022. ギルドマスター

「馬鹿野郎! なにやってんだテメーらっ!」


 ギルドマスターであるこの俺が直々に大事な話をしてたっつーのに、ギルマスしか止められない暴動が起きたって、何してやがんだこいつら、大乱闘じゃねーか。どいつもこいつも馬鹿やりやがって。あーあー、依頼ボードも真っ二つじゃねーか。



 一昨日の夜、急にドバーッと雨が降りやがった。このまま雨が降らなきゃそろそろヤベーと思ってたんだ、ありがてぇ。


 こりゃぁ船が動くぞと判断して、ギルドで緊急会議をおっぱじめた。今までずーっと物流が止まってたからな。食料やら素材やらも足りねぇが、今は何よりポーションが足らねぇ。今後の対応を話し合った。


 んで雨があがった翌日、俺は朝から商業ギルドにポーションの仕入れを確認しに行き、サブマスは薬師ギルドにポーションの在庫状況と今後の生産状況を確認しに行かせた。



 ここ数年、不作のせいか野盗が増えて地上の物流はストップ、雨不足で船の物流もストップ。そのくせポーションだけは他国へガンガン流出してやがる。さすがに変だってんで調査もさせたが、買い手は様々な国の色々なヤツらで、買い手同士に繋がりはなかった。誰かが意図的に買い占めてるような動きなんだが、イマイチわからねぇ。


 ポーションは冒険者にとって命綱だ。こんなに不足してりゃ、依頼にも影響が出てくる。最悪、死だ。ポーションの備えはあった方がいい。


 それに、雨が降ったのは嬉しいことだが、雨が降ったとなりゃ、今年は"双子"の影響もでかいだろう。ポーションはあればあるほど良いと思えた。



 そんな大事な話をしてたっつーのに、妖精が出て乱闘が起きただとぉ? なに寝言言ってやがんだ。一喝することでとりあえず乱闘騒ぎは収まったが……、予想以上にひでぇなこりゃ。




「で、妖精が出たって? その妖精はどこだ?」

俺はカウンターから顔を半分出して様子を窺っていた新米受付嬢に聞いた。


「え、えーと、もう飛んでっちゃいました……。さっきまでお肉食べてたんですけど」


「はぁ? 肉食ってて今はもういないだとぉ? 本当に妖精だったのか?」



「それは間違いない、妖精だったねぇ」


「ザンテン、お前もいたのか」


やや細身の中ランク冒険者であるザンテンが話に入ってくる。ザンテンは討伐などはあまり得意じゃねぇようだが、調査依頼はなかなかのものだ。



「こんだけ荒れてる理由がわからねぇ、どうしてこうなった?」


「いやぁ、急に来た妖精を皆よってたかって捕まえようとしてねぇ」


「こんなに冒険者がいて、こんなに大暴れしといて、誰も捕まえられなかったのか?」


「あぁ、そりゃ無理でしょうよ。大騒ぎで気付いてない奴も多そうだけど、あの妖精、モノをすり抜けてましたからねぇ。なまじ避ける動きをするもんだから捕まえられそうな気にさせるけど、ありゃ何やったって捕まえられないでしょうよ」


「なんだと? 妖精はモノをすり抜けるのか。なんだってそんなのが、いきなりギルドに来たんだ?」


「そりゃぁ分かりませんねぇ、俺も知りたいくらいですよ。依頼出してくれたら調べてみますぜ?」


 ザンテンの調査なら色々と分かるか……。俺は依頼を出すことにした。

「よし、ギルドからの指名依頼だ。妖精の出所とか関連情報を可能な限り調べて来い」


「あぁ、分かりましたよ。そいじゃ今から行ってきますかねぇ。依頼手続きは後からでも良いでしょ? 報酬は弾んでくださいよ」


「ああ、頼むぞ」


「はいは~い」



 どうも言動は軽いが、あれでも調査任務はいっぱしの実績がある。大丈夫だろう。そんなことよりこの荒れたギルドを片付けなきゃいけねぇ。ったく、このクソ忙しいタイミングで面倒なことしてくれたぜ。


「おいお前、とりあえず依頼ボードを補修しとけ。大至急だ」


「えぇ~、私がですかぁ!? 受付業務はぁ?」


「受付は私達がやりますよ。アナタは早く補修なさい」


「せ、先輩、そんなぁ……」



「俺はもう1度、商業ギルドに行ってくるからな。後のことは頼むぞ」


はぁ、なんだってこう次から次へと……。俺は足早に商業ギルドに戻ることにした。


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