第7話 大学入試課でのアルバイト
毎年、1月末から3月初めにかけて、入試課でアルバイトをやらせてもらいました。
日本拳法部コーチをされていたOBの同級生が大学の学生課にいらして、そこから「入試課でアルバイト」の話が、どういうわけか当時2年生(ダブりで1年生)の私に来たのです。
12月のある日、普段はダボダボの品のない学ランか、ヨレヨレの薄汚いジャージに冬でも雪駄かビーチサンダル姿の私は、この日ばかりは、ブルックスブラザースのズボンにブレザー、マクレガーのポロシャツ、真っ白のソックスにナイキのスニーカー、いつもはスポーツ刈りか・ぐちゃぐちゃの髪なのに、その日に限っては母親の椿油できれいな7/3に髪を分けて「ええとこのボンボン」風スタイルで入試課を訪問しました。
入試課の方々は「日本拳法なんていうから、もっとむさ苦しいバンカラの人かと思ったら、今時(いまどき)の武道系というのは一般学生並みだね。」なんて、感心している。
いつもは「俺」とか「自分」とか「オイラ」なのに、この時ばかりは「はい、僕たち、いつも一般学生に間違われちゃうんです。」なんて可愛らしい応対をするもんですから、課長さんから「じゃあ、あと3人ばかり、君みたいに真面目な友達を連れていらっしゃい。」なんて言われるほど、大好評。
で、部室に帰って、シーズンオフ期間中とはいえ、たまたま次の授業待ちで部室にいた同期の桜井と三堂地に声をかける。
桜井は神戸市の「屋敷」とかいう所に実家があるくらいでお金持ち、顔立ちもハンサムだし、まさに「ホンマもんの、エエとこのボンボン」。超真面目の三堂地君も成績優秀(卒業後銀行員になった)である上に、杜甫の詩の如く「紅顔の美少年」風で申し分なし。
ところが、二人とも1月の期末試験が終わったら家族で旅行へ行くなんて、私と正反対の円満家庭育ちですから、アルバイトなんて興味なし。
たまたま、15年間も畳替えをしていないボロボロの畳の上で寝ていた同期の小松が「よっしゃ、ワシがやったるでぇー」なんて、跳ね起きて声を上げる。
「お前、四国に帰るんじゃねえのかよ」と言うと、帰る旅費を飲んでしまった(酒代)ので「来年の夏休みまで東京におるんや」と。
日本拳法部の「青田赤道」と呼ばれる男なんか連れてっていいのかよ、なんて内心思いましたが、根はまじめな奴ですから・・・。
部室を出て、12月とはいえ暖かな日差しが差すキャンパスで、黒澤明の映画「7人の侍」の如く「あと2人か」なんて煙草を吸いながら、通り行く学生たちを眺めていると「おう平栗、麻雀やろうぜ」なんて、合気道部のキャプテンと副将、それに空手部副将の3人から声がかかる。
雀荘でバイトの話をすると、空手部は家の仕事を手伝うのでダメですが、合気の二人は実家通いだし「おもしろそうじゃん」ということで決まりました。
毎年2ヶ月間、ここで働かせて戴いたおかげで、私たち4人は春・夏の合宿費用を工面でき、また、金銭面以上に様々な出来事からいろいろなことを勉強させてもらいました。
入試課の仕事とは「受験票の受付から合格通知の発送まで、絶対に間違いがあってはいけない」という厳しさがあり、そのリスク・マネージメントの思想やリスク管理の技術というのは、私の場合、就職先での仕事に大いに役に立ったのです。
入試課でのバイトは面白いことが沢山あって、私たち4人は大満足でしたが、他の3人が卒業し私が5年生で最後のバイトをさせて戴いた年の3月、打ち上げの席で課長さんが私に仰いました。
「4年前の君の第一印象にすっかり欺されてしまったよ(笑)。君たち武道系は礼儀正しいし行儀は良いんだが、声がでかすぎる。ここは道場ではなくて教室や事務室なんだから、その3分の1くらいでいいんだ。やっぱり、武道系はバンカラなんだなぁー。」と。
私の同僚であった合気道部のキャプテンとは、電車の中で体を張って酔っ払いから女の子を助けたりと、非常に正義感の強い男で、六大学に行けたんじゃないかと思うくらい頭のいい男でした。また、キャプテンだけに何事もジェントルマンだったのですが、小松が受験票の処理でミスをしたりすると「またお前か! ヤキぶっこむぞ!」なんて(体育会スタイルで)怒鳴ったりするので、一緒に仕事をしていた短大生たちはビビりまくっていました。
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