064. 会議

「よし、じゃぁ始めんぞ。……そいつは摘まみ出しとけ」


 会議室に集まったのはギルマスである俺、サブマス、中ランク冒険者3人、補佐で受付嬢が1人だ。何故か妖精もいるが、受付嬢のサラに摘まみ出すように指示した。


 集まった冒険者はザンテンが調査任務特化、ダスターは蓄積したノウハウで上手く稼ぐタイプでどちらも討伐任務向きじゃない。戦闘もそこそこできるのはノスだけだが、今はまだ話し合うだけだ。逆に都合が良い。


 そうして会議を始めようとしたんだが、なんと妖精が小さいイスを作ってしがみついていた。なんだあのイス、直接テーブルから生えてやがんのか? いったいどういう仕組みだよ。あのイス元に戻るんだろうな? ずっとあのままならクソ邪魔なんだが……。


「あー、妖精はもうそのままで良い。始めんぞ」

「あはは、ではさっそく」


 サブマスが進行しようとする。すると妖精が今度は小さいコップでダスターに出された茶をすくいとっていた。なんだあのコップ、割れてんじゃねぇか。ああ、ほらこぼれた。クソ、自由過ぎんだろ。


「はいはい、もう本当に始めますよ。えーと、スタンピードの兆候が出ているのはこの辺りで合っていますよね、ノスさん?」


 サブマスがテーブルに広げられた地図の南の辺境辺りを指し棒で示しながら、ノスに場所の確認を行う。


「ああ、その辺だ」

「王都に応援要請とのことですが、辺境伯軍はどうしているのです?」


 南のあの辺りは辺境伯領内だ。辺境伯領内の有事には普通は辺境伯軍が対応する。魔物討伐は主に冒険者ギルドの担当だが、スタンピードみたいな大規模災害になってくるとどうしても冒険者だけじゃ対応しきれない。しかし現地の冒険者と辺境伯軍が協力すれば問題ない筈だが……。


「もちろん辺境伯軍も対応してるさ。ただ、今回のはちょっと規模が大きいらしい。それで王都の冒険者ギルドに応援要請することになった」


 ノスが答える。兆候段階で応援要請するってことは相当でかくなると予想してるのか。


「発生時期はおよそ20日後の予想だそうですが、あっていますか?」


「そう聞いてる。あってるか間違ってるかは俺じゃぁ判断できないがね。種族はゴブリン種、結構大きめの村が数か所できてるそうだ」


 ふむ、南の山は定期的にゴブリン種の氾濫が起きるが、今回もそれか。辺境まで馬車で8日、徒歩なら10日くらいか。ノスの言い方だと、ノス自身はあんまり正確に全容を把握してねぇみてぇだな。現地に行ってから情報共有する時間も欲しい。


「よし、んじゃぁ3日後に先発隊が出発、5日後に本隊出発だ。ゴブリン種スタンピードの緊急依頼を出しておけ。直接討伐は中ランク以上、下位は支援任務で集められるだけ集めろ」


「了解しました」


 サラに緊急依頼の指示を出す。5日後に出りゃぁ現地で数日の余裕ができる。スタンピードの発生が多少早まったとしても2~3日は現地で準備できる筈だ。


「サブマス、物資は本隊が運ぶ。5日後までに準備しておけ。特に不足していたポーション類がどれだけ集められたか要確認だ」


「そうですね。我々も多少集められましたが、薬師ギルドにも確認しておきましょう。それから、本隊の食料は用意するとしても、先発隊は自前で食料を用意して頂きましょうか」


「おう、それで良い。ところでノス、辺境伯も動いてるらしいが、その割には辺境伯からの情報は全くない。その辺どうなってんだ?」


 今回の応援要請は、事前に辺境伯から何の連絡もなかった。急ぎだから連絡が遅れてるってことはあるかもしれんが、何かひっかかる。


「それなら書簡を預かってきている。これだ」


「ふむ、確かに辺境伯の封蝋だな……。お前が直接運んできたのか?」


「なにぶん緊急だったもんでね。この後、城に持ってく予定だった」


 まぁ確かに、緊急時は冒険者が貴族の書簡を運ぶこともままあるが……、まだ20日も余裕がある状況だぞ? 何か違和感がある。



「あ~、ちょっと良いですかねぇ」

俺の考えが纏まらないうちに、ザンテンが話に入ってきた。


「どうした?」


「いやぁねぇ、スタンピードって言やぁ大規模戦闘になるでしょ? そこの妖精ちゃんも連れていければ楽になるんじゃないかなぁって」


「ふむ」


 確かに一理ある。報告では癒しの力だけじゃなく身体強化もできるらしいしな。身体強化して一気に殲滅、負傷者が出ても治癒して即戦線復帰すれば確かにめちゃ楽だ。負傷なら被害にならないってのはでかい。スタンピード対応で死ぬ奴も多いが、負傷してそのまま引退する奴も多い。それを無しにできるなんざ、反則じみた利点だよな。しかし……。


「その妖精は王城管理なんだろう? 王城が許可を出すか?」


「どうでしょうねぇ? ねぇねぇ妖精ちゃん、南の街の人たちが魔物いっぱいで困ってるんだってさ。キミが助けに行けばみんな嬉しいんだけど、助けに行ってくれないかなぁ?」


 おいおい、妖精にそんなこと言って理解できんのかよ。皆が妖精に注目すると、妖精は何度も頷いた。マジか。そして周りを見渡す。その堂々とした振る舞い、辺境に行く意思は固いってことか。


「お、行ってくれるかぁ。嬉しいねぇ」


「ちょっと待ってください。我々だけで決定はできないでしょう?」


 サブマスが指摘してくる。確かにそうだ。王城に許可を取りに行かにゃならんな。


「それじゃぁ書簡も届けないとダメですしぃ、今からみんなで行きませんか、お城。書簡もノスが渡すよりギルマスから渡してもらった方が話が早いっしょ? そのついでに妖精ちゃんの協力要請も取っちゃいましょ。行動は早い方が良いよねぇ」


 ちょっと性急な気はするが確かに緊急の話だしな。ザンテンの意見はもっともだ。そうした方が良いか。


「よし、だいたい話は纏まってきたか。おい、ダスター。お前からは何かあるか?」


 ここまで一切発言しなかったダスターにも一応確認する。相変わらず存在感うっすいなこいつ。


「あ、いや……、俺からは何も……」


「そうか。よし、じゃぁ俺とザンテン、それからノスにそこの妖精はこれから城だ。サブマスは物資準備、サラは緊急依頼準備。ダスター、お前も城に行くか?」


「俺は……、やめときますよ」


「そうか。よし、解散! 行動に移すぞ、急げよ!」



 さてこの妖精、素直に付いてきてくれっかね?


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