029. ドレス

 朝起きたら鳥籠メイドさんが何やら怪しい動きをしていた。


 今日も私は街へ観光に行く予定だったのだけど、なにやら私に用があるらしい。鳥籠から出て窓から外へ行こうとしていた私に対して、何かを伝えようとジェスチャーしてくる。


 なるほど、わからん。もはや不思議な踊りだよ、それ。何もわからないけど、出て行って欲しくないことだけは分かった。私が部屋に戻るとあからさまにホッとしていたから、間違いないでしょ。




 外を見ると、大勢の騎士達が城の前の広場に集合していた。眺めていると、ぞろぞろと騎士たちが外へ出ていく。なんだろう、遠征かな? ちょっと近場で任務とかそういうノリじゃなさそうだ。なんだか荷物が物々しい。戦闘以外の荷物っぽいからそこそこ遠出する気がする。私はちょっと付いて行きたい気分を抑えながら、騎士達が小さくなっていくのをボーっと眺めていた。



 するとドアがノックされ、人がいっぱいやってきた。まず、銀髪ちゃんとドアップ様、その2人のお付きのメイドさん数人、そして初めて見るぽっちゃりした男の人、その後に何やら荷物を持った3人の女性。いっぱい来たなー、いっきに部屋が狭くなった気がするよ。



 ドアップ様と男の人がしゃべっている。この人は商人かな? その後ろで女性3人が荷物を開いて何やら準備しだした。あれは……、手芸用の道具だね。針とか糸とかハサミとかが見える。つまりこの女性3人はお針子さんか。


 そうこうしていると、ぽちゃ商人さんが私に何やら話しかけてきた。何言っているのかは相変わらず分からないけど、めっちゃ笑顔だ。なんだなんだ? 疑問に思っていると、トリプルお針子さんが小さい私サイズのドレスを数着出してきた。


 あー、そういや採寸されてたなー。そして私は着せ替え人形になったのだった。サイズ的にもまさに人形だしね。よくこの短時間で作ったなー。確か採寸されたのって4日前くらいだったよね。


 とっかえひっかえ着せ替えられる度に、ドアップ様とトリプルお針子さんがキャイキャイ喜んでいる。可愛いモノ好きなんだろう、4人ですごく仲良さそうに はしゃいでいるね。良いのか、女王でしょ? お針子さんとの身分差とか問題にならないの? まぁ仲が悪いよりは全然良いか。


 そして、ぽちゃ商人さんはいつの間にか部屋から出て行っていた。女の子の着替えを見る訳にはいかないんだろう。私はなんだか一部の感情が抜けたようなので、見られても全然かまわないのだけど。



 着せられるドレスは全部ヒラヒラ系だ。袖口とかかなりヒラヒラに広がっている。ぴっちりサイズは小さ過ぎて作るのが難しいのかもしれない。いや、そもそも腕まわりまでは採寸されていなかったっけか。


 ボタンの代わりにビーズが付いてる。大きめのビーズを穴に通して留めるようにしてあるんだね。そりゃ、こんな小さなボタンないもんね。


 服の端はほつれないように、ちゃんと布が少し折り返して縫われている。細かい。これ全部手縫いっぽいけど、こんなの縫ってると気が狂いそうだ。マジでよくこんなの4日で用意できたなー、すご。


 ブーツも用意されていた。普段私は裸足だからこれは有難いかも。すごく薄い革でできてる革のブーツだ。合成皮革もないだろうに、こんな薄い革よく用意できたね。靴底は木製だ。


 実際履いてみると、素足にこのブーツは痛い。若干足の形にも合っていない気がする。靴擦れになりそうだ。裏地もなく革1枚ダイレクトで足がこすれる。せめて靴下をおくれよ。無理かな。小さいもんね。


 うーん、靴はしばらく実用化はなしだね。ただ、私はそれを言葉で伝えることができない。せめてもの意思表示としてブーツをぺいっと投げやった。おお、そんな悲しそうな顔しないでよ……。めっちゃ罪悪感感じるじゃん……。




 一通り着せ替えられた後、私は再び裸に剥かれて採寸された。前回は身長や腰まわりなど要所要所だけだったのが、今回は細かいところまで計るようだ。メジャーを腕に巻かれる。人間サイズのでかいメジャーで割箸みたいな私の腕を器用に計っていく。


 え、指も計るの? マジか。手袋でも作るの? それか指輪か。いやいやいや、そのメジャーで私の指を計るのは無理でしょ。トリプルお針子さんの1人が四苦八苦してたけど、しばらくして諦めたようだ。


 と思ったら糸を指に巻かれ、その後その糸の長さを計っていた。うはー、ここまで来るともはや執念だね。すご。わざわざそんなに細かく計らなくても、さっきのヒラヒラドレスでよくない? そして私は、色んなところに糸を巻かれてしまったのだった…。


 何が楽しいのか、そんな採寸の状況をドアップ様はニコニコして見ている。銀髪ちゃんは普通だ。可愛いモノに心動かされないタイプなのかな。もしくは顔に出ないタイプ? もう、ムッツリなんだからー。




 そうして結構な時間人形にされて、トリプルお針子さんが帰り支度を始める。いつの間に戻ってきたのか、ぽちゃ商人さんが挨拶してきた。うんうん、よく分からないけど良きにはからえ。


 ぽちゃ商人さんとトリプルお針子さんが帰って、ようやくようやく解放かーと思ったらそうではなかった。鳥籠メイドさんが鳥籠を持ってアピールしてくる。この動作はアレだ。ハウス。


 忠実なペットの私は鳥籠に戻り、どこかに運ばれて行くのだった。


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