第10話 兄の洗濯物でしちゃう系妹
「あ」
「え?」
風呂上がり。脱衣所に入ってみると、そこで妹の夏美と遭遇した。
別に夏美が着替えていたわけではない。そんなラッキースケベなイベントが起きているわけではないのだ。
夏美は制服姿でこちらに視線を向けていた。何かの悪事がバレたような顔で、右手には俺のパンツが握られていた。
「……」
「なつ、み」
夏美は気まずそうな笑みを俺に向けると、俺の隣を抜けてそのまま脱衣所を後にした。俺がその状況に声も出せずにいると、夏美は短く息を吐いてーー
階段をダッシュで駆け上った。
「あ、まてこの野郎!」
「え、なんで?!」
「何でもクソもあるか! 説教してやる!」
ドタバタと兄妹で階段を駆け上り、夏美に続く形で俺も夏美の部屋に入っていった。
夏美は俺がついてきたことに驚いたように、目を大きくして驚いていた。なぜこのタイミングでそんな顔ができるのか。驚いているのはこっちだというのに。
「お、お兄ちゃん、どうしたの?」
「どうしたもクソもあるか、俺のパンツで何をするつもりだ」
夏美は俺のことを性的な目で見ている。そうなると、俺のパンツをどう使うかなどは尋ねるまでもなかった。
ていうか、聞かない方が良かったんじゃないか? 聞かなければ何に使われたか確定しないし、互いの距離を保つためにもいいかもしれない。
「え、普通に一人でするときに使うつもりだけど」
「え、なんでそんなさらりと言えるの?」
夏美はまるで当たり前の事を言うかのように、俺の顔を正面から見てそんな事を言って来た。
少しくらい取り繕えよと思ったが、そんなの夏美には関係ない。今さら過ぎるよな。
夏美は俺の返答を聞いても意味が分からないといった顔をしていた。それから少しだけ考えるように腕を組むと、何かに気づいたように静かに目を開いた。
「あ、ごめんお兄ちゃん。そういうプレイだったんだよね?」
「え、プレイ?」
何を言っているんだこの妹は。俺が怪訝な目つきで夏美を見ていると、夏美はそんな俺の視線さえも何かの材料とするかのように、照れたように顔を赤らめた。
「えっと、お兄ちゃんのおパンツで、え、えっちなことをしようとしてました……えへへっ、結構恥ずかしいかも。お兄ちゃんの鬼畜♪ お兄ちゃんって、全裸土下座とかさせるの好きそうだよねっ! ……あ、どうしよう、お兄ちゃんに羞恥プレイをさせられたせいで、お股がぐちゅぐちゅにーー」
「違う! なんで毎回そういうふうになるんだよ! それと全裸土下座なんか好きじゃない!」
毎回俺が夏美を制そうとすると、すぐにぶっ飛んだ方向にもっていこうとする。なぜだ。なぜ夏美の中の俺は、そんな鬼畜キャラなのだ。普段はもっと常識のある子のはずだろう。全裸土下座なんて言うんじゃないよ。
まぁ、嫌いではないかもしれないけど。
「え、違うの?」
「違うよ、なんで初めに思いつくことがそんなことなんだよ。……あのな、知らない間に俺が夏美のパンツで変なことをしてたらどう思う?」
「興奮する?」
「……聞いた俺が馬鹿だった」
「ていうか、お兄ちゃんだって使ってるじゃん。私の下着」
「え……いや、使ってないぞ!」
夏美が当たり前みたいに言うから、本当に俺が夏美の下着を使ったことがあるような気がしてしまった。
そんなことあるわけないのに、なぜそんな自信満々なんだ。
「そうなの? 洗濯機に入っている私の下着を見て、えっちな気持ちになったことないの?」
「な、ないよ。俺はお兄ちゃんだからな、妹の下着を見ても興奮などしない」
「ふーん、私の目を見てしっかり言える?」
夏美はそう言うと一歩俺の方に近づいてきた。
火照ったような赤い頬に、上目遣いでこちらの顔を覗き込んでくる瞳。妹とは言えども、可愛い容姿をした女の子に近距離で見つめられれば、多少は意識をしてしまうというもの。
「俺は夏美の下着を見てもーーそこまで、えっちな気持ちになったりはしない」
だから、少しだけ口が滑ってしまうというのも仕方がないのだ。
だって、仕方がないだろ? 俺のことを性的に見ていて、その濡れた下着が洗濯機に入っているのだ。
どのくらい濡れてるかとか気になって、ついつい下着を眺めてしまうのも仕方がないだろ。
「あ、私の下着をえっちな目で見てるんだ」
「べ、べつに変なことをしたりはしてないからな!」
「別に、してくれてもいいのに」
「え?」
そんな夏美の返答を受けて、俺は食い気味で反応をしてしまったようだった。そして、そんな返答を受けて、夏美はからかうようで心から笑うような笑みを浮かべた。
「えへへっ、お兄ちゃん本当は妹の下着でいやらしいことしたいんだぁ」
「ちが、違うからな!」
「嬉しい」
「~~っ!」
恥じらうように頬の熱を上げた夏美の顔。そんな顔で熱っぽい視線を向けられれば、その熱以上に俺の体が熱くなるというもの。
兄妹間ではあってはならない少しだけ桃色の雰囲気。少しの沈黙があって夏美は俺のパンツを自分のベッドの上に置いた。そして、こちらを見ながらスカートの中に両手を入れてーー
「まて! 何をする気だ?!」
「え、お兄ちゃんが私の下着を欲しがってたから、渡そうと思って。あ、お兄ちゃんは自分で脱がせたいタイプだったかな? は、恥ずかしいけど、お兄ちゃんがどうしてもって言うならーー」
「そんなこと言うか! 夏美の下着なんて、い、いい、いらん! いらんから脱ぐな!」
「むぅ。今すごい濡れてるから、使いやすいと思うよ?」
なぜか片頬を膨らませながら夏美はそんなことを口にした。そして、そんな言葉を受けて俺の表情が変わったのが分かったのだろう。
夏美は仕方がないなといったような笑みを浮かべて、そのまま自分の下着を下ろそうとした。
「~~っ!」
俺は声にならない声を出して、夏美の部屋を後にした。これ以上、あの部屋にいたら何をしでかすか分からなかったからだ。
それからしばらく経った後、洗濯機の中には夏美の下着が入れられていた。黄色で微かに飾りが繕ってある下着。中学生にしては大人らしい下着を履いている。
『今すごい濡れてるから、使いやすいと思うよ?』
火照ったような顔と、微かに艶っぽい声色。それを思い出しながら、俺はその下着を少しだけ長く見つめてしまったかもしれない。
へ、変なことはしていない。本当に本当だ。
……本当なのだ。
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