第二十二話
“エンシェント” を冠する者達が動き出したか…。
彼の者達を産み落としたのは何時の頃だっただろうか。
長らくこの地に居るせいでもはやどうでも良くなってきてしまったが、どうやらそうも言ってはいられない様だ。
余に残ったのはあいつから託された、余とあいつの子である”エンシェント” 達だろう。
しかし、始祖の龍として余はこの世界の均衡を守るという仕事をしなければならないのだ。
始祖などと言っても読んで字のごとく始まりの龍である。 それだけなのだ。
全属性の魔法、ブレスが扱えるという事しか余には特技は無いといっても過言ではない。
否、無くなってしまっているという方が正しいか。
世界の均衡を正す行為と言うのは龍のみにならず複数の種族で行っているが、それはほとんどが始祖のみだ。
すなわち、負担が始祖達に来ている。
フェンリル、フェニックス…他にもさまざまな種族が居るが、彼奴等も世界の均衡を保つための鍵に過ぎない。
余は余達始祖を”神の怠惰” と呼ぶ。
神が、自ら作った世界の均衡を保つことを放棄したからだ。
知っているか、神よ。
この世界は貴様が思っている以上に広いのだ。
傲慢で薄汚く守る価値などないと思うものも多いが…。
それでも、守りたいと思えるものはある。 いや、守りたいと思うものの方が強く大きいのだ。
貴様はそれを知らない。 知らない事が貴様の弱さだ。
「おぉ、フェンリルよ。 久しいな」
「トカゲ風情が…」
「お前はいつもいつも…。 他の奴らは?」
「子供らを陰から見守りに行っているそうだ。 軟弱者共め」
「いや、気持ちは分かる。 お前だってそうだろう? 数百年前に子を連れて来た時の事、未だに余は忘れてはおらん。 あのお前が笑顔で子を抱き抱え、余達に紹介してきたあの日を」
「その首、噛み千切らないと喋るのをやめないのか?」
「余の子は、人間を家族に迎えたようだ」
「…は?」
「耳まで腐ったか老いぼれ狼。 余が産み出されてから”二人目” の龍の家族だ」
「神に知られたらどうするんだ」
「はっ! 余がそんなヘマをすると思ったか! もう二度と神に我が子を奪わせてなるものか。 そうなれば貴様が言うように神の首を余が喰い千切ってくれるわ」
「もしもその時は同席させて欲しいものだ」
あぁ、そうだな。
余達がその刻まで生きていれば共に、女狐の首を喰い千切ろう。
それが叶わぬ願いとお互い知っている。
始祖達は皆、神(女狐)によって寿命を制限されているからだ。
だからこそ、だからこそ”エンシェント” 達よ、どうか幸せになって欲しい。
そして新たなる我が家族よ。
余より、何よりの祝福を。
それが、始祖龍クリスタルレインボードラゴンたる余の願いだ。
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