第十四話

足場が酷過ぎて思ったように動く事が出来ない。

空気が薄くなってきている…という事は結構進んでいるはずなんだけど。

何にせよ遠いな。

あと一体どれだけ歩けば辿り着くんだ…。


その瞬間近くに身体がゾワゾワするほどに強大な気配を感じ取る。


これはドラゴンか…?

気付かれない様に沢山採取しておこう。 聖草以外もきっとあるだろう。


「この辺に聖草あると思うんだけどな…」


聖草が全く見つからないせいでぼそっと声が出てしまう。


「人族の幼子よ、聖草を何故望む」


辺りに響き渡るほどに大きく、低い声。

これがドラゴンか…?

その圧に手も足も動かなくなってしまっている。


「どうした? 喋らないのか?」


どうしたら良い。 この状況は俺を年相応にしてしまう程には恐ろしい。

逃げるか? いや、逃げてもドラゴンにはブレスがあったはずだ。


「自分の世界に光が欲しいからです」


「ほう、目が見えぬというのだな。 あれだけ動けて目が見えぬとはな。 聖草は我の物だ。 渡す訳にはいかぬ。 それに聖草は我の魔力を吸いきっても足りぬ程の魔力を与えねばならぬ。 我が子の死の病を治すには満開の状態の完全な聖草でないとならんのだ」


我が子? 死の病?

この山できっと魔物が溢れ、スタンピードが起こらないのはこのドラゴンが護ってきたからなのだろう。

俺は一体どうしたら良いんだ。


「人族の幼子よ。 着いて来ると良い」


ドスンドスンと歩く音が恐ろしい。

しかし、着いていくしかないだろう。

近付くにつれ弱弱しい気配…これがエンシェントドラゴンの子供か?

もう一つ、凄い魔力の塊があるが、これが聖草なのだろう。


「見よ、といっても分からんか。 これが我が子だ」


そこには弱弱しい気配がぽつんと存在した。

これがドラゴン…?

しかし、このエンシェントドラゴンと気配が大きく異なるのは何故だろうか。


「我はエンシェントフレイムドラゴン…。 しかし、この子はアイスドラゴン。 親と違う属性で産まれた子は竜症と言い、基本的にはどんどん弱っていき死ぬ。 唯一の救い手は魔力を十分に溜め込み満開となった聖草のみ」


「聖草は一つしか生えないのですか?」


「残念ながら聖草は数年に一度生えるがその数は毎回違う。 今回は一本のみだ」


そうか、これもきっと運命なんだろう。

シュヴァルグラン様には悪いけれど、これは…。


「聖草をお子さんに使ってください」


「有り難い申し出だが、我の魔力のみでは満開にはならなかった。 人族の幼子よ、君が奪うというなら聖草の肥料にでもしてやろうと思っていたのだがな」


恐ろしい事をさらっと言わないで欲しい。

俺はそっと三本の竜の剣を取り出した。


「ほう…。 炎、氷、風か。 なんとも…」


「もしかして、これを吸収すれば…?」


「我が子はアイスドラゴンだからこの氷の剣だな、これをあの子が取り込めれば力の一部は解放されるだろう。 そうすれば竜症の遅延は遅らせる事が出来る」


「なら氷の剣をお子さんに使ってください、火の剣は貴方に」


「ふむ、力を取り戻した瞬間に貴様を喰らってしまうかもしれないぞ?」


「その時はその時です。 光の無い人生であればもう要らないので」


「その覚悟、受け取ったり!」


親子のドラゴンの力が増幅していくのを感じる。

それと同時に聖草の力が増して行く。


「これは!? 満開の聖草だと!? 我は魔力を送っていないぞ…」


「早くお子さんに使ってください!」


「あぁ、かたじけない」


その言葉の直後にドラゴンが子供に聖草を使った様だ。

それで良い。


「人族の幼子よ、感謝する。 これで我が子は助かる」


「お兄ちゃんが助けてくれたの?」


「お、お兄ちゃん!?」

 

「ほぉ、我が愛しのアイスドラゴンよ。 それは良い事だ!」


何が良い事なのだろうか。


「我ら親子と家族の契りを交わさぬか? あの剣を扱える程の者で、心優しき君なら我々も心から受け入れられる」


「で、ですが!」


「君が周りからどの様な扱いをされて来たのかは十分に知っている。 さきほどの剣を預かった時に君の記憶が流れ込んできたからな。 それとも何か不安でもあるか?」


ドラゴンの家族になるなんて聞いたことないぞ!!!

どうしろって言うんだ!

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