008. 大捕物
私は翌日の観光のため、どこか適当なところで夜を明かそうとしていた。……んだけれど、ふいに雨が降り出してきちゃった。
ようやくお城について、いざ観光しようとした前日に雨が降るとかとても残念なんだけど。これまでずーっと晴れてたじゃん。
うーん、雨は考慮してなかったなぁ。さすがに雨の中外で寝る訳にはいかない。
しかし、ふと気づけば雨は私の体を透過していた。私はモノを透過できるのだ。きっとお城の壁も透過して中に入れるだろう。雨は体を透過して濡れるようなことはなかったけど、それでも雨の中外で夜を明かす気にはなれない。
私はお城の壁をすり抜けて中に入った。やっぱ壁通り抜けられるわ私。すご。
どこでも入りたい放題行き放題じゃん。
ほとんど覚えていないけど、壁を通り抜ける作品は前世に多くあったように思う。私はずっと疑問だったのだ、壁の中に居るときはどのように見えているのだろうかと。きっと壁抜け中は視界が真っ暗なんじゃないかと思っていた。でも視界は遮られず、普通に壁の向こう側が見えていた。むむむ、とつぶやき今通り抜けてきた壁を意識して見ると、壁の向こうの外の景色が見えた。どうやら壁抜けどころか透視もできるようだ。
そう言えば、ずっとなんの疑問も抱いていなかったけど街並みなどを普通に認識していた。私はこんなに小さくなったのに、人間サイズの大きな街を前世のような感覚で認識できているのだ。
視界が普通じゃない。私は光だけじゃなく魔力とかそういった不思議パワーで視界を確保しているようだ。でもまぁ深く考える必要はないか。見えないのは困るけど、よく見える分には問題ない。
いざお城に入ってみると城内は意外に明るかった。廊下に等間隔に照明が並んでおり、薄暗い廊下を幻想的に照らしていた。魔力を感じる、魔道具だろうか。
観光は明日からと思っていたけど、これなら十分城内観光ができるね。私はそう思い行動を開始しようとしたけれど、目を点にして固まっているメイドさんと目が合ってしまった。
「ア、アシェールッ!?」
やば、逃げよ。
何か叫んでいたメイドさんを置いて私はその場を飛び去った。
そこそこ離れたところで私は観光を再開するつもりだった。
さっきのメイドさんに追いかけられないように、壁抜けなども駆使して移動したのだ。考えなしに移動したのが悪かったのだろう、行く先々でいろんな人に見つかってしまった。途中、巡回していた兵士みたいな人に見つかってからしばらくして、大捕物が始まってしまった。
兵士がいっぱい追いかけてくる!
私はぐるんぐるん逃げ回り壁抜けして飛び去っても、その先でも兵士に追いかけられる。こんなに薄暗い城内でこんなに小さな私をよく見失わずに追ってこられるものだ。メイドさんもいっぱい走ってくる。頭の中では大混乱系喜劇のBGMが鳴り響いていた。
網を投げられる。残念! 私は物を透過できるんだよーん!
あ、魔法使いだ!
あのローブ! あの杖! 魔法使いだ!
3人の魔法使い、おじいちゃん、おじいちゃん、若者のローブ3人組がこちらに走ってくる。お城の中で魔法をぶっぱなすわけにもいかないためか、とくになにか魔法を撃ってくる感じはなさそう? 他の人たちと一緒に追いかけてくるけどひぃひぃ言ってるね、あまり体力がなさそう。
「おじゃーっ!!」
おじゃーって言った! おじゃー!
現地語がわからないからきっとちゃんとした魔法名か呪文なんだろう。
しかし、かなりお年を召したように見えるおじいちゃんが迫真の顔でおじゃーと絶叫したその鬼気迫る勢いと、これまでの騒動で一番でかい叫び声に驚愕して私は回避が遅れた。
おじゃーの魔法はどうやら通せんぼ魔法らしい。私の中の無意識がこれは一種の防御魔法だと言っている。目の前に魔法陣が輝き結構なスピードで飛んでいた私は透過するのも忘れぶつかってしまった。私の透過能力はパッシブスキルではなくアクティブスキルなのだ。意識的に透過しないとすり抜けできない。雨は無意識で透過していたけれど、あれは雨を認識した上で当たるのが嫌だと思っていたからだ。
ふと見上げると、最初に目があったメイドさんが鳥籠を持って近づいてくる。
さっきまで全力疾走していたのだろう、汗だくですごく息が荒い。
鳥籠を見ると、中ほどが少し膨らんでいる金色のアンティークっぽいかなりオシャレな鳥籠だった。扉にはまた白虹があしらわれている。この世界の標準的な扉の装飾なのかもしれない。上部には蔦を被せたような小さめの花が鳥籠と同じ材質で装飾されており、下部にはこれまた同じ材質で大きめの花が並んでいた。素敵。
私は考える。これは捕まった方が良いのかもしれないね。
ここまで大騒ぎしても殺さず捕らえようとしているところを見ると、すぐに殺されるなんてことはないだろう。森の盗賊は捕える素振りもなくすぐ殺されていたし、殺すなら最初から殺しに来ていた筈だ。
よくよく考えれば城内を逃げ回らずに壁抜けして外へ逃げることも可能だけど、こんな大騒ぎされたのだ。このまま逃げて明日街へ観光に行こうものなら、大勢の兵士に追いかけまわされる未来しか見えない。
それにこんなに騒ぐのだ、きっと妖精は珍しいんだろう。そんな珍しい妖精がホイホイ飛んでいたら、他の貴族が争って手に入れようとするかもしれない。そんなとき王家の庇護下に居ると分かれば貴族も諦めるだろう。なんてったって、私は王女の命の恩人の筈だ。あのとき銀髪ちゃんとは目が合っている。涙目で訴えれば銀髪ちゃんのペットになれる可能性はかなり高い、私は王家の忠実なペットです! わんわん!
私は近づいてきたメイドさんに抵抗することなく、鳥籠に入れられたのだった。
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