第9話 兄の私物でしちゃう系妹
「お兄ちゃん、シャーペン貸して」
とある日。妹の夏美が俺の部屋を訪れた。おずおずとした態度だったので、どうしたのかと思ったら案外普通のお願いだった。
当然、断る理由はない。
「シャーペンか。いいけど、俺本数しか持ってないから、すぐに返してくれないと困るぞ」
「それがいい! いつも使ってる奴!」
「え、まぁいいけど」
俺がいつも使っているという所に凄い食いついてきた気がする。
まぁ、使いにくいような物は使いたくないということだろう。
「お兄ちゃん、のり貸して!」
そして、また別の日。また夏美が俺の部屋を訪れた。少し汗ばんでいるように見えるのだが、どうしたのだろうか。
「別にいいけど、俺一個しか持ってないぞ。新しいの買った方がいいんじゃないか?」
「使ってる奴がいい! お願い、すぐ使ったら返すから!」
「まぁ……いいけど」
また前と同じく、普段使っているものと要求された。俺の中古をねだるような言葉。
まぁ、一時的に使いたいだけだから、新品を下ろすのは申し訳ないと思ったのかもしれないな。
「はぁ、はぁ、お兄ちゃん。何か震度するものをーー」
「よし座れ夏美。説教してやる」
またまた別の日。夏美は息を切らしながら俺の部屋を訪れた。汗ばんで火照ったような体。微かに潤んだ瞳から、俺の部屋に来る前に何をしてきたんのか分かってしまった。
ていうか、振動する者ってなんだよ。バイブか? バイブなのか?
「え、急な話? できたら、一時間後とかにお願いしたいんだけど。っん」
「寸止めか? 寸止めして俺の部屋に来たのか?」
「っ!」
夏美は某探偵漫画で自分が犯人だと指さされたかのように、オーバーなリアクションで驚いていた。
バレたことが驚きだとでも言いたげな反応。いや、それを一発で当てる俺もどうなのよ。
「……頼むから否定してくれよ」
「じゃあ、寸止めじゃなくて、インターバルということでどうかな?」
「なんか悪化してないか?」
寸止めだとまだ達していないイメージがあるが、インターバルというと何回か達しているような印象がある。
……さっきまで妹が隣の部屋でしていたのか。それも何度か達していた可能性がある。
そう思うと、気まずさと何かの感情が混ざり合って、俺の心拍数を上げていた。
決して、興奮などではない。……決して。
「ベッドの上に座っていいから、少し話をしよう」
「きょ、今日は立ったまんまがいいと思う」
「立ったまんまは疲れないか?」
「その、ね?」
夏美は恥ずかしそうに顔を赤らめると、お股の位置を調整したようだった。俺の視線がお股の方に向けられると、夏美は脚をきゅっと閉じてさらに恥じらっていた。
恐らく、いつも以上にお股がぐちゅぐちゅということなのだろう。まぁ、さっきまでしてたなら仕方がないか。
いつもベッドに座る度に濡らして帰ってたからな、さすがに申し訳なく思ったのかもしれない。
ていうか、これ以上妹のお股事情に首を突っ込むわけにもいかないだろう。
「なら、このままでいい。単刀直入に聞くが、俺の文房具で変なことしてるだろ? 惚けても無駄だからな」
俺は数日前に夏美に貸したシャーペンとのりを夏美の前に見せた。それを見せられた夏美は恥ずかしそうに視線を逸らした。
だが、俺は追及をやめなかった。
「夏美に貸した文房具。全部前まであった汚れがなくなって綺麗になっているんだよ。何か他の用途で使った後に、証拠を隠すために洗ったということが分かる」
「ち、違うよ!」
「え?」
それまで黙っていた夏美が心外だとでも言いたげに俺の言葉を否定した。顔をこちらに向けた夏美の顔は真剣なものになっていた。
「お兄ちゃんが私のことどう思ってるのか知らないけど、私そんな子じゃないもんっ」
「え、マジで?」
「うん」
「まじか。うわぁっ、なんか俺色々と勘違いして酷いこと言ったかもしれないな。ごめん」
「本当だよ……」
夏美の声が沈んでいるのが分かった。それはそうだろう。
少し兄に対して変わった気持ちを抱いてしまうというだけで、思いもよらない疑いをかけられたのだ。
どうせお前ならこういうこともするだろう決めつけるような口調だったかもしれない。思春期の妹相手に、俺はなんてことを言ってしまったのだろう。
せっかく夏美とも話をできるようになってきたというのに、こんなのでは兄失格じゃないか。
「証拠の隠滅なんかじゃない! マナーとして洗ったの! それに、使ったかどうか分からないくらい綺麗にしておけば、お兄ちゃんは私の使った物を何食わぬ顔で学校に持っていくでしょ? それってすごい興奮できると思うの! 私はそのために洗ったんだよ! 勘違いしないで!」
「まてまて」
「ん? なに?」
「やっぱり使ったのか? 俺の文房具を」
おかしい。完全に流れが変わった気がする。
「え、だって、そのために貸してくれたんでしょ? 普通の用途で使うなら、シャーペンなんて自分のを使えばいいじゃん」
「なんで当たり前みたいな顔で、そんなつらつら言葉が出てくるんだ」
「ん? ……あ、もしかして、お兄ちゃんは洗わないで使用後の匂いを残しておきたかった派なのかな? ご、ごめん! そこまで気が回らなくて! お、お兄ちゃんがそうして欲しいなら今度からそうするね! えへへっ、お兄ちゃん変態過ぎ! あ、考えただけでお股がぐちゅぐちゅにーー」
「違うわ! そもそも使わないって選択ができなかったのか!」
なんだって、この妹はすぐにそっちの方向に話を持っていくんだよ。そして、常識のような口調で俺の知らない常識を語るのはやめて欲しい。
「え、だって、お兄ちゃんが貸してくれたんだよ?」
「そんな用途のために貸したんじゃない」
ここでお前は間違っていると怒鳴るのは簡単だ。でも、それは一時的な解決であり根本の解決にはならない。
だから、俺は考えを巡らせた。夏美と再び普通の兄妹として普通の会話ができるようになるために。夏美が自分で考えて、常識的な行動を取ることができるように。
「あのな、逆に俺が夏美の普段身に着けている物で変なことをしてたら、どう思う?」
「え、してないの?」
「してる前提で話を進めるのはやめろ。え、俺のことなんだと思ってんの?」
人の立場に立てば分かるはず。この手法は前に試したもので、あまり効果的ではなかったのだった。
いや、この方法は有効ではなかったのだろうか。単純に考える時間が必要だっただけ、俺がすぐに回答を求めようとしたからではないのか?
そうだ、慣れない思考をするのだから、咄嗟に分かるはずがないのだ。今までにない常識。それを考えるためには、少し時間が必要になるはずだ。
そして、時間をかければ分かるはず。大丈夫、夏美は人の心の分かる優しい女の子なのだから。
「分かった。一旦考える時間を取ろう。あとで、考えを聞かせて欲しい、いや、恥ずかしかったら何か文面でもいいから」
「え、うん。分かった」
きっと、夏美は今回の一件で自分の考えが変だったことに気がつくはずだ。でも、それを口頭で説明させるのは可哀想だろう。
夏美だって思春期だしな。お兄ちゃんは気配りができる男なのだ。
そして、夏美が部屋を出てしばらく経った後。俺はリビングに向かおうとして自室前に小箱が置かれているのに気がついた。
おそらく、夏美が置いたのだろう。それでも、ただ手紙を入れるにしては大きすぎる。
……。
俺は少しの不安を抱えながらその小箱を開けた。
その小箱の中には一通の手紙と、スクールソックスが一足入っていた。
「なぜスクールソックスが?」
俺はそんな疑問を抱きながら、中に入れられていた手紙に目を通すことにした。手紙には以下のようなことが書かれていた。
『お兄ちゃんへ お兄ちゃんが普段私の身に着けているもので変なことをしていないと聞いて驚きました。今でも驚いています。本当なのかと疑いながらも、そういうプレイなのかと色々考えたりしました』
「いや、どういうプレイだよ」
ていうか、そんなプレイがあるのか? 俺はそんなことを考えてツッコミを呟きながら手紙の続きを読んだ。
『色々考えた中で、これは妹から自分の身に着けている物にマーキングして! って頼まれたい。そういうプレイなのだと気づきました。鈍感な妹でごめんね。なので、明日履いていく靴下を箱の中に入れておきます』
『P.S. お兄ちゃんは汚したままの方が興奮するとの話だったので、お兄ちゃんが使った後は汚れたまま履いていこうと思います。使い終わったら、私の部屋の前に置いておいてください。むしろ、洗わないで置いておいてください』
一体、俺の妹はどこに向かおうとしているのだろうか。
俺はその箱のスクールソックスをそのままに、夏美の部屋の前にそっと戻したのだった。
翌日、帰宅した夏美と遭遇すると、その顔は火照っていた。おそらく、俺が夏美のスクールソックスを使ったと勘違いしているのだろう。なんか勝手に満足げな笑みを浮かべていたしな。
なぜ使用しなかったことを言わなかったのか。そこに他意は存在しない。決して、言わなかったら夏美は学校でずっと興奮すんのかな? とか思ったわけではないのだ。
だから、帰宅した夏美の火照ったような顔と潤んだ瞳を見て、色っぽいだなんて微塵も思っていない。
ええ、思っていませんとも。……ほ、本当だぞ?
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