063. 事件です

 街の上空を飛びながら今日はどこに行こうかなぁと思っていると、路地裏で怪しすぎる数人のグループを見つけた。


 1人は私が街に繰り出すと高確率で私を尾行してくるナヨ冒険者だ。後の4人は見たことがないけど、5人全員から悪意みたいなものを感じる。


 この世界の人たちは私を見つけるプロみたいなもんで、こんな小さな妖精でもすぐに見つけるほど目が良いらしい。なので私は、見つからないように大分上空から建物を挟んで、透視しつつ観察することにした。



 しばらく見ていると、まずナヨ冒険者が離れて冒険者ギルドに入っていった。そのしばらく後でもう1人も冒険者ギルドに。あとの3人はバラバラに街へ散っていった。


 うーん怪しい。これが怪しくなかったら何が怪しいのかってくらい怪しいよ。これは事件だ、事件の匂いがします。とりあえず冒険者ギルドに行ってみよう、そうしよう。



 冒険者ギルドに入ると受付の人がさっき路地裏で集まっていた冒険者2人と、もう1人別の冒険者を連れて2階へ上がっていくところだった。追加のもう1人は前に私がお肉をもらった冒険者だね。いつもギルドの食堂で飲んだくれてるから顔なじみになったお酒マンだ。


 2階に行くとドアの前で受付の人同士が何か言いあっている。あんなとこにドアがあったのか。さっきの冒険者3人もそのドアの向こうの部屋に居るみたいだ。はいはい、私もお邪魔しますよっと……。


 この部屋は何だろ? 会議室? これから会議でもやるのかな。受付の人の大きい方、受付姉さんがテーブルに地図を広げていた。上座には前に3階で見た筋肉オバケ。もしかして筋肉オバケがギルドマスターなのかな? あとは初めて見るちょっと小太りの中年男性、小太りさん。それから、路地裏にいたナヨ冒険者ともう1人、路地裏マン。最後はいつも飲んだくれてるお酒マン。


 女性1人に男性5人が会議するのかな? うち2人の冒険者からは悪意みたいなのを感じるから、なんだか嫌な予感がしちゃうよね。



 会議の準備が終わったのか、受付姉さんが今度は私の方にやってくる。なになに? ドアを指さして……? 出てけって? それは無理な相談だね。っと、捕まえようとしてきた! いやだいやだ、私も会議に参加するんだ!


 私は会議室の机の端っこに自分用のイスを作って座る。イスごと外に放り出されないように、机から直接私のイスを生やしてやった。そうして私はイスに座ってしがみつく。ふふふ、これで追い出せまい。



 なにやらみんな呆れた顔になったけど、ようやく会議を始めるようだ。受付の人の小さい方、受付しょうさんが紅茶を配る。む? 私の分がないけど? 受付しょうさんは、私の前には紅茶を置かずに部屋を出ていってしまった。目が合ったのに? 目が合ったのに!?


 私はみんなの前の紅茶を見比べる。えーと、この場合、1番もらいやすいのは顔なじみのお酒マンだね。私は私サイズの小さなカップを作ってお酒マンのティーカップから紅茶をすくった。


 む、紅茶を吸い取れない……? 鳥籠メイドさんが用意してくれたカップのスリットを真似て同じ形状にしてみたんだけど、なんか飲めないぞ? もうちょっとスリットを大きくしないとダメかな? あ、こぼれた。みんなが一斉に私の方を向いて、また呆れた顔をしてきた。


 ごめんごめん、紅茶は諦めるから会議続けて? どうぞおかまいなく。私は身振りで会議続行を指示した。あれ、伝わってない? 受付姉さんがテーブルにこぼれた紅茶を拭き取ってくれる。その際さりげなく私を捕まえようとしてきたけど、残念、私はイスにしがみついた。


 いやいや、邪魔しないって。ホントホント、もう邪魔しません。その地図だよね? ほらほら、何か話すんでしょ? どうぞどうぞ。



 筋肉オバケが渋い顔をする横で、小太りさんが苦笑しつつも会議を進行する。地図の南の方を棒で指してるね。なんかあの棒を見てるとガキンチョどもにつつかれた記憶がよみがえってくるよ。




 そうして、あーだこーだと皆が話し合っているのをしばらく観察していた。しまったな、会議に参加しても何話してるか全然わからないぞ? とりあえず分かったフリでうんうん頷いておくか。うんうん、分かる分かる。


 ちょっとの間うんうん頷いていると、ふと見上げるとみんなが私を凝視していることに気付いた。そうしてまた目を離して話し出す。え? え? 今の凝視は何だったの?



 あ、もしかして私、また何かに了承しちゃいました?


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