第14話 目指す場所 ①
魔力量が多いと老婆は言っていたが、そもそも魔力量とは、何ぞ? と思っていた政岡だったが一つだけ答えが出た。昨日は満身創痍に近い状態で人間ポンプをやっており、それで6時間だった。今は8時間丁度。一応まだ動ける。体力と魔力は何かしらの関係性があるのだろう。
そろそろ限界だと体が訴えて来たので止める政岡。
「昨日より長いじゃないか! スゲェな兄ちゃん! ホレ、480ゴールドだ! ガハハハ!」
賃金を受け取る政岡。異世界に来て始めて寝泊まりと食事代をまともに稼げた政岡。安堵感と達成感で涙が出そうになる。
この街での白湯、つまり、カレーの料金は50ゴールド、2食でも1日30ゴールド余る計算だ。政岡はやっと人並みの生活にありつけようとしていた。
ルンルン気分で宿屋に行き、睡眠。起きて白湯を食べて仕事、温泉の部屋で水を出し続ける。
そんな生活から3日後。あることに気づく。
「……」
圧倒的虚無感! そう、政岡は座って水を出し続けているだけの存在に成り下がっていた!
「紅に、そーまぁたぁ、こーの俺をぉー」
仕事をしていると言っても体も頭も動かさないこの状況を、誰が見たら健全と言えるのだろうか。視界も壁に付いてる時計と壁だけしか無い。
「慰めぇるやぁつぅはぁ、もぅー、いーなーいぃ」
歌を唄う機能が付いている水製造機は今日もこれだけで1日を終える。
1週間後
図書館があることを居酒屋の会話で聞いた政岡は足を進める。思えばこの生活も10日過ぎた訳だが、驚くほどに何の記憶もない。このままでは駄目だと思い、せめてこの世界の知識を身に着けようと思い立った訳である。
「あの、本って借りれますか?」
一目だけで何百、何千もの蔵書が目に映る風景。これこそが図書館。何故だか心が踊る。
「はい。借りれますよ。借りたい本を持ってきて、又こちらにお越し下さい」
男の職員にそう言われ本棚を見渡す政岡。
探しものがあった。この世界に来て度々、どうしても気になることがあった。
それらしいものが目に留まり本を取り出す。
「異世界語録」
この世界に来て、パチンカスだのナメクジだの言われてきたが、どうにも悪口を言っている素振りではなさそうだ。この世界の言葉の意味を知りたい。
そうでないと、荒みそう、心が。
それなりに真摯な願いを胸に本を職員の所に持っていく。
「これを借りたいんですけど」
「判りました。それではこの指輪を着けて下さい」
そう言われ青い石が付いた指輪を渡される。
「本の貸し出し料金の代わりに魔力を頂きます。その指輪は定期的に装備している人間の魔力を吸い続けますので、一度に大量の魔力を必要とする魔法は使用しないでください」
画期的! 政岡は目を見開き、指輪を付ける。
思ったよりもこの世界は技術力が高いのかもしれない。こんなものまであるとは。
「あと、1週間経っても返却されない場合は、指輪の魔力貯蓄量が満杯になって爆発するんでそれまでに返却して下さい」
「……」
え? こわっ……政岡、内心怯えている。
「指輪の石が赤色になったら遺書をしたためてください。ついでに指輪を外すのは僕たち職員だけなんで気をつけて下さい」
暗に言っている。返さんかったら文字通り承知しないと。
「この前も期限ギリギリ一杯まで借りてた人が営業時間外に来たらしく、勿論閉館しているんで入れないんですけど。何時間か騒いだあとに爆発音が町中で響き渡ったそうです」
……明日返そう。
「営業時間は19時までなんで、気をつけて下さい」
政岡は心に固く誓った。そんなエンドロールは全面拒否の政岡は図書館を出る。
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