第16話 再びのドラゴン
ベアルンから馬車で一日かけて辿り着いたのは山と湖の街、リズだった。
「馬車も実家の馬車かよ……」
護衛一日目、見せつけられたのはゼクスの実家の経済力と女癖の悪さだった。
一日目の晩は街で見つけた女性に声をかけて半ば強引に女を連れてそのまま何処かへと消えていった。
「護衛というよりかは監視だが……どこまでが護衛の範疇なんだろうな……」
さすがにベッドインまで見張るわけにも行かないし……。
「戦闘時だけでいいと思う」
「そうだよなぁ……」
ヘレナは女を連れたゼクスが消えていった方向を、汚らわしいようなものを見る目で見つめて言った。
「なら俺達は、ゼクスの明日の行動範囲を下見しておくか」
「お兄ちゃん……意外と真面目」
「まぁ、金は貰ってるからな」
おまけにこの護衛以来で使った費用は経費としてギルドに請求できるときた。
俺としてはゼクスに思うところが無いわけじゃないが、それでも一つの依頼だと割り切るまでだった。
「お兄ちゃんとそういうところ……好き、だけど……それと同時にお兄ちゃんをバカにしたアイツにそこまでの労力を割いて欲しくない」
ヘレナは、むぅ〜っと頬を膨らめると抱きついてきた。
昔からのヘレナの癖で、構ってきて欲しいときはいつもこうやってくる。
「分かった分かった、ならメシにでも行くか?」
コクコクッとヘレナが頷いたのでそうすることにした。
でも、これだけは言っておかないとな。
「あのなヘレナ、俺もヘレナももうちょっとで成人になるんだ。だからそろそろ兄離れしないとダメだぞ?」
年齢で言えば俺は十六、ヘレナは十五。
普通の兄妹がどんなものかは知らないが、きっとこんな風に手を繋いだり抱き合ったりはしないのだろう。
「えっ……?」
ヘレナは足を止めると衝撃を受けたような顔で俺を見つめた。
「たった一人の家族だ、お互いを頼っていくのは当然のことだし俺もヘレナに依存しているのは自分でも分かっている」
互いへの依存度が高いのは置かれた境遇があまりにも特異的だったから仕方ないと言えば仕方ないのだろう。
「俺はヘレナにはいつか、陽のあたる場所を歩いて欲しいと思っている。そしていい人を見つけて幸せになって欲しい」
兄として願うのは妹の幸せだ。
そのために邪魔になるのなら、俺は姿を消す覚悟もある。
「ありがとう……でもそれだと私、幸せになれない」
「どういうことだ?」
昨日の朝に感じた違和感といい、ヘレナが最近変だと思うことがある。
「そのうち言うから」
「そうか……」
ヘレナはそれ以上、何かを言うことはなく俺もただヘレナの手を握り返して何も言わずに歩くことしか出来なかった。
傷つけないように言うって難しいよな……。
◆❖◇◇❖◆
「やっと終わったぁ!!」
「疲れたなぁ……」
「それはお前が朝帰りで寝不足なだけだろう」
ブルムベアの群れ十五匹を討伐し終えたパーティ『開闢の剣』の面々は、その場にへたり混んだ。
「まぁでも、あの二人組に任せてたら逆に殺られてたんじゃねぇか?」
「それは、どうだろうな……」
「俺たちよりもあのガキ二人組の方が強いって言うのかよ!?」
盾を持った銀等級の女にゼクスが掴みかかった。
「私は御当主様に、ゼクス様のその性格を正すようにと言われている」
身体の自由を奪われながらも女は、ゼクスを諭そうとし続けた。
「お前はいつもそうやって……ッ!!何度俺の機嫌を損ねたら気が済むんだ!!」
ゼクスは女を突き飛ばすと剣を抜いた。
「立てよテレジア、もう俺は我慢しねぇ!!」
パーティ『開闢の剣』の様子は最悪だった。
状況としては、盾を持った女冒険者はゼクスの実家に仕える人間で、自分を諌めようとする女にゼクスがキレたという具合だ。
物陰から連中の様子を伺っていたわけだが、まさかゼクスがここまでの馬鹿だったとは正直言って予想外だった。
「止めるの?」
「あのままだとあの短気バカは、女の方を殺しかねないだろうな」
「いよいよヤバくなったら――――――ヘレナ、伏せろ!!」
「えっ!?」
突如襲った異変に俺はヘレナを庇うようにその場に伏せた。
突如として湖から熱水が噴き出し、何かが大きく空気を動かした。
「お、おい、何だよコレ!!」
ゼクスはようやく気付いたのか身構えるが、湖から姿を現したそれの纏う魔力の膨大さに屈したのか尻もちをついた。
「チィ、世話の焼ける!!【
一番、湖の岸に近かったゼクスと盾使いの冒険者の手を引いて上空へと脱した。
ヘレナもそれに続いて二人を救出する。
「お前は一昨日の!?」
俺に気づいたのかゼクスは声を上げたが、口を聞いてやる義理もないので無視した。
「こっからはお前らが馬鹿にしたヘレナに護られながら逃げてろ。ヘレナは一応こいつらの護衛を頼む」
「お兄ちゃんは!?」
「もう一人いるだろ?そいつを連れてくる」
「死なないで!!」
「安心しろ、アレは倒せなさそうだが死にはしない」
俺は踵を返した。
「私、嫌…嫌ァァァァァァ!!死にたくない!!」
最後に残された一人は魔術師で、その一人の反応を楽しむかのように池から姿を現したドラゴンはゆっくりと足で踏みつけようとしていた。
「【
ドラゴンの足と魔術師の少女との間に作り出すのは文字通り重力の障壁。
重力の方向が逆転しドラゴンが踏み締めたのと同じだけの力が、ドラゴンの足へと反転しドラゴンは姿勢を崩した。
「最後になって悪かったな」
障壁と少女との間に身体を滑り込ませ少女を抱き抱えると【
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