第16話 目指す場所 ③


「住み込みだって!? 普段なら笑い飛ばすが兄ちゃんの魔力量ならイケるぞ! ガハハハ!」


 水を出す装置に魔力を強制的に吐き出す部品が付いているらしい。その大きさによって吐き出す水量、もとい魔力吐出量を調節できる。政岡の魔力量、回復速度を鑑みた結果、時給40ゴールド、12時間勤務で終わったらそのままその部屋で寝て良いそうだ。食事のことを考えるとこれで1日380ゴールド貯金出来る。これを12日行い4560ゴールド。今の貯金を合わせて4980ゴールド。都市はどうやら馬車で行けるらしく、6時間で100ゴールド。食事と寝所を多めに差し引いても残り4000ゴールドを、スロットで、使える!


 こういう時だけ無駄に思考が手早く、先まで考える。政岡は目を輝かせていた。


「仕事内容はいつもと変わらんぞ! それじゃあ! 頑張れよ! ガハハハ!」


 ここから先の政岡は今までよりも機械的な生活だった。朝起きてカレーを食べ、水を出し、カレーを食べ、眠る。この一連の動作を今までよりもスムーズに無駄なく、行っていく。


 余りにも機械的だったのか元気を撒き散らす銭湯の主人も心配そうに話しかけてきたことがあったが、勿論大丈夫。だって、スロット打ちたいから。これに尽きる。


 そしてその生活も6日目。政岡は閉じていた眼を開き壁時計に目線を動かす。6時45分だった。この世界にアラームは無いが規則正しい生活を送れば多少の誤差があれどもそこまでトンチキな時間に起きたり寝たりをすることもない。今日はいつもよりいくらか早いが、こんな日もあるだろうと政岡は起き上がり水を出すために腕を伸ばす。


「ん?」


 違和感。腕に、いや、指に? いや、指輪に。指輪の石が大きく、青色ではなく、赤色になっているような気がする。寝ぼけているのかと政岡は目をこする。


「やっと起きたか! 兄ちゃん! 何も無さそうで良かった良かった! ガハハハ!」


「え? 何かあったんです?」


「覚えてねぇのか? 今日の朝、様子見に行ったら泡吹いてたんだぞ! 完全に魔力不足になってたんだろうな! ガハハハ」

 

「……」


 驚くほどに覚えがない。確かにいつもより頭がボーとしている。まるで寝すぎた休日の様に。政岡は指輪を何となく見ている。


「……え?」


 政岡、1つの恐怖が芽生える。


「すみません、僕ってどれくらい横になってました?」


「それは知らんが、今日の朝から見てたから半日位だな!」

 

 政岡は、恐る恐る尋ねる。

 

「今って……夜?」

 

「ああ! 夜だ!」


 政岡は再び時計を見る。6時50分。否、18時50分!


 政岡は眼を閉じそのまま昇天しかけるが、直ぐに持ち直し傍らに置いていた本を持ち全力で駆け出した。


「起きて直ぐに走るとは! 元気だなぁ! ガハハハ!」


 店主の言葉に振り向かない。いや、そんな余裕は無い。政岡、一世一代の全力疾走。場所は勿論。図書館!


 最短で一直線に走る政岡。町はそれなりに広く、丁度端から端への長距離走。政岡は悔いていた。何故本を直ぐに返さなかったのか。今思えば日本でもレンタル期限や締切はギリギリだった。崖の上を這うように生きていた。まさかそのツケが爆発というオチ。笑えない。いや、笑えるかもしれない。いや、やっぱり笑えないかもしれない。

 政岡は余裕がない。


 長い階段の先に図書館は目前、政岡の視界に入る。


 だが、図書館の職員は建物の内側からシャッターを閉めようとしている。


「待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」


 職員は政岡の叫び声に気付き、それでも飄々とシャッターを閉め続ける。

 

「もう閉館時間です、明日ご来店ください」


 その言葉と同時にシャッターは地面に着地。それでも政岡は諦めない。たどり着いたと同時にシャッターの前で土下座。

 

「お金、お金払いますからぁぁ!」


 シャッターが少し浮いた。


「いくらです?」


「ご、500ゴールド!」


「1000ゴールド」


「な、700ゴールド!」


「ついでに軽傷だったら指の第1関節と第2関節が離婚する位で済むらしいですよ。頑張って祈ってください」


「1000ゴールドでお願いしまぁす!」


 シャッターは上がり、職員が政岡の所へ近づき指輪に触れる。


「早かったらあと10分で爆発してましたね」


 恐怖の告知。政岡、今になって血の気が引く。


 その後は職員に指輪を外してもらい、お金を支払い、本を返却した。高い授業料だと思おう。職員曰く水を出す装置は本人の素質を無視して強制的に魔力を吐き出す装置だそう。昔は拷問用の装置として使用していたそうだ。


 詰まるところ政岡は見方を変えれば拷問を受けてお金をもらっていたことになる。


「少なからずその仕事をしている時は本を借りない方が良いですよ。指輪と水を出す装置、二重で魔力を吸い取られることになるので」


 中々に危ない橋を渡っていた政岡。今度から気をつけようと政岡は固く決心をする。


 スロットで使える金額が3000ゴールドになったが、それでもめげない政岡。今やっている仕事は昔拷問に使われていたなんて気にも留めない政岡。何故ならば。


「ジャンジャンバリバリ、ジャンジャンバリバリ」


 呟きながら今日も元気に水を出す政岡。


 そう、彼は。


 パチンカスなのだ。


『次回予告』


 スロットを打ちたい。立ちはだかる壁。新たな出会い。そして別れ。


次回【無知の罪】


政岡の歴史に又、1ページ

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