027. 秘密基地

 お、あれは前に私に棒を振り回したガキンチョ!


 変態黒コートから逃げてフラスコ看板の建物から出てきた私は、昨日も広場で会った子ども3人組を見つけた。3人の子どもは年齢が違うようだ。雰囲気はそれほど似ている気はしないけど、兄弟だと思う。兄は若干勝気な性格に見えるけど、2番目は普通な感じ、1番下はちょっとオドオドしているかもしれない。上の兄くんでも、たぶん銀髪ちゃんより歳下だ。



 その兄弟が何かを訴えている? 手招き? 子ども特有の全身をつかったジェスチャーで、おそらくこっちに来いって言っている。


 ふむ、観光と言えば、現地人に穴場を案内してもらうのも乙なモノかもしれないね。私は3人の子どもたちに付いて行くことにした。



 移動は全力ダッシュだ。さすが子ども、見失わないように注視しておかないといけない。ちょっとちょっと、観光どころじゃないじゃない……。


 年齢が上の2人は、その小さな体のどこにそんなスタミナを備えているのかと言うほど爆速でかけていく。おいおい、下の弟くんが遅れてってるよ、もう。弟くん涙目じゃん。兄よ、もうちょっとちゃんと見てあげて。仕方ないなー。


 私は弟くんを浮かせて飛ばし、兄くんたちを追いかけた。最初びっくりしていた弟くんは次第に笑顔になる。そうか、楽しいんだね。喜んでくれて嬉しいよ、ちょっとサービスしてあげよう。


 人通りが少ないタイミングで弟くんをカーブさせたり、ちょっと回したりして楽しませた。さながらジェットコースターだ。ほーら、高い高ーい!



 気付けば兄くん2人が立ち止まってこちらを凝視していた。私がそちらを見たことで、自分を指さして何か言っている。ふむ、キミたちもやりたいか、ジェットコースター。ただ3人同時はどうかなー、いけるかなー? 3人同時に浮かすことはできそうな気もするけど、3人同時に安全管理ができるかは分からない。私は弟くんを下ろして、まずは大きい方の兄くんを浮かせた。ほーら、1回転だぞー。


 その後、2番目くんも浮かせて満足させた後、また移動が開始される。これは東に向かっているのか。最初は見失わないようにしてたから気付かなかったけど、もう東門付近まで来ていた。


 東門まで来た後、城壁沿いに大通りから逸れてしばらく進むと、何やら下に向かう階段があった。人間の成人男性の半分くらいの高さを下ると、城壁を抜ける門がある。東西や南にある立派な門じゃなくて、通用門みたいな、ただ扉があるだけといった感じの門だ。扉は開けっ放しである。


 一応兵士が1人立っているけれど、子どもたちが通っても何も言わなかった。兵士さんは私を凝視している。やっぱり妖精は珍しいんだなぁ。



 子どもたちに付いて門を抜けると、そこは船着き場だった。私たちが通ってきた門は船員用の門だと思う。スロープの先に大きな門があるから、あれがきっと荷物搬入用の門だろう。また、城壁沿いにそのまま東門外側へ行けるようになっていて、船客は船を降りたら東門から街に入るんだと思う。つまりさっき通ってきた地味な扉は、おそらく従業員以外お断りってヤツだ。


 何故子どもが通っても大丈夫なのかは分からないけど、兵士が何も言わなかったし子どもたちも平然と通っていた。いつものことなんだろうね。


 子どもたちは船には目もくれず、船着き場の端まで走っていく。船着き場の段差の下は、本来なら河の水があるんだろうけど、今は水位が低くて水が来ていなかった。段差の中ほどのところまで変色しているから、おそらくここまで水が来る筈だよ。


 子どもたちは船着き場を飛び降り、水が無くなった河底に下り立った。おいおい、大丈夫なのそれ、突然水が来ておぼれたりしない?


 河底に下りたことで初めて、城壁にアーチ状の窪みがあることが分かった。そこに10メートル四方くらいのスペースがある。その奥から溝が続いていて水が流れてきている。なるほど、河への排水溝なのか。このスペースはメンテ用かな?


 そんなスペースに、私を案内した3人以外の子どもたちが6人いた。オモチャのようなモノも散乱している。おー、ここはアレだ! 秘密基地だ! この街の子どもグループの秘密基地に招待されました! これは穴場スポットだねー。



 私と来た3人と、元からいた6人が何やら会話している。上の兄くんが満面の笑みで得意気だ。そしてなにやら身振り手振りで、手を上げたり回ったり飛んだりしている。ああ、なるほど、さっき私がやってあげたジェットコースターを自慢してるんだな。微笑ましいね。


 その後やっぱり他の子どもたちからもせがまれたので、1人ずつ順番にジェットコースターをやってあげた。秘密基地内にあったよく分からないものを指さして説明もされた。子どもたちはハイテンションだ。色々遊んで付き合ってたら、気付けば夕暮れだった。


 1人の子どもが焦った様子で帰る素振りを見せたことで、その場は解散となった。私もお城に帰ろう。排水溝で遊んでいたからお風呂に入りたい。そう言えば昨日も帰った後お風呂に入れてくれたんだよ。今日もお風呂準備されてると良いなー。


 夕暮れの中、私はお城に向かって飛ぶ。月が2つとも出ていて綺麗だ。時間帯によって1つしか見えなかったり2つ見えたり、どっちも見えなかったりするんだよね。片方は違和感ないんだけど、もう片方が異常に速く動いている。公転周期がめっちゃ速い。その分満ち欠けも速いのかもしれない。昨日は半円に見えたその月は、今はちょっと膨らんで見えた。


 明日はどうしようかなー。

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