025. 錬金術師

 昨日、冒険者ギルドに行ったあと、中央広場から南門まで観光してからお城に帰った。

その翌日、私はまた街に観光に来ている。



 お城から街に向かうと河がよく見える。係留されていた船の大きさに対して河は明らかに水位が低い。あの大きさの船があるんだから、今の水位が普通ってことはないでしょ。


 昨日お城に帰ってから夜の間にまた雨が降っていた。ちょっと前まで乾期で、今は雨期に入ったんだと思う。河の水は昨日より明らかに増えているけど、それでもまだまだ少ないね。あの大きな船が動かせるくらいまでには、この雨期で回復するのかな。


 気候が1年周期で安定しているのなら、来年も同じ時期に乾期になるんだろう。そうすると大きな船は雨期後の一定期間しか運用できないことになる。その間のためだけにあの大きさの船を用意してるなんて、なんか意味があるのかなぁ。




 昨日行った南側はやっぱり西側より栄えているみたいで、お土産物屋とかカフェとか色々あった。西はたぶん住宅街で南は繁華街なのかな?


 でも、お土産物屋はちょっと期待してたのとは違ったんだよね。全体的に空き棚が多かった。私は商品棚とかに空きスペースがあると、なんだか萎えてしまうんだ。旅行者がしばらく来なくなって廃れた観光地の雰囲気が漂っていたよ。


 旅行者、少ないのかなぁ。この世界の文明レベルが低いから旅行者が少ないってことはないだろう。もしそうなら、初めからお土産物屋の商品棚を小さくしておけば良いのだ。商品棚が広かったってことは、旅行者が多く来ていた時期もあったんだと思う。それが季節的な問題なのか、すでに廃れた後なのかは分からないけど。


 ご当地グッズみたいなのがあるかなと思ってたんだけど、あんまり目ぼしいものはなかったんだよね。壺とかお皿とかもあったけど、前世の食器を知ってしまっているとどうしても見劣りする。たぶん広場から南は庶民向けのお店なんだ。貴族向けの食器がめちゃくちゃ豪華なことを私はお城で知っている。そして食べ物のお土産はほとんどなくて、保存食みたいなのばかりだった。




 んで、今日はどこに行くかというと、昨日めぼしはつけてあるんだ。どうやら主要な建物は中央広場をぐるっと囲むように集まっているようだ。まずはあのフラスコのレリーフの看板に行ってみようと思う。予想だと錬金術関連だと思うんだよね!


 中に入るとカウンターがあって、待合室みたいな感じだ。 等間隔に長椅子が置かれ、なんか病院のロビーみたい。病院と言っても、この世界は照明がそこまで発達していないから結構薄暗い。


 ツンとした薬品の臭いがする。錬金術か、そうじゃなかったら薬品関連の建物なのかもしれないな。でも人はいなくて閑散としている。カウンターに1人いるくらいだ。あ、カウンターの人が奥にひっこんだ。無人にしてて大丈夫なのかなー、不用心だね。


 とりあえず地図を出してこの建物の構造を確認する。上4階に地下も2階まであるね。となったら行くのは地下でしょ。あやしい実験とかしてるなら地下って相場が決まってるもんよ。私は床をすり抜け地下に向かった。



 あれー、あやしい実験場はどこ? 木組みの棚がいっぱい置かれていてまるっきり倉庫だ。でっかい壺に色んな薬品を混ぜて煮て、ねればねるほど色が変わって……、ってなことを想像してたんだけどな。


 棚は部屋いっぱいに置かれているけどほとんど空だった。はしっこの棚に少しだけ薬品瓶が置かれている。これは回復薬か。なぜか分からないけど、それが回復薬だということだけは分かった。


 こんなに広い部屋にこれっぽっちしか無いなんて、場所的にもったいないなー。昨日のお土産屋でも感じたけど、棚とかのスペースに対してモノが圧倒的に少ない。そう言えばお城の宝物庫もモノが少なかった。


 回復薬なんてあればあるほど良いでしょ。よし、それなら補充しておいてあげようかな。私は回復薬を作っては棚に置いた。見た目的に高級品になるように、ビンには妖精の羽模様を金縁で入れておく。それを量産してどんどん棚を埋めていく。よしよし、やっぱ棚いっぱいに揃ってた方が見栄えするよね。



 その後地下2階に行ってみたら、同じようにガランとした棚が置かれていた。

しょうがないなぁ。今度は魔力回復薬を作って棚を埋めていく。


 よし、今度は上に行ってみよう。天井を抜け、1階を通り越し2階に入った。


 お、なんか男の人が数人いる。びっくりしてこっちを見てるね。デスクが10個ほど置かれ、それぞれのデスクに書類が溢れかえっている。2階は事務スペースなのかな。


 え? なんだなんだ? よくわからないけど2階にいた男の人たちが小ビンを持って私に迫ってくる。黒いコートでベルトにはじゃらじゃらと何やら器具らしきものを付けていて、あれが錬金術師ですと言われれば、なるほどこれが錬金術師かと納得してしまえる服装をしていた。そんな黒コートさんたちが小ビンを手に迫ってきている。もしかして小ビンに私を閉じ込めるつもり? ちょっと距離を取って様子を見よう。


 すると黒コートさんたちは、さっきまで私がいたあたりで小ビンをブンブン振り回している。何してるの? めちゃくちゃあやしい。


 あらかた小ビンを振り回して満足したのか、また私に目を向けてくる。こっちに来た…? 捕まえに来たのかと思ったけど、黒コートたちは私の真下あたりで小ビンを掲げて喜んでいた。なんだ、変態か? 変態黒コートだ。


 私はドン引きして少し離れる。変態黒コートたちも小ビンを私の下に移動させる。私が移動、小ビンも移動。なんだこれ、こわっ。


 私は怖くなってその場を離れた。


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