044. 怪音

 河上を確認しに行った日から数日が過ぎた。


 あの日以降も私は街に繰り出して色々な場所を観光した。子どもたちと遊んだりもした。


 1度、鳥籠メイドさんが何やら文字の書かれたカードをいっぱい持ってきて、明らかに勉強させようとしてきたこともあった。でも、全力で逃げたらそれ以降は勉強させようとはして来なかったよ。英語も満足にできない私が、今更新しい言語を習得とか無理すぎるからね……。



 そんなワケで、今日も今日とて街に繰り出そうとしたら、鳥籠メイドさんが慌てだした。この動作はアレだ、私が外に行ってほしくないときの不思議な踊りだ。しょうがない、付き合ってあげようじゃないか。


 たまには飼い主とも戯れておかないと、ぶっちゃけいつ追い出されても文句が言えない境遇だしね、私。わんわん。



 さて、前回の不思議な踊りの後はドレスが大量に出てきたけど、今回は何かな? 前回採寸したからまた新しいドレスなのかも? そんな着る機会ないと思うんだけどなぁ……。


 と思っていたら、なにやら見たことないおじさんたちが数人やって来た。続いてドアップ様もやって来たよ。


 おじさんたちは部屋になにやら色々と持ち込んで、おじさんたちのリーダーっぽいおじさん、おじリーダーが何やら1つ1つ私にモノを見せてくる。


 ほぅ、妖精が焼き印されたクッキー? 食べて良いの? ひゃっほい、おじリーダーは良い人だね!


 すると鳥籠メイドさんが小さなティーカップを出してきた。これは? 紅茶が入っているけど、なにやらカップに切れ込みが入っている。底まで切れ込みが届いているけど、中の紅茶は表面張力でこぼれて来ない……?


 むむ? 以前紅茶が飲めなかったから私用にカップを特注したのかな? たぶんこの切れ込みから紅茶を吸い取って飲めってことなんだと思う。ああそうか、いつもスープを飲むとき、スプーンですくって丸くなったスープを吸い取って飲んでるから、そこからこのティーカップが爆誕したんだ。よくこんなの思いついたなー。


 ちょっと飲みにくくはあるけど、スープで飲みなれていたので問題なく飲めた。クッキーも食べる。お!? 甘いじゃんこのクッキー! これは良い、これは良いクッキーです! おじリーダーやるじゃん!



 おじリーダーはニコニコ顔だ。自分の出したオヤツにペットが喜べば飼い主も喜ぶ、きっとそんな心境なんだろう。


 そうしていると、おじリーダーは次のモノを私に見せてきた。これは、妖精模様が彫られた木箱? おじリーダーが木箱を開けると音が流れてきた。なるほど、オルゴールか。


 ポカンと眺めていた私の反応が期待通りではなかったのか、おじリーダーはなにやら焦って話し出した。ニコニコ顔は変わらないけど、身振り手振りが早くなってきてるので、焦りがにじみ出ているよ。


 うーん? なるほど、わからん。私はとりあえず頷いておいた。うんうん。すると、おじリーダーはとても嬉しそうにする。なるほど、正解リアクションだったようだ。ドアップ様も嬉しそうに木箱を手に取って見ている。



 その後もおじリーダーは色々なモノを見せて来て、私に身振り手振り話しかけてきた。良く分からないけど頷けば嬉しそうにする。うんうん、喜ばれるのはこっちも嬉しいね。頷く程度でこんなに嬉しそうにするんだったら、いくらでも頷いてあげようじゃないか。


 私がうなずく度に、おじリーダーだけじゃなく後ろのおじさんズも、そしてドアップ様も嬉しそうにする。


 はー、新しい芸を覚えた犬の気持ちってこんな感じなのかな? 伏せと言われて伏せたら、皆嬉しそうにする。そりゃ伏せと言われたら伏せるようになるよね。



 一通りおじリーダーと戯れたあと、おじリーダーは満足して帰っていった。だけど、一度解散したものの、午後にはドアップ様がまたやってきた。



 そうして今度は以前も来たお針子さんたちがやってきて、新作ドレスの着せ替えが始まる。あー、今日はそういう日なのかな? 今日はもう出歩けないと思った方が良いね。


 ドレスは薄着のモノと厚着のモノがある。夏用と冬用? 前回は袖口がヒラヒラゆったりしていたドレスばかりだったけど、今回は袖口がピッタリしているものもあった。そうかと思えばノースリーブみたいなのもある。共通して言えるのは、背中ががっつり開いていることだ。


 羽あるからね、背中は開けないとダメだと思われたんだろう。でもこの羽、仰向けに寝転んだときに羽が床にめり込んでいたから気付いたんだけど、モノすり抜けるんだよね。だから別に服の背中が開いている必要はないのだ。背中が開いていない服でも、羽は問題なく伸ばせるのだ。


 着せ替えられる度、相変わらずドアップ様とお針子さんたちはキャイキャイと喜んでいた。今日は銀髪ちゃんは来ないのかな?



 気づけば外はもう茜色に染まっていた。うわー、これ何時まで続くんだろう? とか考えていたとき、それは突然聞こえてきたんだ。


 最初はサーって音だった。


 それがどんどん大きくなっていって、ザーって音になり、ザザザザザ!と聞こえ、次第に地鳴りの様なズゴゴゴゴゴ!といった物凄い音に!


 なになになに? やばくない?


 でも鳥籠メイドさんもドアップ様もお針子さんも、驚いた様子はない。



 いやいや、でもやっぱり何か気になる。ドレスを着たままだったけど、私は窓の外に出た。鳥籠メイドさんが不思議な踊りで私を遮ろうとしてくるけど、私は気にせずすり抜ける。ごめんね。




 外に出た私は、信じられない光景を見た。


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