、暗殺者の数人くらいならそれ1枚で十分っしょ」
「分かった。伝えておこう」
ふーん? できないとか言わないんだねぇ。こいつ、そこそこなのかもなぁ。
「んで、これが今まで判明している妖精の能力だ」
「ああ、件の妖精か。それほど影響しそうなのか?」
「影響しそうなんてもんじゃない、大影響だよ。はっきり言って対処策なんて何もない。集団の能力アップに完全回復ができる上に、めちゃくちゃ高精度な立体地図も表示できる。王国とやりあう際には絶対にその場に居させちゃいけない存在だ」
あんなイレギュラー、そうそう他にいないでしょ。あの小さいの1匹で戦争が変わっちゃうレベルだ。妖精のいる方が絶対勝つ。よっぽど上手くやらないと帝国は負け確定さ。
「ま、安心してよ。妖精は
「了解した。こっちは任せておけ」
おぅおぅ、自信満々だねぇ。まるで自分でやるみたいな言いぶりじゃないか。やっぱこいつ、相当発言力でかそうだ。
「話は終わりか? ではそろそろ行くが、魔道具を回収させてもらおう」
魔術師を呼ぶときに使った魔道具を要求してきた。そっかー、回収しちゃうのか。
「これかい? 自分が持ってちゃダメかなぁ?」
「それは使い捨てだ。お前が持っていても使い道なんかないぞ」
「いやぁ、使い道ならあるって。これを上手く使えば"最初の1人"は潰せるからねぇ」
モノは使いようってよく言うよね。
「最初の1人? 何のことだ? 持っていても構わんが、それが原因で密偵だとバレるような馬鹿はするなよ? それから、こいつを貸してやろう」
「へいへい、気を付けまさぁ。で、これは?」
「装備して使えば一定時間姿を消せる。上手く使え」
「へぇ! これは良いねぇ!! こんなモンぽんぽん渡してもらって良いのかい?」
「ぽんぽんとは渡していない。こちらも人員が減っているからな。使えそうな奴は優遇してやるってだけだ。よし、ではな」
おお、消えた。あちらはそんな頻繁に転移系を使えるって? いや、そんな訳ないか……。転移をホイホイ使えるなら、こんなまどろっこしい工作やってないって話だよねぇ。転移して王様グサーッ!で終わりそうなもんだし、何か制限があるのかなぁ。ま、それは俺には関係ないかぁ。
さて、せいぜい妖精を引き付けておくとしますか。
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