第7話 トラウマ ②
スライムを駆逐してから約1時間、政岡が木に腰掛け座ってからの時間である。今の所は草むしりよりかは稼げており、少なからず餓死することは無くなったことに安堵し体に力が入らない。
「……」
だとしても、だとしてもだ。このままでは宿屋に行けないことが明らか。もう少しやっていくしかない。重い腰を上げて首を右に左に。
「ん?」
目が合った。何と目が合ったのかが直ぐに解らない政岡。犬ではない。動物。4足。凛々しくも可愛いらしい顔つき。アライグマに似ている。アライグマ?
「……グマ? クマ?」
立ち尽くす政岡。立ち尽くす熊。
両者、つぶらな瞳で相手を見つめる。
明らかに政岡より何回りか大きいそれは、4足歩行でゆっくりと近づいてくる。
見たら解る、戦ったら死ぬ。
政岡は突如、熊に向かって腕を大きく広げ、息を大きく吸う。
「カバディ!!」
叫ぶ。力の限り。熊は驚いたらしく動きが止まる。
「カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ、カバディ!」
近付いたら殺すと言わんばかりの目で熊に向かって威嚇。体を大きく見せるために両腕を広げているが確証はない。カバディはその場の勢い。
熊は一歩下がりながらも政岡を見続ける。
「カバディィィィィィィッ」
これで無理なら俺、死ぬわ。という思いで叫ぶ政岡。眼が若干潤いを帯びる。
熊は政岡に背を向けて去っていく。威嚇は成功した。それでも油断は出来ない。少しの隙が命の天秤を傾ける。もし熊が振り返って政岡に向かって走り出したら……。
「ハァハァ、カバ、カバ、カバ……」
視界から消えるまで死んでも目を離さない。少しだけ
視認できなくなった瞬間、政岡は反対方向に走る。全力で。1分ほど走り、体中の酸素を使い切り力尽きる。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……無理ぃ……」
日本人で熊と戦えるか? と聞かれたら殆どの人間は無理だと言うだろう。政岡も無理だった。ただそれだけのこと。
木にもたれながら座る。息を整える政岡の戦いはまだまだまだ続く……。
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