第7話 夢であってほしい

ピチョン、ピチョン、ピチョン…

水が跳ねている音が聞こえてくる。でも、本来は雨を除いて聞こえてこないのにドクドクと心臓の音とともに水は跳ねたのだ。水が聞こえる方向 下を見ると下には赤い小さな水たまりがあったのだ。

__そうか……そうだよな。

俺は息を整えた。整えた後、俺は目の前の死体を見つめた。大の字に倒されてる少年。頭にはビー玉が入るほどの穴が空いていた。そうか、そうだな、これは俺が殺したんだ。右手には持っていたのだろうのナイフが離されてた。

周りを見れば斬られるわ撃たれたわで二十ぐらいの死体が転がっていた。こんだけ人達を俺と現在、欠伸してる茶髪の少年が殺したのか。欠伸をした後でもすごく元気な茶髪の少年を見た俺はため息をついた。もう熱がなかったような興醒めな気がした。すごくつまんなくなってきた。

ため息をついた俺は血まみれの顔を血まみれの手で拭いた。血まみれもの同士の顔と手で拭くなんて余計に汚れる一行だ。と俺が思うのは嘘。多少くらいは綺麗になれたのだろう。大体この殺戮を行ったのだから汚れるのは当然だ。ついでに俺は綺麗好きではないから。きっと全然手で拭きもしない茶髪の少年も同じかな。なお、一人を除いてはな。

だいぶ綺麗になれたかな?と思いながら俺はアーシアに近づいた。アーシアは「ひっ」と怖がってる事を言わなかった。むしろ呆れられたのかそのまま立ち上がり尻についた砂埃を払う。

「言わないのか?」

「慣れだ慣れ」

「ええ……」

慣れってそんなに早いものなの!?人ってやばいなと俺は改めて人とは怖いと思った。

「やっぱり君は本当に面白いね」

と茶髪の少年は俺に好奇心溢れる顔で近づいてきた。俺は少し引いた。少年の目はその心は俺が奪ったような目だった。さっきの斬撃でどこが奪われるのか俺には分かりにもしない。いや、分かりたくもないな。分かってたら引きのまっしぐらになるわ。俺はそそくさに聞き流した。すると

「ところでさ、この人どうする?」

と茶髪の少年は心が空のまま空を見上げるカファールを指した。そうだなと俺は腕を組んだ。正直に言えば俺はカファールのことが嫌いだ。あの時俺がアーシアに指示せずに殺したのだと知った上であんな事を言ったのだ。アーシアのために連れていくのは有利かなと思ったが俺はあの嘲笑ったカファールの顔が脳裏に浮かんでくるからこいつとはいやだな〜。俺はアーシアに目を移した。

アーシアは俺と目が合ったが一度カファールの方に目を移した。そして、再び俺に移して、こくんと頷いた。だが、その目はどこか酷薄した表情でもあり愛という熱が冷めたような表情でもあった。だが、まるで自分で決めろの目でもあった。…え?待って。これってまさか『好きにしてください』の合図なの?俺が?そんな嘘ん。しかし、アーシアも俺と同じような意見らしい。一方、茶髪の少年は『あとは何でもいいよ〜』のような顔だ。ついでに茶髪の少年は俺に向けて期待の目をされてた。これはさすがに俺が決めないとやばいよな〜と俺は考えた。いや、考える間もない。

「で、どうするの?」

と腕を組み、体を俺に向けた。俺はため息をついた。これ以上考えるのはないな。俺の答えはもう整ってる。

「放置……かなぁ。なんだか殺すのが面倒になってしまったので…」

「そう…」

と石ころのように無表情のまま後ろを向く。

「なんか……不満かな?」

アーシアは首を横に振った。

「あんたがそう言うのなら、もう問題もないから」

と。なんだか怒ってそうだな……俺はアーシアに申し訳ないと思えてきた。けど一瞬、俺と茶髪の少年には笑みを浮かべてた。先程の威厳がないような晴れやかな笑みだ。アーシアは余程カファールの事が好き……なのかな?こんな事されても?私は不思議に思った。投げ捨てられた鞘を拾った。

ふと、気づくと茶髪の少年が俺達の様子を伺うような仕草をした。そっか彼、ずっと一人なのか…。俺とアーシアにとっては互いにここまで生き残った存在であるから羨ましいと思えたのだろう。つまり茶髪の少年は俺達と会うまではずっと一人ということになる。一人。一人?

__………あ。

俺は茶髪の少年の様子を察した。これはRPGまたは、恋愛シュミレーションゲームでよく見かれる選択肢に過ぎないと。彼を仲間に加えますか?これを聞けばもう言うまでもない。

「お前も一緒に行くか?」

と茶髪の少年は驚いた。そして、嬉しさのあまりにその喜びを瞼にうかべながら俺の顔に近づいてきた。

「うん!行く!一緒にいくよ!」

と笑顔でメリハリ感のある元気な声で言った。眩しい。すごく眩しい。目で覆いたくなるほどだ。柴犬のような尻尾が上下に降ってる幻覚が見えそうだ。

まるで各漫画によくいそうなキャラクターだな。彼のような陽気なキャラクターいわゆる《陽キャ》が現れたらこんなにも眩しいほどのオーラが出るのか。それとも俺のような《陰キャ》特有の幻覚で見えるものなのか?どちらにしても茶髪の少年の光るオーラが見えるのは言うまでもなく俺特有の幻覚なのだと。

一旦、瞼を閉じて俺ははいはいと聞き流した。

「それじゃあ…早速」

「待って…」

後ろから声がかかってきたから。もう分かる。なんだかんだでこの展開はよく見たことがあるからだ。そう、俺らはカファールに声をかけられたのだ。

「ア、アーシアの……人形さん?何で……?」

またその呼び名かよ…。俺は人形じゃねぇのにな。また悪意のある呼び方だな。だが、そんな悪魔の声とは裏腹にカファールの目は虚空に晒されていた。けど、言葉が矛盾すぎる。

最後の『何で……?』の言葉だと、この状況を理解してないと捉えてもいいし、もしくはカファールの頭はお花畑の模様が顔からでも捉えられる。

「ね、ねぇ……私、なんでもするから……だから私を……連れてって」

カファールが私に擦り寄りに来た。うん。これはある意味で重症だ。カファールは今までここの奴らを利用してポイント稼いでいた。つまり俺達が倒すまでここの奴らは彼女が一番強いと考えられてた。だが、奴らは俺と茶髪の少年で殺した。その中でも彼女は運良く生き残った。いや、上手く避けたのかもしれない。だって、茶髪の少年の目を盗んでナイフを持ってる少年と一緒に逃げ回ってたから。きっと俺達が受け入れるというそんな都合のいい事を考えてたのだろう。

しかし、このように手のひら返すようなシチュエーションは俺は嫌いだ。一度、嘲笑った事もあるが何より一番嫌だと思ってるのはアーシアのことだ。俺にとってアーシアはすごく助けらてる人物でもあり色々迷惑をかけられた人物でもある。だから、アーシアを傷ついたことはとてもではないが許されない。カファールが俺のワンピースの裾を触ろうとした手を俺は振り払った。俺はすぐに言った。

「悪いが他のところを当たってくれないか?」

「え……」

この状況でこの言葉を言うのは正直に迷った。ここでいう状況なのか?と思うのは俺も分かるが。ついでに

「そもそも、俺はお前の手のひらを返すような奴、嫌いなんだよ。というか俺こいつの人形じゃないんで」

その言葉でもう悟ってくれ。アーシアを傷つけた罪は俺の方では重いのでな。

「まぁ、当たり前だよね」

と茶髪の少年がカファールに近づいた。

「お母さんに言わなかったの?そんな酷い事しちゃダメだって」

まるで幼児の言葉だ。だが、言う通りでもある。すると、とうとうしびれが切らしたのか

「あんたのせいで……」

と隠しナイフを持ち茶髪の少年に切りかかった。茶髪の少年に膝に切りかかってしまったせいか尻もちをしてしまった。そして、

「あんたのせいでこんな事になったんわだろうがぁ!」

と茶髪の少年を押し倒した。おいおい八つ当たりかよ!とツッコミたい。怒り狂ったカファールの顔はまるで老婆のような皺寄せた醜い顔に変わった。もう俺と同じ中学生の顔じゃないよこれ。

「お前が来てから一瞬でこうなった。一瞬…で!」

と茶髪の少年の腕を突き刺す。が、茶髪の少年は見事に躱した。カファールが何度も何度も刺そうとしても躱されるだけだ。

「全部、全部、上手くいくと思ってたのに…」

とカファールの頬から涙が流れてた。そして、俺が思ったのはこの子には《身の程知らず》という言葉がないのかと。すると突然カファールは茶髪の少年の頬を叩いた。彼が呆気にとられているとカファールが胸ナイフをで突き刺そうとした。

__やばい、このままじゃ…

「おい!やめろ!」

と俺はカファールの腕を掴もうとした。だが、俺がどんだけ離れやしない。

「人形の癖して、離せよ!」

と裏拳で顎にぶつけやがった。ぶったよ。今世の親父にもぶたれたことないのに…。俺は思わない痛さに手を離してしまった。カファールは茶髪の少年に向き直した。

「あんたのせいで」

と刺す構えをする。

「急にあんたが来たからぁぁぁぁぁ!」

バァァン!

突然に鳴り響いた銃声。しかも、すごく近い。私はカファールの膝ら辺を見た。膝を見ると小さな穴が開いていてその穴から血が流れはじめてた。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!」

とカファールはナイフを捨てて穴を抑えた。そして、転げだした。同時に茶髪の少年は拘束が解いたおかげで一回宙返りしカファールとの距離を置いた。一体誰がと思えたのはほんの一瞬だった。まさかと思い俺は後ろを向いた。

後ろ。その後ろにはアーシアがいた。銃をカファールに向けて。そう、カファールを撃ったのはアーシアなのだ。撃ったアーシアの顔は俺達に見せた笑みとは裏腹に酷薄の顔だ。アーシアは小声でこう言った。

「僕の我儘に付き合ってしまってすいません…」

と。アーシアは膝を撃たれたカファールに近づいた。いかにも酷薄の視線が増していく。

「な、何よ……」

「よく分かりましたか?これが本当の現実ですよ、お嬢様」

……ええ!?俺と茶髪の少年は驚いた。まさか、アーシアとカファールとは主従関係だったことを知らずどころかカファールは私と同じ令嬢であったことも知らなかった。ついでにアーシアが執事らしい行動してることも一理はあるがまさかとは思いしなかった。

「あ、あんたこいつに何吹き込んだんだよ。何でこいつは人形の癖に命令を無視したんだよ!」

「お嬢様、人を指で指すのはおやめ下さい。それに彼女はあなたの人形ではごさいません」

「なんだよその態度は。お嬢様な対する態度じゃないだろ!」

「お嬢様はもう死んでいると思いましたから。まさか、生きていらしたとは思ってもしなかったからです」

「~~~~~~~~っ!」

うわぁ、ひでぇ。俺は引いた。さすがの公爵令嬢である俺でもケイとはそんなにも我儘言ってないぞ……。アーシアに距離をおくように言われて茶髪の少年を連れて距離を少し置いたがこれの閲覧のために見せてるみたいだ。俺はより一層引いたよ。令嬢の闇はやばいとも知ったさ。

「で、でも、所詮はあんたの行動なんて私の予想だったよ…。だけど、」

とカファールは立ち上がった。足をふらつかせながらも。すると袖からうっすらと白色の丸型らしきものが光が見えた。一見、自然に見えた光だがこれは自然ではないと知って。

「!!おい、アーシア、下がれ!そいつは魔法具だ!」

「うぇ!?」

庶民である茶髪の少年が驚いても仕方ないのだろう。これは貴族でよく見かけるものなのだから。実はこの光は魔法具だ。そうカファールはアーシアを強制に指示する気なのだ。するとカファールの下から魔法陣が浮かびだす。魔法風も出てきた。対するアーシアは少し顎引いただけの態度だ。こいつ……やる気だ。一瞬、アーシアが上を見上げたことがあった。

「むしろあんたが現実を見れよ!私はあんたの主人よ!それの身の程知らないなんて本当のバカね!だった……」

すると、カファールが袖から魔法具らしいブレスレットが出た途端に上からそのブレスレットが壊された。壊されたブレスレットの破片は透き通らさせる光とともに粉々に散った。これには私も茶髪の少年も魔法具を使おうとしたカファールですらも何が起こったのか分からなかった。その時、全部お見通しなのかアーシアは構わずに銃を撃った。撃ったところはカファールの左肩だった。

「うが……あ゛ぁ!」

とカファールは今度は肩を抑えた。カファールの顔から察するに状況が飲み込めていない。それはそうだ。今の俺も茶髪の少年も同じ状況なのだ。

「な、なんで……」

カファールは震えてた。どうして魔法具が壊れたか。どうして魔法無しでいけたのかを。

だが、アーシアはそんな猶予もなしに肩を抑えながら震えてるカファールに近づいた。近づくアーシアの足音にカファールはハッとした。じりじり近づくアーシアに気づき「ひぃ!」と言いながら膝が崩れ落ちても後ずさった。そして、動かなくなった。カファールが見上げるとそこにはアーシアが立ちすくんでいた。アーシアは怯えてるカファールをお構いなく銃口をアーシアの額につけた。

「ね、ねぇ……助けて……許して……」

「果たして本当のバカはどちらなのでしょうか?それはそれとして良かったです」

「え?」

アーシアは息を整えた。そして

「あんたが身の程知らないおバカさんであったことが何より安心しました。あとは、僕に任せてください」

「……いや!やめ…」

とカファールの命乞いを聞くことなく銃声が大きく鳴り響いた。頭を撃たれたカファールは倒れた。なぜ最後は人間味があるのは何故だろう。何故今までカファールが悪魔に見えたのが俺は不思議で仕方がなかった。すると、俺達の視線に気づいたのかアーシアが近づいてきた。そして、頭を下げた。

「え…」

俺は呆気にとられてた。アーシアが突然に頭を下げたのから。

「なんで…?」

「ご迷惑をかけたので……謝りたくて……本当にすいませんでした」

「いや、そんな、頭を上げて」

と俺はあたふためいていた。まさかこんなにも頭を下げられるとは思いもよらないから。

「で、でも、僕はあなたにご迷惑がかかったから…それに君にも」

と頭を上げて茶髪の少年に視線を向ける。茶髪の少年はにっこりと笑い。

「俺は平気だよ。気にしてないし。何よりも人助けは一応、得意な方だし。そ・れ・に〜」

と茶髪の少年はニヤニヤの笑みで俺に近づかせてきた。

「俺には気に入った人がいるしね!」

と笑った。正直こいつの事はよく分からないのだ。だが茶髪の少年の言葉にアーシアは首を横に振った。

「いいえ、そんなんじゃ僕には分かりません。何か罪滅ぼしさせてください」

「罪滅ぼしと言っても……」

俺は慌ててた。俺はもう罪滅ぼしなんてもうしたよ。髪の埃を取ってくれたし。可愛いし。それに彼も彼で色々と事情があるのだろう。ちょっとぐらい怒っててもそりゃそうなるわな…。

「まぁ、人ってそういう事で我慢することあるから……ね。なぁ…ねぇ……うん…、な…」

と口が籠りだした。何せ人を殺したあとだ。これにはさすがの人を殺しまくった俺でも言いにくいほどだ。つーか、この状況で普通に話せるアーシアと茶髪の少年は凄いな。

「というか、ねぇねぇねぇ。君もすごいよね!静かに出来たんだよ!めっちゃかっこよかった!」

「え、あ…ありがとうございます」

うん、すごい。これは性別が関係してるのかな。いや、圧力か平常心かが問題だ。まぁ、ある意味で平常心が問題だな。さっきのこともそうだ。俺はいざという時だけに平常心が欠けてる気がした。俺はこれでも平常心を保てる気がする子だ。それは親もケイにも言われてることがあったから俺は平常心がすごい子だと思ってた。しかし、俺は今、その平常心がないのではと感じた。この状況で判断できるのは確かだ。でも、何故かいざ異常な時でなったら平常心が動かないのだ。これは普通のことなのかな。でも…

「ところでさぁ、あれ何?」

と茶髪の少年は空を指した。俺はすぐに違和感を覚えた。後ろを向き空を見ると。ブーンブーンと虫のような音が聞こえてくる。この音はプロペラの音だとすぐに気づいた。

よく見ると半球が真っ逆さまに付いている「✕」のような形をした小さなヘリコプターが右へ左へと揺らしていた。

「これは……」

「あなた、知っていますか?」

「知ってるも何も…これは誰も知ってるよ」

「「え」」

と偶然にアーシアと茶髪の少年が声が合った。え、これ、俺しか知らないの?これはドローンという、最近の高級おもちゃだ。近年にアメリカが開発されたおもちゃ。ニュースで聞いたがなんかこれが宅配とかに使われるとかないとか。

「ん?もしかして…アーシアはこれに気づいてカファールを殺ったの?」

「はい。この虫さんに賭けました」

「いやこれ、虫じゃなくてドローンと言う機械で……」

「え、機械?これが?」

「え?」

嘘だろ…。まさかドローンというのが知らないのがここに二人いるとは思わなかった。残念だったなドローン。お前を知らねぇやつがいたようだ。ドンマイ。すると

〖へ〜、これに気づくなんてお前さんもすごいこった〗

「「「!!」」」

この声は…!ていうかこの声に気づかないやつなんていない。すると近くにいたドローンから巨大の映像が流れだす。全体、黒に包まれてる中心に目立つ白いうさぎ。両手は細長い手。間違いないアンバラだ。映像にはアンバラが映し出されてた。

〖お〜、やっと見えた見えた。ん?なぁ、シェリア。お前にも見えてるのか?ていうか聞こえてる?〗

「え?見えてるも何も。見えてるし、聞こえてるよ」

〖え、まじで!?〗

「うん。まじ」

〖〜〜〜しゃっ!〗

とアンバラは何故か成功したかのように嬉しがってた。そして後ろ姿からも分からせるガッツポーズも。

「シェリア?」

とアーシアが不思議がって俺を見た。俺はハッとしてカクカクとロボットのように顔をアーシアに。そして、忘れてた。アーシアに俺の名前を言うのを。ああ、やらかした。

普通はアーシアがあの時『その前にあなたの名前は?』というけどさ。あの場面的に…。それに俺の言わなかった俺も悪かったけどさ…。ねぇ……。

「それってあなたの名前ですか?」

と威圧的な声で言われた。さらにいつもとは違う愛らしそうでジト目を見せつける。

これは……俺が頷かないといけないよな ……。俺はゆっくりと頷いた。これはアーシアも悪いし俺も悪い。つまりこれはお互い様だということだ。アーシアはため息をついた。彼は俺の名前を聞くのを忘れてたのを後悔したのだろう。

「すいません…。あなたの名前を聞くのを忘れてて…」

とアーシアが謝ってきた。

「いえいえ、俺…じゃなくて私も言わなかったし…」

これはお互い様。お互い様だからな。そう宥めてると

〖ところでシェリア〗

「ん?」

アンバラが話しかけてきた。俺は首だけを振り返った。

〖おいおい、そこは体ごとだろ?なんで首だけなん?〗

「え、楽やから」

〖んなわけないわ。首が痛めるわ。はい、はよ振り返らんか〗

「ええ……」

俺はアンバラの言う通りに体ごと前に向いた。急にそんな事を言われたので気持ちよりも体が動くわ。ていうか、アンバラとかいう。うさぎ型のマスコットはなんだかんだで人懐っこいな。いくらなんでもアンバラはよくスマホアプリで例えられる、何かを企んでいる運営側のマスコットなのだ。そう懐いても俺にとっては企んでいるに違いない。これは俺の偏見であって俺以外はどう考えてるのかは分からない。これが分かってたら俺は超能力者だよ。

「んで、なんだよ……いきなり……すごく驚いたけど…」

〖それについては悪ぃな。俺がおめぇらを呼び止めたのは追加の情報だ〗

え、追加情報?俺達は顔を合わせた。こんなゲームみたいな追加情報なのは中途半端すぎる。

〖まずはルールの追加だ。追加情報は三つある。まず一つは魔法及び魔法具を使うのは禁止だ。さっきのやつも見ただろう。あのカファール・アヴァリスが魔法具を使おうとした時をな〗

__あれ、お前らがやったのかよ!

俺は映してるドローンを見つめる。よく見れば銃らしき銃口が光った。あれがカファールの魔法具を撃ったのだった。つまり、最初はカファールの頭を狙ったのだろう。俺でも分からないくらいに気配を消し去った。きっとアーシアはこれに賭けるのも無理も分かる。気づいてたら俺もそう賭けるな。

それにあのカファールがアヴァリス家の娘とはな…。アヴァリス家は俺のオリエント家よりも一つ下である伯爵家。最近、そのアヴァリス家がとある研究のために民の税を上げたと聞き漏れてた親の小話から聞いた。それが先程の魔法具ということだ。しかし、その研究してた魔法具がドローンの一発によって粉々に壊れるとはな。令和すげ〜。もう、そんなに進化したのか。令和に死んだ俺が恥ずかしくなるわ。

〖それと二つはこれは今から四日間、ここの島には出られないことだ。これは孤島でのサバイバル漫画のあるあるだな〗

「えっ、四日!?」

〖うん?四日だ。なんか不満でも?〗

「いや、そんなんじゃ……」

〖そう?ついでに脱出用の船がくるのは四日目の朝だけな〗

俺は驚いた。脱出用の船はいいとして本来のサバイバル漫画なら一週間または三日間のはずだが四日間というなんとも中途半端なことをしたな…。

〖それと三つは…生き残れ。それだけだ〗

「おお、なんと真っ直ぐな」

と茶髪の少年がヒューと口笛を吹く。ちなみにこの三つ目は大切にした方がいいよな?いや、した方がいいな。前世でもそういう教訓されてきたからこれはやったほうがいい。俺は頷いた。

〖あと、それと…〗

と後ろからプロペラの音が聞こえてくる。振り返ると後ろからドローンがこっちに来た。よく見るとダンボールが運ばれてる。ダンボールを運ぶドローンは俺達の前に止まりゆっくりと地に降りた。降りた途端にそっとダンボールを離して元に戻るのだろうかドローンはさっき向かった方向に向かった。ドローンが目線から消えた後に俺はダンボールの開く方を目を向けた。よく見るとダンボールにテープに貼られてるカッターがある。

「これを自分でやれとはな……」

手際が良いんだな。俺はカッターに付けてたテープを剥がす。これは自分でやらないといけないよな。テープを剥がし終えてすぐにダンボールをカッターに切り込んだ。

「大丈夫ですか?僕も手伝いましょうか?」

「ううん。大丈夫だよ」

「そうですか……」

アーシアが心配そうに見つめてきた。俺が令嬢でも前世はダンボールでちゃんと処理した日本人だ。これぐらいは出来るよ。カッターで切り込んだ後に俺は空けた。

空けるとそこには小さな箱が三箱あった。いざ手にするとそれはスマートフォンの箱だと分かった。まさか……俺はすぐに気づいた。

「まさか、これを使えというのか?」

「ああ、そのまさか…さ」

嘘だろ!?確かにスマホの方がいいかもしれないがスペースが入りきれるかどうかも分からない。それに俺はガラケー派なんだよ…。ついで言えば俺はスマホの扱いがまだ分からないんだよ。後ろにいる二人はすごく分かってそうだし。ああ、どうしよう泣きそうだ。

「何ですか?これ?」

「え、これ…スマートフォンだよ」

「スマートフォンって何ですか?」

「え?」

「ねぇ、シェリア。これってどうやって使うの?」

「えっと…これは連絡とか色んなのに使うよ」

「すげー!この板が!?」

と茶髪の少年と見たことの無い目をしていた。

「え?これ……知らないの?」

俺の質問にアーシアと茶髪の少年は互いに目を合わせた後、俺に視線を向けてこくんと頷いた。前言撤回だ。こいつらはガチの世間知らず…いや、このスマートフォン世代に生きてない人だった。もうなんだかんだで俺の認識がこの二人よりマシに見えてきたのだ。

〖へぇ、お前ら、スマホを知らないのか?〗

「こいつらは。俺は知ってるが…」

〖まぁ、こんなやつもいるもんだ。ああ、あとここの島にお前らと同じやついたからな〗

「ん?ていうことは…他のところも…」

〖おう。察してくれて嬉しいぜ〗

俺達だけじゃなくてガラケー派、またはこのスマホを知らないやつがいるということ。つまりアンバラは他のところも行っているのだ。きっとあのマリシャスのところにも行ったのだろう。アンバラは時間だと思ったのか。映像が途切れ始めた。

〖おいおい、もう時間切れかよ!〗

「え?」

〖これ、俺が見えるのにかれこれ数時間掛かったのによ…〗

「うわぁ……」

これはどうやら元々は声が聞こえるが映像は出せない型式みたいだ。アナウンスにダミ声とかを出せれるからいいが映像とかボスの顔を出すのは出来ない状況こそがデスゲーム漫画での常識。だが、余っ程、アンバラは顔を出したい気満々だったのが分かってきた。

「そ、それじゃ…そろそろ夕暮れになりそうだし俺達は寝所を探すよ」

〖あー、おいおい、待て待て〗

「ん?」

と俺は体ごと振り返った。

〖そ、そのスマホの中には殺した人の数を表しているランキングが入ってる〗

「……は?」

俺は呆気に取られてた。こ……殺した人の数を表しているランキングがある?聞き取れにくくするザー音が混じる中、アンバラは続ける。

〖しかも、お前が。上位に、入ってる。お前、本当にす、げぇな。ま、これは、生き残る為だとな、〗

「……それがどうした」

〖お前だけじゃない、そこにいる、クオー、レ・キャ、ヴェもだ〗

「クオーレ・キャーヴェ?」

俺はまさかと思い、茶髪の少年の方に向けた。

「クオーレって貴方の名前か?」

「うん。そうだよ。ところでさ……」

と茶髪の少年のことクオーレによって肩で担いでるアーシアが倒れていた。

「え……アーシア!?」

「この子、ふらついていたけどいきなり倒れたの。こんな時ってどうすればいいのかな…」

とクオーレが困った顔をする。

〖きっと、呪縛の、解放で、寝た、の、かね〗

「解放?」

〖ま、知らん、が〗

と段々とドローンからの映像が途切れていく。

〖や、やべ、わ、悪ぃ、そろそろ、映像が、切れ、そ、だ〗

「お、おう…」

〖そ、それと〗

「ん?」

ととぼけてる俺を見てアンバラはため息をつきこう言った。

〖死ぬなよ…〗

そう言った直後に映像及び通話は消えた。俺は少し疑問に思った。死ぬなよ?この状況で言えることだが、それはすぐに解決した。

「分かってるわ…そんなもん」

俺はクオーレに近づいた。

「そいつ、重いだろ?俺が持つよ」

「えっ、いいの?ありがと。でも、いいよ」

「そうか」

「これも特訓の一つだから」

とクオーレがにっと笑った。その笑顔は殺してから数分後にも経ってないほどいや、そもそも殺してないと思えるほどの子供らしい笑顔だ。「ははは……」

と苦笑した。クオーレの頭を撫でて俺は例の役所に戻ることした。この島で知ってる唯一の寝所だ。ソファーは固いがな。


「おお、こんな所に大きい建物が!」

「ああ、今回はここで寝とこう。敵さんもいなそうだし」

と言いつつ俺はハンカチで拭いといた刀を構える。ここに敵が入ればこれ以上の寝所を探すのは時間と体力の問題だ。前世の俺と今世での俺は体力が違う。前世より早く息が荒くなってる。やっぱり前世と一緒にしてはいけないな。

「すまないがここにいてくれないか?」

とクオーレが俺の様子に気づいたのかアーシアを入り口に降ろして両腰にあるマシンガンを構えた。

「それ、もう弾切れなのでは?」

「実はもう補充してるのであります!」

「うわぁお…」

俺は引いた。そして俺もその素早さに感心した。これはいいな。と。

「じゃあ、頼む」

「分かった!」

と即座に俺は早速二階に向かった。二階から人の呻き声と物音が聞こえていたのだ。しかも時はもう夕暮れを過ぎてもうすぐに夜になる。これだけは避けたい。これが空耳であってほしいと俺は心の底から願った。その願いが叶ったのか物音が聞こえなかった。俺は安堵した。俺は一旦、クオーレ達のところに降りた。

「人いた?」

「ううん。いなかったよ…」

「そうなんだ…まいっか」

とクオーレはマシンガンを両腰に抑えアーシアを担いだ。その顔にしては何だか不満気味の顔だった。もしかして彼はここに気づいたのかな。だとすればそれはそれで、すごい事だ。前世で死んだ歳の差なのかなそれが影響を受けているのだろう。

三階の寝所にアーシアを寝かしつけ棚にあった掛け布団を掛ける。これの寝顔をよく見れてもアーシアは俺とクオーレと同じ子供だ。幼い頃にしてよくもまぁ、アヴァリス伯爵家の令嬢であるカファールの執事をやらせたもんだな。

「それじゃ。おやすみなさい。シェリア」

「おう。おやすみ」

とクオーレは大きく掛け布団を広げた。そして、いびきをかきながら寝た。よく考えればクオーレの野郎、俺の事を呼び捨てにしたな。まぁ、関係ないけど。すると、

カサ……

横になった俺の体が反射条件を満たしたかのように起き上がった。いやだな、こりゃ。まさか、ゴキブリでも入ったのか?俺は補充したての銃を構えようとしたがまたも

カサ……カサ……

とまたも厭らしい音が聞こえてくる。俺これでも虫は普通だけどゴキブリだけは嫌なんだよ。けどそれにしては近いな。

__ん?

よく考えれば銃の方を持ってない右手から乾燥したような土を触ったかのような感覚がある。俺はすぐに右手を見た。見た方にはなんと俺の右手がアーシアの胸を触っていたのだった。

「~~~~~~~っ!」

俺はすぐに右手を引っ込めた。何やってんだ俺はーーー!と大声で言いたいところだが時はもう夜。もし俺が大声出したら、人が寝るところの邪魔になる。俺は上唇を噛んで声を抑えた。だが、この場合は大声出してもいいかもしれないけど。個人的にはめちゃくちゃもって嫌なのだ。だが、同時に違和感があった。アーシアはそんなにも乾燥していたのだろうか。ついでに言えば切り傷のような痕があったかのように色んなところに切りこみらしい凹みがあったのだった。

__まさか……嘘だろ?

俺はやめた方がいい精神よりも体が勝手に動き出した。早速アーシアの上半身の服を脱がした。一つずつ、シャツのボタンを外した。外した直後に脱がしたら俺はすぐにこの好奇心を後悔した。美しく白い肌が似合わない赤黒い古傷に少し割れ目が見えている乾燥肌。さらには火傷のような後をあった。これではまるで虐待の子だ。この傷をつけたのはもちろん……カファールだ。

「そりゃ恨み持つわな」

俺はすぐにシャツのボタンをつけ直して横になった。これは後悔しするところだよな。

スゥースゥースゥー

とアーシアが静かないびきをかき鳴らした。ここの横顔だけで見てもアーシアは本当に子供だ。

そういえばこんなニュースを見た覚えがあった。それは虐待に関するニュースだ。とある母親は自分の身柄のために子供に食パンの耳の部分だけを食べさせたというニュース。ついでに何度も熱いお湯をかけさせたとかもニュースに取り上げてた。

アンバラは知ってた上で分からない事を誤魔化したのだろう。そうだとすれは

『呪縛の解放』

という事が言えるのは怪しいからな。つまりアンバラが言いたかったのは異世界と現実がほぼ同じであることだ。そう考えれば考えるほどアンバラは案外優しい奴に見えるのは俺の考えが食い違っているのだろうか。

「はぁー」

と俺は今日一番の大きいため息をついた。もし、これが夢であったら普通の破滅フラグを防ぎながら逆ハーレムを目指していたのだろう。それが俺のメンタルが鋼だったらな。

けど、これは現実だ。手から感じる銃を持った感覚と刀を持った感覚。そして俺はアーシアとクオーレにも出会えた。これだけなら普通に夢で出会ってもいいだけになるのに……けど、俺は人を殺した。それをアーシアとクオーレはその目に焼き付けている。これじゃ現実を投げたようなものだよ。頼む、本当に…

「……夢であってほしい」

俺は瞼を眠気と共に重く閉じた。

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