第15話 目指す場所 ②


 本を借りてそのまま仕事、もとい、水を生み出すだけの機械になりに行く政岡。ちなみに1日にかかる生活費は450ゴールド、1日の余りは30ゴールド、詰まるところ現在政岡は月2回の休みしか存在しない。今の手持ちは390ゴールド、あと2日で休みが取れる。それだけをモチベーションに政岡は仕事をしている。


 銭湯の仕事中に図書館で借りた異世界語録を読む政岡。


 はじめに。これは異世界に飛ばされた人間が読む書物である。最初は突然の罵倒を浴びせられたりして大変戸惑ったと想像に難くない。そんな貴方もこれを読めばもう大丈夫。素敵な異世界ライフをエンジョイしよう。


 この本を見て最初に解ったことは他にも異世界に飛ばされた人間がいること、そしてその数が多いということ、そしてこの作者も異世界の人間だという事だ。案外この世界ではありふれたものなのかもしれない。政岡は続きを読む。

 

 最初に戸惑ったのは間違いなく「パチンカス」という言葉だろう。パチンコを打っていた人間は呆気に取られたと思うが勿論これは元居た世界の言葉通りではない。

 この言葉は2つの言葉を組み合わせたものである「パチン」という言葉が良いという意味「カス」が朝という意味になる。

繋げて良い朝。グッドモーニングという事である。


「……」


 ここから先は五十音順で意味を記しておく。中々に尖った言語だが、言葉を発している人間に悪意はない。心を荒まないように留意しよう。


「ええと、マサオカ……」


 「マサ」賭け事「オカ」狂っている。


「ギャンブル狂……?」


 そりゃあ、出会った人間に名前を言ったら不審な顔されるわ! 政岡は目を見開く。


 後は見かけた単語。「ビチ」月「クソ」夜「クソザコナメクジ」幸あれ。


 なるほど、思ったよりもキレイな意味が殆どだった。全部覚えるのも億劫なので、罵倒の言葉を浴びせられたらプラスの言葉だと思って感謝の意でも表明しよう。政岡は片手で開けていた本を閉じ、ついでに目も閉じ、口を開けた。


「あなたの声が、明日へぇぇぇのぉ、しょおぉぉぉぉぉぅぅどぉう!」


 仕事が終わり、街の居酒屋でカレー、もとい白湯を食べている政岡。こっちの方が村のカレーよりもサラサラとしている。政岡としてはドロドロに煮込んだカレーの方が好きだが今の政岡に食を選ぶ権利なんてない。これでもお粥を食べていた最初の頃より何倍も良い生活を送れている。黙々とカレーを食べている政岡、後ろから話し声が聞こえる。


「丁度2週間後に、勇者様の凱旋式が都市で行われるそうだぜ」


 男同士の酒を交わした会話。話を聞いている男がジョッキの中身を飲み切る。


「お前のことだからまた金の話だろう?」


「ヘッヘッヘッ。どうやらそのタイミングでカジノがリニューアルオープンするらしくってよ、チカラ、入れるそうだぜ? 特に、スロット」


「スロット……?」


 政岡、脊髄だけで後ろに振り返り会話を聞く。


「どうにも今回の勇者様はスロットが好きだったらしく、その加減で決まったそうだ。都市に住んでる奴らは朝イチから凱旋式の当日に並ぶんだそうだ」


「スロット……!?」


 語彙がスロットしかなくなった政岡。それほどまでに政岡は脳内にその言葉だけを反芻していた。


 政岡はゆっくりと前を向いてカレーを見つめながら呟いた。


「スロット……」


 政岡はカレーを平らげ、直ぐに仕事場に向かった。働く意味。生きる意味を失っていた政岡の目に意志の光が宿る。

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