023. お肉
私が冒険者ギルドで一通り何があるのか見て回っていると、依頼票と思しき掲示板みたいなものの前に集まっていた冒険者、列に並んでいた冒険者、応対していた受付の人、横の飲食コーナーで食事中の冒険者、みんなみんながこちらを向いていた。
そして次の瞬間、突然4人組が襲ってきた、うわー。
まぁでも、あんまり危機感ないよね。だっていざとなったらすり抜けできるわけだし。思わず避けてしまったけど。
4人が追いかけだしたことを皮切りに、ギルド内のほとんどの冒険者が私を捕まえようとしてくる。なんだなんだ、王家からお触れとか来てないの? でも私の名前叫んでるよね、愛称だけど。王家のペットに手を出すなんて言語道断だよ? 控えおろう!
どうせすり抜けられるからって余裕をかましていたけど、この人数に鬼気迫る勢いで追いかけられたら、さすがに怖い。うわー、腰きいてるねー! 届かないと思った距離から拳2個分くらいは腕が伸びてくるよ。さすが冒険者、身体能力がヤバい。すご。
だけどこれはどうかな? 右に行くと見せかけて~、左っ! なに、私のフェイントに付いて来るだと? ホーミングミサイルかよ。でも私知ってるよ、ホーミングミサイルの対処法。障害物に引き付けてギリギリで避けるんだよね?
受付カウンターのギリギリ手前まで直進して~、くお~!! ぶつかる~!! ここで急ターン、受付カウンターを右に! 冒険者はカウンターに突っ込んだ! エフェクトのように書類が舞う! 受付の人が絶望の表情だ、ごめ~んね。
そうこうして逃げ回っていると、なにやら冒険者同士で勝手にケンカを始めた。
あれ? 私を追いかけてたんじゃないの? おーい、ここだよー、妖精さんだよー?
まぁ良いか、追いかけられないのならその方が良い。
私は飲食コーナーのテーブルを見た。テーブルに置かれた料理もしっちゃかめっちゃかだけど、奥の方に無事な料理が置かれている。それを食べている冒険者はいない。たぶんケンカ中なんだろうね。今は無事とは言え、この大乱闘。そのまま置いておいたら、そのうち無事な料理もダメになっちゃうね。
はぁ、しょうがない。しょうがないよね。このまま置いておいたらダメになるんだから、私が食べといてあげようじゃないか。優しいね、エコだね。いただきます。
うんうん、さすが冒険者。肉だ、でかい肉。脂身は少ない。ステーキと言うよりは塊肉をとりあえず焼きました的なワイルド料理だ。ちょっと塩がかかってる。食器類も一緒に放置されてるけど、このでかいナイフとフォークを使うのはしんどい。私は自分サイズのナイフとフォークを作った。でもどうやって食べよう。
肉は私の身長の半分くらいの厚みがある。これを切るのはちょっとキツイ。試しにフォークを突き刺してみた。お?
これは……。私はフォークをぐりぐりする。すると肉がほぐれて自分の小指ほどの太さの筋が1本分離してきた。それを引っ張って端からかじる。うん、薄味だけど美味しい、牛肉っぽい。見た目的に太巻きにかぶりついてるようなビジュアルになってしまってるけど、この大乱闘の中誰も気にすまい。うまうま。
と思ったら受付の人がこっちを見ていた。なんか変な顔をしている。ファンシーな幻想を抱いていた妖精さんが大口開けて肉に噛り付いていたから、理想と現実のギャップに悶えているのかも。それは悪いことをしたね。
しかしでかい、全部は食べきれないよ。まだまだ街も見てまわりたいし、とりあえずごちそうさましとくか。冒険者ギルドもまだよく見てないから、もうちょっとちゃんと見たいんだけど、この騒ぎだ。また後日にして今日は他回ろうかな。なんかケンカで怪我人出てるけど、ちょっと私のせいもあるし治しとくか、ほい。
よーし、待っててね街、今私が行くよ!
私は冒険者ギルドを飛び出した。
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