第11話 デッドラン ②
政岡はある場所に向かっている。剣と盾が描かれた看板「パチンカスパチンクソ」と書かれている看板を横目に店に入る。
金なんてない。だが、数日頑張れば剣が入るならそれに越したことない。値段だけでも見た方が今後の予定を決めることが出来る。
周りを見る。盾、鎧、槍、棍棒、多種多様な武器があるが、勿論政岡はどれも経験なんてない。
政岡は一つの武器を見つけて体が止まる。剣だった。長く美しい鉄。一度振るえば肉が裂ける。全身でそう語り続けている。
……これか欲しい。政岡は選んだ。いや、選ばれたのかもしれない。自然と政岡は剣に向かって手を伸ばす。
「100000ゴールド」と書かれた値札を見て、一人でニッコリと笑う政岡。
今度は短剣、素早く動ける小回りの効く武器、投擲もできる。政岡は短剣に手を伸ばす。
「8000ゴールド」と書かれた値札を見て動きを止める。こんなんで投げて壊れたら膝から崩れ落ちるわと内心ツッコミ。
「剣で一番安いのはそれだな」
恐らく店主だろう初老の男が暗に言う。お前なんかじゃ買えないぞと。
政岡はニッコリと笑顔を作り、店主にペコリと頭を下げ、無言で店に出る。
「さて、行くか、街に」
政岡のプラン、スライムを5匹ほど倒す、そのまま街に行く、買取、くじ引きで一等、アイアムチャンピオン。政岡の緻密な計算によって導かれた綿密な予定。思い立ったが吉日。政岡はそのまま森に向かう。
昨日スライムと戦った場所に辿り着く政岡。ギルドの職員によると、このまま道なりに7時間程歩けば街があるそうで道中スライムがいるとのこと。つまり、このまま街に向かう途中でスライムを狩れば良い。ただそれだけのこと。
意気揚々と政岡は歩を進める。政岡は高揚していた。子供の頃、何も持たない、知らない場所の散策をしていた。これが冒険、これこそがファンタジー。不安はある。それでもワクのムネムネが止まらない。無一文無職で何も授かっていない異世界転生。だが、それが良い。
見渡す限りの平原、スライムと戦った場所が見えなくなった頃、政岡は違和感を覚えた。何かの音、振動、徐々に近づいて来るような、気のせいかと思ったが、音が大きくなっていく。
「ん?」
目があった。否、あれは目なのかは解らない。石造りの人形に目の部分が空洞になっているだけとも言える。兎にも角にもゴーレムだった。明らかに政岡に向かって走ってきているゴーレム。突然迎えた緊急事態、昨日の記憶が政岡を支配する。
「なんでなあぁぁん」
政岡は走る。全力で。後ろを振り向きながら走っているがゴーレムの姿は徐々に小さくなっていく。やはり足は遅い。だが、捕まれば死ぬという恐怖が政岡の足を必要以上に速く動かせる。
走って数分、政岡は立ち止まって荒くなった呼吸を整える。いつの間にかゴーレムの姿は消えていた。
冗談じゃないと政岡は内心悪態をつく。見つけたいのはゴーレムではなくスライムだ。岩相手に素手で挑むのは馬鹿げている。昨日から走り通しの生活を余儀なくされている政岡。狩るも狩られるも思いのまま。これこそが冒険のリアル。ワクワクよりも死の恐怖が勝りつつあるが、それでも戻ることはできない。
政岡の冒険は続く。
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