二章 2つの満月
020. 観光開始
宝物庫から出た私は貴族街を飛び越え街に向かった。貴族街よりもまずは普通の街を見てみたいよね。
空には白虹があり雲はモクモクと縦長だ。雲は凄く低い位置にあるように見えるね。白虹を見るのはたった2日ぶりなんだけど、なんだか久しぶりに感じる。それだけお城に入ってからのあれこれが濃密な時間だったんだねぇ。
2つの月も見える。それぞれ満ち欠けの度合いが違うみたいだ。1つは満月に近い形をしているのに、もう1つは半円だった。惑星に衛星が複数あると満ち欠けは同じにならないのか、ふーむ。
気候はカラッとしている。あれほど雨が降っていた後で地面はまだべちょべちょだというのに湿度が低いなんて、雨が少ない地域なのかもしれない。
そこそこ暑いけど、今が夏でこれ以上暑くならないのか、今は夏ではなくて夏はもっと暑くなるのかは分からない。雲の形的には夏っぽいんだけど、なにせ異世界だ。雲の形で季節なんて判断できないだろう。今の季節が分からないから、太陽の位置を見てもここの緯度はよく分からないな。
上から見るとこの街は本当に大きい。街はお城を中心に南側を西から東へ半円を描いて伸びていて、扇状に展開している。西、南、東にはそれぞれ門があるけど、北側はお城があってその裏側がどうなっているか見えなかった。お城の南側に街ができたのは陽当たりの都合だと思う。北側に街を作ろうものなら、日中もお城が邪魔で日が当たらないだろう。
遠目に河が見える。河は東門のすぐ外を通っていて、そのため東門は西門とはかなり違った特殊な構造をしているようだ。まず河が天然の堀みたいになっていて跳ね橋がある。門の横には船着き場や船専用の荷下ろし場、船から降ろした荷物を街に入れるための専用門などが併設されているようだ。
街に入る前に見たときは普通に見えていたけど、空から見ると河の水位は大分低いね。あれだと大きな船は使えないのだろう。大きめの船は全て停められ、今動いているのは全部小さな船だった。
南門はやたら大きい。どうやらこの街の正門は南門のようだ。南門から一番大きな道が通っていて、東西の門から2番目に大きな道が伸びている。3本の大通りは中央で合流して広場になっていて、そこからお城に向かう道があった。町全体が扇形になっているため、東西の大通りは緩やかなカーブを描いている。
私が街に入ったのは西門だ。西門の大通り沿いは3階建ての建物が多かったけど、南門の大通りは4階建てが多く5階建ての建物も少なくない。
大通りの合流地点にある広場は円形で、柱に支えられた廊下のような半円の建物が東西を囲むように建っている。その中央には噴水があった。だけど水は出ていないね。
そして噴水の前には石像だ。噴水を背にして南側に石のおっさんが建っている。私は石像に近づいた。野晒しになっている割にはあんまり浸食されている感じはしない。やっぱり雨が少ないのか、もしくはこの石像がお城よりは新しいのか。剣を掲げた立派なおっさんだ。この国の英雄か何かなのかな。なにやら文字が彫られている石碑もあったけど、何が書いてあるのかは当然分からなかった。
この街に入った際には人通りなんてほとんどなかったのに、今は結構な人が騒いでいる。やっぱり来たときは夕方だったから人が少なかったのか。
子ども3人が私に向かって走ってきた。偉大なる王家のペットとして迎えられた私は、今や隠れる必要などないのだ。堂々と子どもを見やった。さすが王家のペット様、こんな子どもにも私の名前が通達されているらしい。アシェール、アシェールとうるさい。だけど子ども達よ、私の名前はアシェールラだよ? アシェールて愛称? あだ名なの?
妖精が珍しいのだろう、子ども達はひたすら飛び跳ねて喜んでいる。わ、やめろ、棒でつついてくるな。
ふぅ……、ガキンチョどもめ。私が転生者でよかったね。純粋な妖精なら速攻逃げられてたか、最悪反撃されてたよ。まったくもう。しかし私は大人だからね、大人の対応をしてあげようじゃないか。
ガキンチョが私に手を伸ばしてきた。私はギリギリ届かない上空に逃げる。ガキンチョ達はジャンプして捕まえようとしてくるが、ジャンプするたびに上昇して、着地したら高度を下げる。ほら、頑張れ頑張れ、私はここだよ~。あ、おい、棒はやめろ。
しばらくガキンチョと戯れていたら、親らしい女性が血相を変えて走ってきた。私の名前が通達されていたってことは、私が王家のペット様であることも知っているのだろう。そりゃ、自分の子供が王家のペット様に向かって手を伸ばしたり、あまつさえ棒を振り回したりしていれば血相も変えるだろうね。1番小さいガキンチョが母親らしき女性に引きずられていき、残り2人のガキンチョもそれに付いて行った。
よしよし、これで観光の続きができるよ。えーと、目ぼしいものはっと……。
お、あれは! 剣と盾の看板! 武器屋か? 武器屋なのか!? うひょー! 私は喜び勇んで剣盾看板の建物に飛び込んだ。
……あれ? 武器屋じゃないな。カウンターがあって応対員らしいお姉さんがこちらを驚愕の表情で凝視している。反対側には飲食店? フードコートか?
いや、これはあれだ、冒険者ギルド! 冒険者ギルド来ましたーっ!
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