021. 冒険者ギルド

 雨が降ったことで、いろんなことが動き出してる。ここのところギルドの受付業務はめっぽう暇だったけど、雨に合わせてたくさんの依頼が集まって、受付嬢の私も久しぶりに大忙しだよ。


 つい先日まで船が動かせないくらい河の水位が下がっていたんだ。これはいよいよ駄目かもしれないってギルドマスター達が渋い顔をしてた。そんなギリギリのタイミングでようやく雨が降ってくれて、なんとか小さい船なら動かせる状況になったんだって。


 船が動き出したから、船で届いた荷物を次に送る陸路も動き出すって。止まっていた物流が一気に動き出すからって、それに合わせて護衛依頼が舞い込んできた。


「はいは~い、ちょっと下がって下さいね~」


 依頼ボードに依頼票を貼り付けていく。雨の後にしか採取できない薬草類もあるし、護衛を受けられない低ランク冒険者向けの依頼も多くあるね。特にポーション類は今不足気味だし、頑張ってもらわないと。


 これまで周辺の魔物や野盗の討伐依頼くらいしかまともな依頼が無かったのだけど、そんな依頼ばっかり冒険者がやるものだから、魔物も野盗も王都に近づかなくなったんだ。それは良いことなんだけど、当然依頼は減って取り合いになってた。王都から3日くらい離れたとこなら、野盗も結構出るらしいけどね。


 そこに一気に依頼が供給されて、冒険者が群がってる。ホントてんてこまいだよ。


「ちょっと通りますね~。は~い、通してくださ~い」

依頼票を貼り付け終わったら、急いで受付カウンターに戻る。今も冒険者が列を作っていて、先輩受付嬢が早く戻れと無言のプレッシャーをかけてくるよ、とほほ。


 物流が動き出すからって、ギルドマスターは商業ギルドへ話し合いに出てった。サブマスターも薬師ギルドに行った。ギルドのカウンター内には今、私たち受付嬢と内勤の男性職員の合わせて数人くらいしかいない状況だったんだ。


 そんな状況で私が受付カウンターに付いたとき、突然それはやってきた。昼前の明るさにも負けない明るさで光ってる羽のある女の子。私は一瞬なにがなんだか分からなかった。目では見えているんだけど、突然御伽話の存在が目の前に出てきたら皆そうなるって。あれは妖精だ、理解するのにちょっとかかっちゃった。



 そんな私に構いもせず、妖精はギルド内をぐるぐる飛び回りだした。光の粒が尾を引いて綺麗。依頼を受けにいつもより多く集まっていた冒険者達も目で追っている。



「なんだなんだ?」

「妖精?」

「妖精だっ!」


 だんだんと正気を取り戻した冒険者達が騒ぎ出す。そして予想できたことがすぐに起こっちゃった。



「おいおいおい、アレを捕まえたら大儲けなんじゃねぇか?」

「良いっすねー、兄貴!」


 冒険者4人組が妖精を追いかけだした。すると他の冒険者も便乗して、俺も俺もと手を伸ばす。妖精は冒険者の手を避け網を避け縦横無尽に飛び回った。これはダメだ、何とか止めないと!


 そう思って声を張り上げようとしたとき、妖精の急な方向転換に付いていけなかった冒険者が受付カウンターに突っ込んできた!


「うひゃあっ」

私はとっさに後ずさると、一瞬前まで私がいた場所に冒険者が頭突きして、カウンター上の書類が散らばった。


「ああ~っ!」


壁際では依頼ボードに突っ込んだ冒険者がボードを真っ二つに、依頼票が舞う。


「ああ~~っ!!」


私を含めたギルド職員が絶望の叫びをあげた。



「おいっ、なんだぁテメェ!」


「はぁ? お前がぶつかってきたんだろうが!」


「なんだとぉ?」



 あああ…、これはホントにダメだって。収拾がつかない! 冒険者同士のケンカも始まっちゃった! 私はたまらずカウンター裏に屈んで身を隠す。


「おい、誰だオレに網を被せた野郎はっ!?」

「ぎゃはははは! ざまぁねぇな!」



 ケンカはどんどん広がりもはや暴動だ! 私にはもう何もできない、縮こまってやり過ごそうとしてたのに、先輩が突然声をかけてきた。


「ちょっと、アナタ! 私はギルマスを呼んで来るわ! アナタはできるだけ被害を抑えてなさい」


「ええ~、被害を抑えるんですかぁ!? 私がぁ!?」

無理無理、無理だよぉ!


「そうよ、任せたわね!」

そう言って先輩受付嬢はギルドを出て行った。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ先輩~っ! うひゃぁ!?」


 先輩を追いかけようと立ち上がったらイスが飛んできた! あっぶな! もうちょっとで当たるとこだったよ!?


 見るとすでに大半の冒険者は妖精を追ってなくて、そこかしこでケンカしている。大乱闘だよ!


 妖精はどこ?? いない?


 あっ。


 妖精は、ギルド併設の酒場でお肉を食べてた。

 うっそぉ……?


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