062. 知らせ
「ええ~! ホントですかぁ~!?」
「こらアナタ! 応対相手の情報を周りに悟らせるような態度を取っては駄目と言っているでしょう!」
ああ、また怒られてしまった、最近ようやく受付業務のルーチンワークにも慣れてきたと思っていたのに。私が冒険者ギルドの受付嬢になったときは、すでに雨が降っていなくて依頼も少ない日々だった。でも最近また雨が降り始めて、依頼数は数年前のような通常数に戻ってきたんだよね。先輩はこれが普通だって言うんだけど、私にとってはめちゃくちゃ業務が多いんだよホント。
「すみません、なにぶん新人なもので。私が対応させて頂きましょう」
先輩がフォローしてくれる。なんだかんだ優しいところもあるよね。
「ええっ! 本当ですか!?」
って! 先輩も言ってるし! でもそんなこと声には出せない。先輩怖いし。
「アナタ、ギルマスにすぐ連絡! 会議室の準備をしてきて!」
「は、はいぃ」
やっぱりそうなるよね! ギルマス怖いんだけど、でも今はそんなこと言ってられない。
「ギルマスギルマスギルマス!」
私は急いでギルマス部屋に行きドアをノックする。
「うるせーっ!」
「ひーっ!」
やっぱり怖いんだけどぉ! ギルマスは出てくるなり開口一番怒鳴ってくる!
「チッ。で、何の用だ?」
「ス、スタンピードですぅ! 辺境でスタンピードの兆候あり!」
私はつい先ほど聞いた情報をギルマスに伝える。するとギルマスは鬼の形相に! ひぇっ。
「なんだとぉ、本当か?」
うわー、脂っこい顔を近づけてこないで! ツバ飛ばさないでぇ!
「わ、わかりませんよぉ。先輩が会議室を用意しろって。これから話し合うんじゃないですかぁ?」
「わかった。お前は今ギルド内にいる中ランク以上の冒険者を集めてこい!」
「は、はいぃ!」
あれ? でも会議室の準備は? そっちはギルマスがやってくれるんだよね? とりあえず急いでロビーにいる冒険者を確認しなくちゃ! 私は急いで階段を下りた。
「み、みなさ~ん! 止まってくださ~い! えーと……」
みなさんと言うほどギルド内に人はいなかったね。まぁ、昼過ぎはそんなもんだよ。中ランクの人はぁ、……3人か。上位の人はいないなぁ。
「ノスさん、ザンテンさん、ダスターさん! ちょっと会議室までご足労お願いします~!」
ノスさんはスタンピードの情報を知らせてくれた冒険者さんだ。最近見ないと思っていたら辺境に行ってらしたんだね。1人で辺境から情報を持ってきてくれた有難い存在で、今1番状況に詳しい人なハズだよ。ザンテンさんはよくギルマスから使いっぱしりにされてる人で、その関係でギルド待機していることも多い。ダスターさんはあれだ、いつもいる。いつも通り飲んだくれてるね……。酔って会議とか大丈夫かなぁ。
「は~い、どうしたんだい嬢ちゃん」
「ザンテンさん、嬢ちゃんじゃないですよぉ! ここじゃ言えません、まずは至急会議室に!」
3人を会議室にご案内するとまた先輩が怒ってくる。
「ちょっとアナタ、会議室の準備ができていないじゃない」
「ええ~! ですけどギルマスから……。いえ、今すぐに!」
あぶないあぶない。ここで口答えしてはいけないことは、今までの経験で散々思い知らされている。
「私の方でやっておいたから、アナタはお茶の用意を」
ほらね、逆らわなければ基本的に優しいのだ。
「はい~! 今すぐ!」
そうして私が会議室から出て行くと同時、入れ替わりで小さな光が入っていくのが見えた。ああ! 妖精だ! この忙しいときに忙しいのが来ちゃった!
いやいや、最近は大人しいらしいから大丈夫かな。最初の印象が今も語り継がれる冒険者ギルド妖精大乱闘事件だったから、私の妖精に対する印象は嵐なんだけど。でもま、私は会議に出ないし関係ないや。
ちなみに冒険者ギルド妖精大乱闘事件は、私の絶対ウケる宴会話No.1として重宝している。お偉いさんから低ランク冒険者さんまで、全方向に外さない面白さを提供できる唯一のネタになってくれたのだ。ヤマは大乱闘で、オチは私が依頼ボードを直すシーンだよ。
っと、早くお茶をお出ししないと。
妖精の分はいらないよね?
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