043. 河上
私は空から城門を越えて河に出た。
小さい船も中くらいの船も、動ける船は全部河上を目指しているようだ。まだ動いていない中小の船も、出港準備を急いでるのか慌ただしく人が行き交っている。
河下からも船がどんどん来ているのが遠目に見える。ちょっと前に荷詰めされていた船は河下に向かってたようだから、それが戻ってきたのかな? それにしても多い気がするけど。大渋滞じゃん。
大きな船は丸太を敷いて陸に引っ張り上げられている最中だ。なんだろう、そろそろ水位が足りて動けるようになるから、その前にメンテでもするのかな。それとも中小の船がいっぱい来てるからスペースを空けてるだけかなぁ。何隻もある大きな船を順番に陸にひっぱり上げていってるようで、すごい人手だ。
大中小の船のあれこれを横目に、私は2日前に行った子どもたちの秘密基地を覗いてみた。
ふむ、今は誰もいないか。とりあえずは安心だね。秘密基地は排水溝みたいなアーチ構造の中にあって、川底よりは高い位置にある。アーチ構造の中も水が流れる溝が掘ってあるから、子どもたちがいた位置は常時水の上になるっぽい。周りの石の変色具合から見ても、この場所が滅多に水没しないことが分かった。
まぁ、地元の子どもたちだし、さすがに頻繁に水没するようなところを遊び場にしないか。私が心配するようなことじゃなかったのかもね。
ただ、念には念をということで周辺状況も調べてみることにした。まずこの排水溝がどこに繋がってるかだよ。たぶん前に行った地下水路なんだろうけど……。
たどって行くと、やっぱり前に行った地下水路に繋がっていた。地図で確認したから間違いない。
とりあえず最寄りの出口から街に出ようかな、よしっと。ふーむ、雨が降ると周りの水がここに流れ込む感じになってるんだね。
街を回ってみると、地下水路に繋がっている小さな川が街にいくつかあった。両側が草で覆われて花が咲いている。その上には中世っぽい街並み。おー、なかなか風情があるね! 水面がキラキラ反射していてキレイだ。
水面付近まで下りると、空や橋が水面に映り込んでまるで空の上にいるような気分になる。いや、今の私は実際に空の上まで飛んで行けるんだけど、なんて言うか、また違った気分に浸れるのだ。空の上、風強いし寒いからね……。
魚とかはいないのかな。前まで乾季だったっぽいから、ここも水がなかったのかもしれない。魚は見当たらなかった。
私は
街の様子を窺うと、東側だけなにやら慌ただしく感じるね。やっぱり船をあれこれしているから東側は忙しいのかなぁ。
ん? んー? 気のせいかな、つけられてる? そう言えば、
やっぱりだ、しばらく進んでも確実に付いて来てるね。振り返ると物陰に隠れているのが分かる。ふふふ、隠れているつもりかな? 私はモノを透視できるんだよん。
んー、なんかナヨっとした細身の中年男性だ。格好からして冒険者かな? 意外に細マッチョかもしれない。なんか見覚えある気がする。冒険者ギルドにいたっけ?
それにしても悪意高いな。ちょっと利用してやろうみたいな可愛い悪意じゃなくて、がっつり悪意じゃん。あのナヨ冒険者は要注意だね。でも私から何かできるワケでもないし、とりあえず何かしてくるまで放置で良いかな。今日は河上の状況も確認しときたいしね。
東門まで移動中、街の人たちから笑顔で手を振られたりする。ほぅ、今まで遠巻きに観察されてばかりだったけど、ようやく警戒心がなくなってきた? 私も笑顔で手を振り返しておいた。おぅおぅ、妖精さんだぞぉ、よく見たまえよ! む、そっちのおばあちゃんは腰痛かい? 治しておいてあげよう。ぽちっとな。お、クッキー? くれるの? わーい!
私はクッキーを抱えて食べながら、東門を飛び越えて河上を目指す。南に高い山が見えるから、始点はあの山なんだろうなぁ。でも今は山に雲もかかってない。河上で雨が降っている様子はないようだ。
このクッキー、ポロポロ粉がこぼれるけど、その分噛み切りやすくて食べやすいね。もうちょっと甘ければ良いんだけどなー。
さっきのナヨ冒険者は、私が河上に向かったことを確認したあたりで追ってくるのをやめたようだ。さすがに河の上を飛んでる私を追っては来れなかったようだね、ふふふ。
河上に向かう船に乗っている人からも手を振られる。こっちを指さして騒いでるおっさんもいるね。おーおー、頑張ってるねぇ! 妖精さんだぞぉ、どうよ、珍しいでしょう? 船傷んでるねぇ! 直しといてあげるよ、ぽちっとな。私は船をどんどん追い越して行く。
しばらく行くと、船のエレベーターみたいなのがあった! 私アレ知っているよ! 観光雑誌で見たことある!
船のエレベーターは、船が何隻か水門の間に入って閉じ込められたような状態になる。そのままじっと見ていると、どんどん水位が上がっていって、河上側の水位と同じ高さになると河上側の水門が開いて船が河をのぼっていくのだ。おー、どうやって水の高さ調整してんだろ?
その先には街があるようだ。河幅が人工的に広げられており、船がいっぱい係留されていた。荷下ろししている船がいっぱい見えるよ。
よし、なんとなく周辺環境も把握した。地図にもオートマッピングされて、ここまでの情報が表示されるようになっている。お城は南向きで部屋から山も見えるから、山に雲がかかっていないか注意しとけば万が一があっても大丈夫だろう。地図にも河上の水位がリアルタイム表示されるからね。
うん、そろそろ帰るか。クッキーもなくなったし。
帰ったら今日はもう夜だなぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます