第13話 デッドラン ④


 平原からゆっくりと下り坂になっていた道を進み辿り着いた街、村より何倍も大きく、家は木造だけでなくレンガ造りの壁もある。子供たちが走って追いかけっこをしている。明らかに村よりも活気がある。政岡は周りを見渡しながら赤保留についていく。


「ここだ」


 杖の絵が描かれた看板をぶら下げている建物で止まる。

赤保留は扉を開け店内に入る。杖やら書物やら薬やら、何やら怪しげなものばかりが並んでいる店内。奥に黒の外套を羽織った老婆が一人椅子に座っている。


「魔法使いの鑑定、手術を頼む」


 しゅじゅつ、手術? 政岡は怪訝な目で話を聞く。


「100ゴールド、もしくはその金額に近い魔石でも良いぞ」


「解った、これで足りるか?」


 赤保留がポケットから赤色の石を2つ取り出し老婆に渡す。


「ふむ、ベアーの魔石か。まぁ、釣り合っとるな、それじゃあ、そこの席に座ってくれ」


 老婆の向かいの席に座る政岡。老婆が棚にある黒色の玉を乗せている台座を机に置く。


「手を乗せてみぃ」


 政岡は言われたとおりに手を玉の上に乗せる。


 すると、玉が次第に青くなり、鈍く光るようになる。


「ふむ、水か……輝きは弱いが……色が信じられんくらい濃い」


「何の話しです?」


「魔法の種類を今調べてるんじゃ、お主は青じゃから水の魔法が使える、魔力量が異常なほど多いのぅ、常人の100倍はありそうじゃ」


 魔法が使える! 政岡は目を見開く。ここから始まる俺の異世界無双! 政岡は内心昂ぶっている。


「じゃが、出力がゴミみたいに低いから戦闘には使えんな」


 上げてから叩き落とすスタイル。政岡は意味深にニッコリと笑う。


「それでも仕事には困らんだろうな。ここは温泉の街でもあるから水がいくらでも必要じゃからな」


「しごと?」


「ああ、源泉だけでは足りんから水で量をかさ増しにしてるんじゃよ。じゃからこの街は水が他の街よりも沢山必要なんじゃ、ついでにギルドに行けば斡旋してもらえる。」


「へぇ」


 光明が見えたかもしれない。水を出すだけの簡単なお仕事を見つけた予感。


「よし、そのまま手を動かすんじゃないよ」


「へ?」


 政岡は頓狂な返事を返した瞬間、政岡の手の甲に針を刺す老婆。


「イッ」


 勿論痛い、政岡は顔を歪ませるだけに留まり、手は動かさない。刺した針に向かって何かを唱えている老婆。数分ほど時間が経ち、老婆は針を抜き椅子に深くもたれる。


「終わったぞ」


 よく分からないが終わったそう。政岡は手を引っ込み刺された場所を触る。


「台座の玉の下に指輪がある。それをはめていれば魔法が使える。後は自分で励むんだな」


 政岡は指輪を取り、指にはめる。特に何かが変わった風には感じないが……


「終わったらしいから出るぞ、政岡」


「あ、はい」


 随分とアッサリ、いや、呆気なく終わった。


「手術というのは魔法を手で使えるようにする儀式の事だ、これでお前は魔法を使えるようになった」


「え、本当に魔法が使えるんです!?」


 困惑する政岡、まだ半信半疑である。


「水を手から放出するイメージをすれば後は出てくるはずだ。練習は自分でやるんだな、さて、そろそろ都市に行く」


「何から何までありがとうございます、赤保留さん」


 手助けしてくれた人間につけて良いあだ名ではないが、この世界に存在しない単語。不愉快には思われていないはず。


「ああ、俺は都市にメタルソードを取りに行く予定だ、カスクソマサという店に長期滞在する予定だから、近くまで来たら寄るがいい」


 そのまま歩いて離れようとする赤保留。なんてイケメン。このままついていきたい政岡だが、勿論政岡と赤保留は赤の他人。これでお別れ。


「そうだ」


 何かを思い出した赤保留。振り返り政岡を見る。


「この街の図書館に異世界言語録という書物を探すと良い。言語の違いで苦しんでいるだろうからな」


「はい、あの、ありがとうございました!」

 

 その後は振り返ることなく去る赤保留。もしかしたらこれが、これまでがチュートリアルなのかもしれない。心機一転、ここから頑張ろう、そう思えた政岡。そして、そのまま歩き出す。場所は勿論ギルドだ。


 現在所持金0ゴールドの政岡、一世一代のギャンブル。


「それでもぉぉぉぉお!」


 日本で言うところのガラガラくじ、全力で念じ、腕は最小限の力で取っ手を回す政岡。


 出た色は。


「白色、買取金額10ゴールドアップでーす!」


 ギルドの女職員に可愛い笑顔を向けられハズレを告知。


「それでは、傷有りのゴーレム魔石80ゴールドから足して90ゴールドでーす!」


 買取金を渡され受け取る政岡。今言えることは戦いに敗れ、そして。


「温泉の仕事ありますか?」


 就職先が見つかりそうな事だ。


 何も無い木造の部屋、壁に人が入れそうな位大きな管が付いている。政岡は管に手を入れて座っている。


「魔力量が多いんだって!? 兄ちゃんには期待してるよ!」


 仕事内容はとっても簡単、管に水を出し続ける。以上。妙に元気な銭湯の主人がそれだけを説明してここに案内された。


 どうやら管の部分に魔法を勝手に発動する装置がついているそうで、手を入れたら勝手に水が手から延々と出てくる。ホースから出る位の水量が手から出てくることに違和感があるが、慣れれば何も無い。それ以外は何もしなくて良い。とても楽な仕事内容。


「魔法が使えるやつの大体は1時間でブッ倒れる! 兄ちゃんはどれだけ保つのか見させてもらおうじゃねぇか!」


 ついでに時給60ゴールド。仮に2時間粘れば村の仕事より給料が高い。ここから始まる異世界生活。ワークライフバランスを確立する時!


 政岡はやっと手に入れた安定に喜んでいた。


 3時間後。


 少し、いや、それなりに疲れた。疲れだしたら寝ようかと思っていた政岡の目論見は破綻する。万に一つも寝れない。それもそのはず、トイレで用を足しているときに寝れるだろうか? 否、寝れるわけがない。そもそもその発想がない。そしてこの仕事で一番の問題は。


「僕らは目指したぁ、シャングリラーァ」


 暇なことである。携帯は無い。テレビもない。本も無い。何も無い。現在3時間、腕を突き出して目を開けて閉じるだけの作業。やれることは歌を唄うぐらいしか存在しない。せめて誰かと話せればマシなのだが……


 4時間後


「はりつめたぁぁぁ弓のォォォォォォ」


 疲労感が体を支配し始めた政岡。曲のチョイスもさることながら政岡は色々と限界が近くなってきている。


 5時間後。


「不愉快に冷たぁぁぁい、かぁぁべとぉかぁぁぁぁぁ!」


 虚無感と疲れを少しでも紛らわすための熱唱。政岡は横たわって腕だけ出している状態。場所が場所ならそのまま病院に送られそうな状況。目が死んでいる。


6時間後


「どうやらもう限界だな! ピッタリ6時間、スゴイじゃないか、ガハハハ!」


 銭湯の主人が高笑いしている。その足元に政岡は使い切った雑巾の様に倒れ込んでいる。


「次来るときは何か持ち込んで来ても構わんからな! ヒマでヒマで仕方がなかったろう! ガハハハ!」


 指一本動かせない政岡、言うなれば体のエネルギーを全て出し尽くしたみたいなもの、倒れるのも必然。


「動けるようになった時に出ていいからな! ホレ、360ゴールドはここに置いとくぞ! ガハハハ!」


 1時間ほど経ちやっと動けるようになった政岡、今日はゴーレムと追いかけっこして、エネルギーを搾り取られて終わった。とっくの前に太陽と月は引き継ぎを終えていた。


 体を引きずる様に宿屋を見つける政岡。もう寝ることしか出来ない。


 ここで予想外な事が起きた。


「一泊350ゴールドだ」


 ノコリ10ゴールド、ゴハン、タベレナイ……


 政岡は憂いを帯びながらニッコリ笑い、支払いを済ませる。どのみち今は食欲より眠気が勝っているのが現状。何も考えることなく部屋に入りベッドに倒れ込み、寝る。


『次回予告』


 あ、政岡です。タイトルにギャンブルって書いてるんですけど、ギャンブル要素、無くね? 生き方がギャンブル? 僕にとっては、日常(ニッコリ)



 次回【目指す場所】


 この次も、パチンカス!

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