第6話 トラウマ ①
目覚めは良くなかった。腹の虫は鳴り止まず、体の節々が痛い。そして無一文。いつもより開いていない眼を手でこすり、体を起こす。ベッドから出て軽くストレッチ運動。最後に深呼吸をして、自分の頬を叩いて活を入れる。
「さぁ、モンスター退治だ」
村から出ると直ぐに木々がお出迎え、日本と違って舗装された道なんてものはなく、人々が歩くことによって出来た草木の生えていない場所があるだけだった。
ギルドの職人にモンスター退治の概要を尋ねると『そんな装備で大丈夫か?』というエールの言葉を頂いた。無一文の政岡にとって、装備? 何それ? と強がるくらいしか出来ない。森に落ちてた木の棒を持っているだけの政岡は森の先にある平原へと足を運ぶ。
丁度森に飛ばされた場所に戻って来た政岡、数分歩くと木々から草に変わりだし、前の景色が広がりだした。聞いたところによるとこの辺りにスライムが出てくると。
……進む場所を間違えていたら即ゲームオーバーになっていたかもしれない事実に叫びそうになる所を我慢し、静かに辺りを見渡しながら慎重に歩く。
「ん?」
視界の端で何かを捉えた。
青色の水が重力に逆らって維持している物体がそこにあった。
「スライム……?」
目は付いていない。弾力のある水みたいな何かがピョンピョン飛び回っている。
政岡は木の棒を両手で後ろに引き、構える。
先手必勝、刺突で一撃。ギルドの職員が言っていた『弱点を狙え』弱点どこやねんという雑念を振り払いスライム目掛けて走り出す。
「つぅえりゃぉぁ!!」
貫いた。なんの抵抗もなく、やけにアッサリと。
「ヘブん!」
どうやらスライムは本当に水みたいなものだった。スライムは何のダメージも無かったようで元気に政岡にタックルを決め込んだ。丁度鳩尾に。
「コ、コ……コへッ!」
息ができなくなり膝から崩れ落ちた政岡の肩に目掛けて再度タックル。死に至る程では無いが、子供が全力疾走でぶつかってきた位の衝撃が政岡を襲う。
「ちょ、まっ、ペ!」
後ろに回り込んで今度は背中にタックル。死なない程とはいえ純粋に痛い。政岡は胸を手で抑え頭を地面に垂らす。スライムはぶつかるだけで他に何もせず、政岡が悶絶してる目の前でひたすら反復横飛びを繰り返している。
「……」
息が徐々にできるようになった政岡は立ち上がり、手に力を入れ拳を固める。
「ドゥエえええりゃぉぁあぁあアアア、フンヌうぅッ」
スライムの真ん中に正拳突き、手はゼラチンに手を入れたような感触、中に少し硬い物体があったのでそれを握りつぶしながら引き抜く。
スライムは突然重力に逆らえず、水たまりの様になり動かなくなった。
「へっ、へっ、ざまぁみろ」
右手に石のような物を握りしめている。そういえばギルドの職員が『魔石を持ってきたらそれを買い取る』と言っていたが、これが魔石なのだろうか。スライムと同じ青色の石、これがつまるところ20ゴールド。
この調子で倒していけば今日は宿泊出来る……!
次のスライムはどこかと歩きながら探す。スライムを20匹倒せば宿泊、野宿は御免被る。
森と平原の境目を探す政岡、何もない時間が政岡の空腹を増大させていく。少しでもそれを振り払う為に思考を絶やさない様にする。
そもそも、こういうモンスターはどこから生まれるのだろうか、魔石とは? 心臓ということか? 大体何匹もいるのだろうか、そもそもっ。
「ヘブッゥ」
政岡、背中から突然の衝撃。スライムに背後からタックル。前に少し仰け反ったが、直ぐに振り向き右手を大きく振りかざしてスライムに向かって拳を振り下ろす。
「つぇすとゥゥあッッッ」
そのまま振り抜き魔石を強引に引き剥がし撃破。スライムが水たまりになり、息を吐く。
「ふぅ……くブッ」
新しいスライムがいつの間にか居たらしい、またもや背中からタックル。完全に気を抜いた時にもらった一撃に耐えきれず両膝が地面につく。
「ペブュっッ!?」
またもや別のスライムが居たらしく、政岡の頬に突撃。政岡、顔から地面にダウン。
2匹のスライムは追撃をすることなく交互に反復横飛び。
「……」
政岡は、ゆっくりと起き上がり。
「つぇぇぇぇぇラゥアあァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
刹那、右手を全力で振り上げスライムに渾身の力で振り下ろし魔石を引きずり落とす。そのまま直ぐにもう一匹のスライム目掛けて飛びつき両腕でスライムを締め潰す。
「はぁはぁ、はぁはぁはぁはぁはぁはぁ、クソがぁ……」
肩を激しく上下に揺らし悪態をつく、政岡は怒っている。生き物に対しての激しい怒気、パチンコで11万負けた時よりも心中穏やかでは無い政岡の戦いはまだまだ続く……。
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