028. 子どもたち

「妖精なんて、うっそだー!」


 オレたち3兄弟は昨日、妖精に会った。それを秘密基地で友達グループに話したら、みんなしてウソだウソだと言ってくる……。


 弟たちも見た筈なのに、年齢が上のヤツらに否定されてからは反論していない。3人一緒に見たと言ってるのにオレだけが必死で反論しているからか、余計ウソ臭さが出ていた。


「本当だって、カインもセントも見ただろ?」

「まぁね」

「うん……」


 カインは実の弟だけど、1番下のセントはオレたち家族と血が繋がっていない。冒険者の両親が帰ってこなくて、親同士が親しかったウチが引き取ったんだ。そのせいか、セントはかなり引っ込み思案でいつもオドオドしていた。特に今は周りのヤツらがウソだウソだと責め立ててくるから余計にだ。



「3人で話合わせてんだろー? 妖精なんて絵本の話じゃん」

「そうだぞ! そんなに言うなら連れて来てみろよ!」


「わかった、連れてきてやるよ!」


 悔しかったオレは、弟たちを連れて妖精を探すことにした。弟たちは嫌々付いてきていた。昨日妖精を見た噴水まわりから探し始め、街の人に色々聞いてまわっているとすぐに、あの後妖精は南へ向かったっぽいことが分かった。


 でも、妖精の足取りを追って南門まで行ったけど、そこからは何も分かんなかった。街の外に出たのかと思って門番に訊こうとしたけど、鬱陶しそうに追い返されてしまった。どうしようもなくなって、オレたちは噴水に戻ってきたんだ。そしたら……


 いた!


 それまでうんざりした顔で付いて来ていた弟2人も、とたんに嬉しそうな顔をする。


「うわぁ、すごい。やっぱり妖精だ」

「光っててキレイ……」



 オレは必死で妖精に話しかけ、秘密基地まで付いて来てくれるように頼んだ。

「なぁ! 頼むよ、ちょっとオレたちに付いて来てくれよ」


「……?」


 話せど話せど妖精からの応えはない。ずっとキョトンとしてる。もしかしてコイツ、喋れないのか? オレは身振り手振りで行先を指し示し、付いて来てくれるように自分たちを指さした。弟たちも加わり、そうして何度目かのジェスチャーで妖精がオレたちに近寄って来たんだ。


「付いて来てくれるのかな?」


「どうだろ、ちょっと移動してみようぜ」



 すると、オレたちの移動に合わせて妖精が付いて来てくれる。嬉しくなってオレは、気付けば走り出していた。しばらく走っていると、街の人がザワザワしだしたことに気付いた。もともと妖精がいるだけでザワザワしていたんだけど、もっとザワザワしだしたんだ。


 振り返ると、セントが飛んでた。


「うおー! なんだあれ!? すげー!!」

「わぁ! セント、いつの間に飛べるようになったの?」


「バカ、セントが飛べるようになったんじゃねぇよ。妖精が飛ばしてるんだ、ほら!」

セントの移動方向に妖精が手を向けているし、逆にセントは自分がどこへ飛ぶのかは分かっていないっぽかった。


「なぁ! それ、オレにもやってくれよ! オレも飛ばして!」

「あー、ボクも飛んでみたいかも」


 それからしばらく、オレたちは妖精に空を飛ばしてもらって、すごく楽しんだ。空を飛べるなんてなかなかない。絶対友達グループで空を飛んだのはオレたちだけだ。ギュイーンと直進したと思ったらグイッと曲がる! まるで鳥になった感じ! 曲がるときに手足が引っ張られる感覚がして、それも新鮮だった。



 そうこうして、オレたちは妖精を連れて秘密基地に戻ってくることができた。この秘密基地は2年前に見つけたとっておきの場所だ。船着き場の端から河底に降りて少し歩いたところにある。この河底はずっと水がない。雨が降ってもすこし濡れる程度で流れはできなかった。父さんたちは水がなくても河底には絶対下りるなって言うけど、河上を見てたら水が来るかくらいすぐ分るし、今まで全然問題なんてなかったから大丈夫だ。



 秘密基地に戻ると、妖精を信じてなかったヤツらは全員目が点になってた。へへ、だからホントだって言ったんだ。オレたちのグループはみんな親が船乗りで、船からの荷下ろしとかをよく手伝わされてるうちに友達になった。一昨日雨が降って船が動きそうだからって、みんな昨日荷物運びを手伝わされて、久々に全員集合して、それで翌日集まろうぜってなって、今日集まったんだ。



「うわー、マジだ! マジで妖精じゃん!!」

「すごーい!」

「光ってるな、ホントに妖精って羽で空飛ぶんだな」



「へへ、オレたちはさっき妖精に空を飛ばしもらったんだぜ!」

すかさずオレは自慢した。こん中で空飛んだヤツなんて、絶対オレたち兄弟だけだ。


「マジでぇー!?」

「はぁ? なにそれ、ずっりー!」

「オレも空飛びたい!」

「ボクも!」


 思ったとおり、友達たちはみんな羨ましがった。けど、優しい妖精はみんなも空に飛ばしてくれたんだ。オレは優越感がなくなってちょっと残念だったけど、それもすぐに消えた。空を飛んだ楽しさを共有して、あれこれ言いあうのが楽しかった。


 一通りみんな空を飛んで楽しんだ後、オレたちは妖精に宝物を見せてやった。秘密基地にはみんなそれぞれ宝物を持ってきて隠してるんだ。普段は誰にも見せないけど、この妖精は特別だからな、もう仲間みたいなもんだし。セントも嬉しそうな顔で親の形見を妖精に見せていた。あんまり笑わないセントが笑っていて、オレはなんだか安心したんだ。


 楽しい時間はあっと言う間に過ぎる。気付けば夕暮れで、オレたちは急いで家に帰った。


 んで、遅くなったからって、母さんにしこたま怒られたんだ……。なんでオレだけ?


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