066. 要請

 ふー、ようやく自然に城に入れたなぁ。


 本国から全く連絡がないまま、辺境工作部隊が計画どおりスタンピードの話を持ってきたのは焦ったけどねぇ。絶対計画変更されると思ってたし。


 冒険者ギルドの会議に妖精が乱入してきたときもちょっと焦ったけど、これはむしろ好都合だった。どうせ妖精はこちらに引き付ける予定だったしね。


 で、彼女が情報にあった、妖精の影響で超強力な魔法が使えるようになったっていう侍女かい? あれも妖精と一緒に釣れればめっけもんなんだけどなぁ。妖精のお世話係とか理由付けて引っ張れないかな?



 お、ようやくお偉いさんのお出ましか。さーて、お城の会議、誰が出てくるかねぇ。ふんふん、あれが新しい宰相か、若いねぇ。んでそっちが第一王女っと。王女のお付きでバスティーユ公爵令嬢も来てるね。


「お初にお目にかかります。私が宰相を務めておりますアンディ・ラ・ホーゲルト、こちらが私の補佐であるディーン・ラ・ジンフォントです」

「ディーンです、よろしくお願いします」


 ふーん、宰相補佐ね。特に情報もないしあんまり重要人物じゃぁないかな?


「第一王女、ティレス・ラ・ファルシアンです」


 第一王女も現段階じゃぁ特に注意の必要はないんだけどね、なんで来た? 妖精絡みだから出てきたんかなぁ。



「おぅ、俺ぁ冒険者ギルドマスターのジェイコブだ。こっちがノス、辺境から情報を持ってきたのはこいつだ。んでこっちがザンテン」


「よろしく」

「どーもぉ」



「ではさっそく、辺境の地でスタンピードが発生したとか。事前にそちらからお預かりした辺境伯の書簡にもありましたが、詳しく教えて頂けますか?」


 宰相補佐が仕切るのね。まぁ新宰相は若そうだし、王女が仕切るには子供過ぎる。良いね、王城の人不足は思った通り深刻ってこった。書簡も疑われてないようだ。やっぱギルマスから渡してもらえたのが良かったねぇ。ノスじゃぁ信用が足りないから。



 俺もノスも発言しないまま、ギルマスと宰相補佐だけで話が進む。ある程度情報共有が進んだところで具体的な場所の話になった。


「おう、ノス。地図広げてくれや」


 ギルマスの指示でノスが持ってきた地図を広げようとしたとき、ずっと侍女の頭の上で大人しくしていた妖精がテーブルの真ん中まで飛んできた。なんだいなんだい? また突拍子のないことでもやってくれるのかい?


「おおっ!」

「これは!?」

「すごい……」


 って、おいおい。こりゃぁ、この地図は! 気付けよぉ、公爵令嬢さん。俺は後列で控えているバスティーユ公爵令嬢に目配せする。気付くか……、よし、気付いたな。


 彼女の表情が変わる。視線で気付いたのが分かったよ。いくら最後列に居るといっても表情くらいは抑えて欲しいねぇ。そんな目を見開いていると……。いや、今はみぃんな妖精の地図に驚愕してるか。うんうん、自然だね。それより、他が気付く前に急いで注意をそらさないとなぁ。



「いやぁ、凄いね妖精ちゃん。おじさんたちもっと南を見たいんだけど、こっちの方とか見せてくれたりできるかなぁ?」


 俺が立体地図の南の端よりさらに南側を指してアピールすると、なんと地図が広域表示に切り替わった。いやぁ、すごいもんだ。でもこれで、見せたくない箇所は小さくなって分からなくなった。



「おぅ、こりゃすげーじゃねぇか! でもだいぶ表示が抜けてるな。なぜだ?」


 ギルマスが疑問に思うのも当然だね。妖精が出している地図は、王都から王都西の森までと、王都から南は河上の隣街までだけだ。地図としてはいびつな楔型をしている。


「これは……。王都から西の地図は、おそらく妖精様が通られた場所ですね」


 王女が久々に発言した。


「するってぇと、この地図は妖精ちゃんが行った場所を表示してるってことですかい? 妖精ちゃんは南の街にも行ったことが?」


「いえ、私は把握していません」


 俺も把握してないねぇ。でもたぶん、行ったことがあるんだろう。妖精が街に来たときはだいたい監視していたけど、1日街に来ないことはあっても2日続けて街に来ないことはなかった。つまり、隣町まで往復1日で飛べるってことかい? かー、速いねぇ! 思ったより速いよこれは。


 妖精の地図が辺境まで表示できないと理解したノスが、持ってきた地図を広げ直す。



「ところでこの妖精ちゃんを辺境まで連れて行きたいんですよねぇ。ねぇ、ギルマス」


「ああ、その妖精は身体強化や負傷の治癒ができると聞いている。スタンピードの際に居てくれたら有難ぇんだが。加えてさっきの地図だ。スタンピード前に発生予想地点周辺を飛んでくれりゃぁ、紙の地図より作戦展開が正確になるぜ」


「それは……、確かに有益でしょうが、妖精様が素直に計画に従うでしょうか? 当てにし過ぎると肝心なときに居ないなんてこともあり得るでしょう」


 なんか実感こもった発言だねぇ、実体験かい? 予想以上にお城も苦労してるってか? ある程度制御下に置いてると思ってたけど、もしかして王国は全く妖精を制御できてないってことか? いや、楽観しすぎるのもダメかなぁ。


「その辺は大丈夫だろ。すでに妖精本人からは協力の同意は得ている。同行の意思は強いようだが?」


「本当ですか? であれば私も反対はしませんが……。宰相、どうです?」


「そうですね。この人不足の中、楽に問題を解決して頂けるなら妖精様の同行もありでしょう」


 よしよし、良い流れじゃない? そのまま妖精付き侍女も同行って流れなら最高だね。


「シルエラ、辺境まで妖精様のお世話を頼めますか」

「承知致しました」


 よっし、最高!

 後は霊石と聖結晶をゲットすればカンペキだ!


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