050. よし無罪

 あー、夜だなー。星空がキレー。

 どうしてどんちゃん騒ぎの帰りの夜って、ナイーブになるんだろうね?


 空を見ると満月に近い月が2つ、でもまだ満月じゃない。きっと今日見た河の逆流は、満月になった方が激しくなる筈だ。たぶん逆流はまだ数日続くんだと思う。


 私は河を見る。真っ暗だけど、星空を反射して水面がたぷたぷしているのが分かる。その水位はめちゃくちゃ高い。濁った水でも星空を反射するんだなぁ……。


 もう1度空を見る。天の川だ。天の川銀河じゃないんだろうから、天の川と呼んで良いのかは分からない。1つ分かるのは、この星も銀河の中にあるってことだね。キレイだなー、満天の星空。



 あー、帰ったら怒られるかなー? ガキンチョには叱られろとか思っちゃったけど、なんというブーメラン。今度は私が叱られる立場かも。


 いや、まだそうと決まったワケじゃないよね。出て行って欲しくなさそうだったけど、出て行っちゃダメだったのかはまだ分からない。仮に出て行っちゃダメだったとしても、今日の私は子どもを1人助けたのだ。チャラにならないかな。ドレスだってちゃんと修復してあるし、うん……、むしろこれは表彰モノでは? 褒められるのでは?



 いや、まだ分からない。あのとき鳥籠メイドさんは結構必死そうだった。必死な不思議な踊り、迫真の踊りだった。思い返すと目とかクワッてなってたような気もしてくる。クチも開いてたかもしれない、仁王像の阿のごとく。般若までは行ってなかったと思う、たぶん。



 あれ、やばくない? 出ていって欲しくなかったってことは、あの後も私に予定を入れられていた可能性がある。そして私はその予定をブッチしたのだ。


 ぐぬぬ、これは何かご機嫌取りをしといた方が良いよね。何か……、バカの1つ覚えみたいだけど、果物取って来ようかな。人間サイズのがなってると良いんだけど……。


 でも待てよ、この前植えた果樹の場所はお城の中だ。人通りが少ない位置を選んだとは言え、渡り廊下みたいなところからバッチリ見えるのだ。見つかってないハズがない。


 お城の中にあるモノと言えば、王様のモノだ。もう普通に王家の食卓に並んでいて、今更わざわざ持って行ったところで「あ、それいつも食べてるヤツ」とか言われたらどうしよう。まぁ、言われても何言ってるか分からないんだけども。


 うーん、うーん。いやいや、やっぱり無いよりはあった方が良い。誠意の問題だよ。「いつも食べてるヤツだけど、わざわざ持って来たのなら許してしんぜよう」という展開になるかもしれないし。


 私は果樹のところまで飛んだ。



 えー、1つしか果物なってないや……。小さいのは相変わらずいっぱいなってるんだけど、人間サイズのが1つしかない。組織に迷惑をかけて手土産が1つしかない場合……、それを持っていくのは直属の上司か、はたまた組織のトップか……。


 この場合はトップだ。つまり王様だ、フラッシュ様だ。フラッシュ様に果物を渡せば、「ほっほっほ。皆の者、この者無罪! 閉廷!!」となる可能性が高い。王様が言えば異議ありとは言われないだろう。鶴の一声だ。おでこのごとく、ツルツルだ。


 さらに、きっとこの果物はすごく美味しい。あの冒険者も夢中で食べていたのだ。逆に褒められるかもしれない。ようするに「ほっほっほ。素晴らしい献上品であった、褒美を取らそう!」といった展開も夢ではないかもしれない。テンション上がってきた!



 私は意気揚々とロイヤルなフラッシュ様を探す……、いた! なんか読んでる。もう夜だし、仕事も終わって趣味の読書とかに違いない。仕事中にお邪魔するのはアレだけど、休憩中なら行っても問題ないでしょ。私は壁を抜けてフラッシュ様の部屋にお邪魔する。


 フラッシュ様がこちらに気付いて何か言いかけたけど、先手必勝! 怒られる前にクチに果物を突っ込んだ! どうです? 美味しいでしょう? 美味しいと言え! 私は無罪を主張する!


 ……どうだ? お! 美味しそうに食べ始めた! よし、無罪! これで安心だ!




 そうして私は自分の部屋に戻った。


 鳥籠メイドさんが鳥籠の前で、椅子に座って寝ている……。もしかしてずっと私を待ってたのかな? うわー、すごい罪悪感だよ! なんかないかな、私の罪悪感を取っ払ってくれる素敵アイテムは!?


 あ! そう言えば果樹の周りに光ってる石がいくつか生えてたよね! あの石使えるんじゃないかな? よしよし、よしよし。私はもう1度果樹まで飛んで、光っている石を回収、回収……、かったいな!この石!! くそ、くらえ! よしよし。


 それで、この石をこうして……、こうだ! ふふふ、これできっと「まぁステキ! さすが妖精さん!」となるに違いない。あー、良かった。



 私はまた部屋に戻り、作ったばかりのネックレスを鳥籠メイドさんに掛けてあげた。ついでに毛布も掛けてあげる。全身透過して着せられていたドレスをストンとテーブルに落とし、鳥籠の前に畳まれて置いてあった自分の服を着る。


 ドレスはどうしとこうか、こんなふわふわマックスの服、畳み方わからないよ。そのまま置いておいたらシワになるよね? ちっちゃいトルソーでも作って掛けとくか。よし、就寝!



 いやー、今日は色々あったけど、終わってみれば万事オッケーだったね!


 終わりよければ全てヨシ! なんてね。


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