030. お化粧
鳥籠のまま連れられて行くと、そのままお風呂に入れられた。特に今日は汚れてないけど、入れてくれると言うなら喜んで入ろう。私はここに来てから毎日お風呂に入れてもらっているのだ。
まずは、かけ湯をしてもらう。何を隠そう、私のお風呂は1人じゃない。メイドちゃんが1人付いて、何から何までやってくれるのだ。このメイドちゃんは鳥籠メイドさんとは別のメイドちゃんで、鳥籠メイドさんの補佐的な立場だと思う。たまに私の部屋でも見るから、お風呂専門てワケじゃない筈だ。年齢的に幼さが残るから、たぶん見習いだね。
そんな見習いメイドちゃんが私にお湯をかけてくれる。ホットケーキにかけるハチミツが入っているような小さな容器を使っていて、小さい私のために色々な工夫をしてくれているのが分かった。ありがたいね。
かけ湯が終わったら入浴だ。いぇーい、ざっぱーん!
飛び込みからそのまま対岸まで泳ぐ。風呂桶にお湯を溜める程度で十分なのに、毎回人間サイズの大浴場を用意してくれるなんて太っ腹だ。一昨日は私の泳ぎを悲しそうに見ていた見習いメイドちゃんも、2日も経とうものなら達観した顔で私の泳ぎを眺めている。
この2日で大分、羽を使った泳ぎも上達してきた。まず水しぶきがそれほど凄くなくなった。余計なエネルギーを推進力に変えられたからか、スピードも上がった。今なら荒波も越えられる筈、うぉぉん! なんなら潜ることだってできる、高速潜水艦だーっ!
しばらく泳いで満足したら、見習いメイドちゃんが体を洗ってくれるのだ。小さい私の頭も指先で器用にケアしてくれる。気持ちいい。ただ、自分の指先ほどのでかい水滴が自分の体に大量に付くのには未だに慣れない。私が小さくなっても水の物理法則は変わってくれないのだなぁ。
いつもならお風呂からあがると、私が最初に着ていた服を着せられて部屋に戻されて後はもう寝るだけなんだけど、今日はまだ時間がある。用意されていた服も最初の服じゃなくてドレスだった。何故だ、ドレスならさっきしこたま着たのに。
ドレスを着せられ鏡台の机の上に立たされる。そして化粧道具を持った数人のメイドさんに囲まれた。え? お化粧するの? そのでかい道具で?
私は初めて自分の顔を鏡で見た。緑の髪に緑の瞳だ。おお、可愛いじゃん。自画自賛になってしまうけど、なかなか可愛い。どうやら私は、ぶちゃカワ枠じゃなくて普通にカワイイ枠で王家のペット入りしたようだ。
そんな私に、メイドさんたちが化粧道具を向けてくる。顔をバシャバシャされたり、ポンポンされたり……、むぐぐ。ポンポンされた後は顔が心なしか白くなっていた。その次に、紅色の染料をしみこませた布で頬をちょんちょんされる。そしてぐりぐりと滲ませて……。
これ絶対正規のお化粧手順じゃないでしょ。布をよじって尖らせたり棒の先にくっつけたりと、明らかに試行錯誤しながら今手順を考えてますといった、たどたどしい手つきだ。
目元に筆が迫ってくる。ちょっと、震えてるよ。プルプル……、やめろ! 目に入る! 震えてるから! 筆先震えてるからぁ!!
逃げようとした私を別のメイドさんががっちりホールドしてくる。どうする? すり抜けて逃げるか? でも今逃げたら化粧途中の私の顔はひどく滑稽だ。どうせなら最後までやってもらいたい。ええい、ままよ!
と思ったら、メイドさんが諦めたようだ。1人が部屋を出て何処かへ行き、そして台座を用意して戻ってきた。なんか血圧測定器みたいな腕を乗せる台座だ。なるほど、腕をホールドして手ブレ軽減ね。それ製図用? 絶対お化粧用じゃないでしょ。
なんだかんだと四苦八苦しながらようやくお化粧が終わったと思ったら、私はまた鳥籠に入れられ知らない部屋まで運ばれた。顔がムズムズする。顔を思いっきりゴシゴシしたい気分だけど、今そんなことをしたら化粧が崩れて酷いことになってしまうだろう。アマゾネスの戦化粧みたいになってしまうかもしれない。私は我慢した。
部屋はそこそこ豪華だ。銀髪ちゃんもいる。銀髪ちゃんは私を見るとすぐに席を立ち、私を含めた一行はさらに移動する。そうして、大きな大きなドアの前までやってきた。門の両側には兵士が1人ずつ立っている。
んー? この豪華さ、もしや謁見の間?
つまり王様に会うためにドレスアップさせられたのか、なるほど。その辺にある壺とか倒したら怒られるんだろうなぁ……。
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