042. 調査報告
「ですから、妖精様で街興しさせてもらうのです! 妖精様グッズに妖精様クッキー、クッキーなどは妖精様の焼き印を入れるだけで良い。素晴らしいと思いませんか? ギルドマスター殿」
「あー、今そんな話してねぇんだわ」
あの妖精の調査の中間報告を受けている最中、商業ギルドのギルマスが直々に訪問してきた。なんだって冒険者ギルドに来やがったんだ、コイツ。
「いえいえ、妖精様の話でしたでしょう? これも立派な妖精様のお話です」
「俺たちが話してたのは妖精の生態とか今後の影響とかだ」
「ですから、妖精様の影響のお話ですよ。今現在王都の経済はどん底と言っても良いでしょう。それが妖精様を大々的に推して行けば、観光客や行商、はたまた吟遊詩人を呼び込めます。益は計り知れませんよ、もたもたしている場合ではないのです。いついなくなってもおかしくない存在、ご滞在中にできることを最大限しなければ!」
またいっきに話しはじめたな。これだから根っからの商人は苦手だ。
「ああ、欲を言えばもう少し早く訪れてくだされば、"双子神"様の逆流に合わせて観光客を多く呼び込めましたのに」
「それだ、"双子"の影響もある。今、観光だの街興しだのやってる余裕はねぇんだよ。だいたいなんで冒険者ギルドに来てるんだ?」
「そう、なぜ冒険者ギルドなんです? 私共も妖精様が商業ギルドを訪れてくださるのを、今か今かとお待ちしているというのに、冒険者ギルドにはすでに2回も訪れられているとか。どのように妖精様を呼び込んだので?」
「それを聞きに来ただけかよ。そんなのわかんねーっつうの。勝手に来て勝手に暴れて勝手に帰っていっただけだ。俺も1度会ったが、話しかけても逃げられただけだ」
ここに来た理由も大したことなさそうだ。そろそろ帰ってくれねぇかなぁ……。ただ、コイツの言うこともあながち間違っちゃいねぇ。確かに冒険者ギルドとしても美味い話なのだ。
「ふーむ、本当ですか? 2度も訪れているのは冒険者ギルドくらいです。何か理由があると思うのですがねぇ。で、そちらの調査はどこまで進んでいるのです?」
「今教えるワケねぇだろ、もう帰ってくれ。妖精を街興しに利用する件は分かった。冒険者ギルドとしても街に賑わいが出た方が益になるしな。でも今じゃねぇ、"双子"の影響が終わるまでこっちは動けねぇよ」
「仕方ありませんね、ではこちらはこちらで動いておきましょう。それでは、お暇させて頂きますね」
「ああ、またな」
ふぅ、やっと話が進められるぜ……。
「で、ザンテン。続きは?」
俺は横でずっと控えていたザンテンに、妖精の調査結果報告の続きを促した。
「ギルマスも大変ですねぇ。あー、どこまで話しましたっけ。そうそう、妖精は観光がてら飛び回ってる。そんな感じでしたよ」
「そんなことあんのか、妖精が人間の街を観光? 聞いたことねぇぞ」
冒険者ギルドは国をまたいだ組織だ。他国の情報もある程度は入ってくる。しかし妖精が観光に来たなんて話は1つもなかった筈だ。
「そりゃそうでしょうよ。そもそも妖精が街を訪れるどころか、下手したら妖精の実在が確認されたことすら初めてじゃないんですかい?」
確かに、絵本や神話には出てくるが、ギルドの報告書に出てきたことは無かったかもしれねぇな。
「それで、こいつを見てくださいな」
そう言ってザンテンは、いくつかの小さな棒状のモノを取り出した。これは、ナイフとフォーク? それに剣と槍か。
「その小ささ、まさか妖精の道具なのか?」
「その通りですよ。どれも件の妖精がギルドの酒場で肉を食ってたときに使ってたヤツでさぁ」
「ああ、そういや肉食ってたんだったな。商業ギルドの奴らも肉ぶら下げとけば、妖精が来てくれるかもしれねぇな。んで、ナイフとフォークは分かるが、剣と槍は? まさか剣と槍で肉食ってたのか?」
「どうやらそうらしいですねぇ。いや、ナイフとフォークで肉を食ってたところは自分も見てたんですがね、剣と槍はダスターのヤツがそう言ってましたわ」
ダスター、万年酒場で飲んだくれてるアイツか。
「まぁ、問題は剣や槍で肉食ってたってことじゃなくて、コイツの切れ味でさぁ」
「あん? 切れ味?」
「そうそう。これ、めちゃくちゃ良く切れるんですよ。見ててください」
そう言ってザンテンは干し肉を左手に持ち、右手の親指と中指でつまんだ小さな剣を上から下にスッと移動させた。するとどうだ、干し肉が真っ二つだ。特に力を入れた素振りはなかったのに。
「ね? すごいでしょう。 これ、引く動作も何もなく、ただ剣を肉に沿わせただけですよ」
「マジか」
普通、刃物で何かを切るときは引くか押すかして刃をスライドさせながら切る必要がある。それをせずに切れるとなると、相当の業物だ。そして切れ味が上がると、刃こぼれや折れやすさに繋がる。
「マジマジ、マジですよぉ。しかもこんな小さいのに……」
そういってザンテンは、今度は小さな剣を無造作に石で叩きつけた。
「ね、この小ささ、この細さ、この切れ味。なのに強度はピカイチ。こいつぁ、危険じゃないですかねぇ」
ザンテンは剣をしみじみ眺めながら続ける。
「あの妖精、肉を食う直前までナイフやフォークなんて持ってなかったんですわ。それが突然どこからか取り出したか、もしくはその場で作ったか……。剣や槍もそうらしいですよ。この剣、人間サイズで作られたりしたら……」
「やべぇな……。おい、このことは黙っとけよ」
俺はザンテンに念を押しておく。調査任務に特化した奴だ。任務上知り得たことをそうそう言いふらす奴じゃねぇが、このことが広まるとやばい。
「へいへい、わかってますよぉ。で、ですね。さっきも報告しましたけど、その妖精貴族街の向こうから来てるんでさぁ」
「ああ、王城だ。第一王女殿下の客人扱いらしい」
「そうらしいですね。で、そっちの調査もしておきたくてねぇ。貴族街の入場許可証をもらえませんかねぇ?」
「あぁん? そっちも調べる必要があるってのか?」
貴族街や王城には下手に手を出したくねぇんだがなぁ……。
「そうそう、これは衛兵から聞いたんですがね? なんでも城の一部が聖域化して、聖結晶や霊石、霊薬なんかがばかすか生えて来てるんですって」
「なんだと!?」
聖結晶や霊石、霊薬と言やぁ、高位のドラゴンの巣や精霊の聖域なんかじゃねぇと手に入らねぇ激レア中の激レア素材だ。そんなもんが人里内で手に入るとなりゃぁ、時代すら変わっちまうぞ!?
「ね? やばいでしょう? やっぱ調査しといた方が良いと思うんですよねぇ」
「ああ、そうだな……。だがしばらく待て。貴族街の入場許可なんて、調査目的じゃぁそうそう取れねぇんだわ。なんかでっち上げるかしねぇと無理だな」
「やっぱそうですよねぇ……。貴族側から何か依頼でも来れば、堂々と入れるんですけどねぇ」
「ああ、とりあえずこの件も"双子"の後だ」
「へいへい」
あー、くそ。利益になるのは違ぇねぇが……、下手するとでかい争いを生んじまうぞこれ。俺は頭を掻きながら、出て行くザンテンを見送った。
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