第8話 兄のベッドでしちゃう系妹
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
「ん? どうした?」
俺が自室で勉強をしていると、妹の夏美がドアをノックして入ってきた。夏美は枕を抱いており、俺が椅子にもたれかかっている様子を見ると、何かに気づいたようにこちらに近づいてきた。
「夏美?」
「うん、これでいいかな。えっと、一時間くらいしたら取りに来るから、それまでよろしくね」
「まてまて、なぜ兄の背もたれに枕を挟んで部屋を去ろうとしているんだ」
夏美は俺の背もたれに枕を置いて位置を調整すると、何に納得したのか大きく頷いて部屋を出ようとした。
いや、なんで止められて驚いているんだよ。
「だって、お兄ちゃんの匂いが薄くなってきちゃったから」
「仕方がないじゃんみたいな顔をするな。なんで俺が普通じゃないみたいな顔してんだよ」
「あ、そうだったね」
夏美は何かを思い出したようにはっとすると、恥ずかしそうに顔を赤くした。微かに潤んだ瞳で俺を上目遣いで見てくると、羞恥心を露にするようにしながら言葉を続けた。
「えっと、お兄ちゃんの匂いでしても、いいですか?」
夏美はそこまで言うと両手で頬を覆うようにして照れながら、くねくねと体を動かした。
「えへへっ、毎回言わせるなんてお兄ちゃん鬼畜~! あ、お兄ちゃんがこっち見てる。妹にえっちなこと言わせて、私が恥じらう様子を視姦して……やばい、お股がぐちゅぐちゅにーー」
「夏美。一旦、座りなさい」
何を勘違いしたのか。この妹は俺を今夜のおかずにすることの許可を取ろうとしてきやがった。
前も同じようことがあって、上手く言い返すことができなかったが今回は言い返してやる!
そうだ。俺は兄として妹に教えてやらねばならんのだ。普通の兄妹として普通の会話をすることができる関係。それを目指すと心に決めたのだから。
「べ、ベットの上に座ってもいい?」
「……勝手にしてくれ」
夏美はそう言うと、ゆっくりと味わうようにベッドに腰かけた。俺に見られながら座るベッドはそんなに気持ちいいか、そうなのか?
「いいか、そもそも兄妹の匂いを枕に染み込ませるという行動自体が間違っている!」
「えー、だって私はお兄ちゃんを性的に見てるんだよ? 何がおかしいの?」
「前提条件がおかしい。まぁ、この際それは置いておくとして、兄妹の匂いに発情するなんてことはあり得ないんだ」
なぜあり得ないのか。確か、年頃の女の子は遺伝的に兄や父親の匂い拒絶反応を示すようになるらしい。だから、年頃の娘がお父さんと一緒に洗濯物を洗いたくないというのもしっかりとした理由があるのだ。
そのことについて説明をしようとしたのだが、夏美は俺の説明を聞くよりも早く、こちらにジトりとした目を向けて言葉を続けた。
「へー、そこまで言い切るなら自信があるってことだよね?」
自分のリビドーを否定されたことが癪だったのか、夏美は不満そうな顔でそんな言葉を口にした。
謎の勢いに押されて、少しだけこちらがたじろんでしまう。
「な、なんだよ」
「発情しないなんてありえないと思う。だから、今から一時間だけお互いのベッドで寝ることにしよ? それで、お兄ちゃんが変な気を起こさなかったら、お兄ちゃんの言い分は正しいと思う」
「一時間? 別にそれだけなら何とも思わないだろ」
「言ったね? ちゃんと布団をかぶって、枕をして寝るんだよ? ルール違反はダメだからね?」
「違反もクソもあるか。やってやろうじゃねーか」
俺はそう言い放つと、自室を後にして妹の夏美の部屋に入った。
そしてそのまま、夏美から預かった枕と共にベッドに入って布団を頭から被った。
なんともあるわけがない。だって、ただ妹のベッドで寝ようとしてるだけだしな。ずっと一緒に生活をしてきたのだ。今さら妹相手に変な気持ちを抱くはずがない。
そう思っていたのはほんの数秒。すぐに鼻腔をくすぐる甘い香りに脳が揺らされてしまっていた。シャンプーとかボディソープの混じり合ったような甘い香り。そこに夏美の寝汗や色んなものが染み込んで、ただの科学的な香りは女の子のそれへと変わっていた。
夏美が俺のすぐ隣でいかがわしいことをしているような感覚。
無駄に顔が可愛いだけあって、そんな想像をしてしまうと俺の下半身が黙っているはずがなく、呼吸をする度にその思考と下半身が主張を激しくしていった。
下半身に伸ばしかけた手は、ただ位置を直そうとしただけだ。
本当に他意はないのだ。ほ、本当だ!
「ご感想は?」
「べ、別人なんともなかったな。妹相手に発情なんかするわけないだろ」
「ふーん。お兄ちゃん、知ってる? 我慢したときの匂いって、結構しっかり残るんだよ?」
「……ふ、不本意だったんだ」
「え、お兄ちゃん妹のベッドの匂いを嗅いで、何か我慢するようなこと考えたの? じょ、冗談だったのに」
夏美の驚くような反応。どうやら、俺が本当にそんなことを考えているとは思わなかったのだろう。
信じられないといった反応を見せている。
となると、先程の言葉はブラフだったのか。ちくしょう、妹に一本食わされた。
「うぅ、違うんだぁ」
「なんてね、全然平気だよ! 私も同じだから!」
「同じ?」
「うん、久しぶりだったからヤバかったなぁ。あ、あんまりこっち見ないでね! 今はちょっとお股がぐちゅぐちゅ過ぎて恥ずかしいから。で、でもお兄ちゃんが視姦したいって言うなら、が、頑張るよ?」
夏美はお股の位置を直しながら、そんな言葉を口にした。
赤くなった頬と火照ったような体。満足げでいて少し疲れたようなすっきりしたような顔色をしている。
「……なんか息荒くなってないか?」
「えへへっ、そのこと聞いちゃうのは野暮だよ! 私もお兄ちゃんが部屋の中で何したのかは知らないことにしてあげるから、ね?」
夏美は照れたような笑みでそう言い残すと、俺の部屋を後にした。含みしかないような言葉。
俺は夏美が部屋を出て行ってしばらくしてから、遅すぎるツッコミの言葉を口にした。
「俺は本当にしてないからな!」
届くことのないその言葉は、ただ俺の部屋に空しく響いたのだった。
恐る恐る夏美が入っていたベッドの中を確認してみると、当然無事なわけがなかったようだったので、俺は急いでタオルを探したのだった。
それでも染み込んだ夏美の匂いと水気が取れるわけがなく、俺は眠りにつくまでしばらくの時間を要したのだった。
別に、寝付くために疲れるようなことをしたわけではない。当たり前だ、妹の残り香でそんなことをするわけがないだろう。そんなのまるで夏美じゃないか。
翌日、寝不足な顔をしている夏美の顔を見て、やはり俺達は兄妹なのだと実感したのだった。
俺の顔を見て顔を赤くした夏美は、一体どんなことを考えていたのだろうな。
多分ろくでもないことだろう。俺はそう決め込んで気づかないふりをした。
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