第18話 いつも通り

院長が退院した日の夜、仁と橘は院長宅にお邪魔していた。

「退院おめでとうございます。無事でなによりです」と二人で挨拶した。

「今回は心配も面倒もかけてすまなかった。いろいろ大変な事もあったと思うが二人には感謝している。ありがとう」

と頭を下げた。


「入院中に考えたんだが、院長を仁に任せようと思う。仁、これを機にしてみないか?」

沈黙が流れた。

「あまりにも急すぎて、僕で務まるか不安ですし

もう少し考えさせて下さい」

「そうだな。簡単じゃないよな。くるみさんの事はどうなんだ?結婚はいつになりそうだ?」

「その事ですが、まだくるみのご両親に認めてもらってないので、今は未定です」

「そうか。お前の判断に任せるから病院を頼む。

橘君にも助けてもらってばかりだな。仁の事頼む。少し疲れたので休むとするか」

と言って寝室に入って行った。


仁は橘を誘って自宅に戻った。

「院長、なんとなくだが小さく見えたな」

と橘が言った。

「ああ、倒れる前とは全然違ってた」

仁は父親が弱っている姿を見るのが初めてでショックを受けていた。

いつも大きな超えられない存在の父だったのに。


「仁は今院長になりたいか?」

「いや、まだ早すぎる」と答えた。

「くるみさんとの結婚が先か?」

「ああ、僕が今望んでいるのはくるみと結婚することだ」

「じゃあ、決まったな!先にやる事」

「橘、お前は本当に僕の事よくわかってるよ」

「当たり前じゃないか。親友なんだから」

「ありがとな」


翌日、くるみは朝食を作っていた。

彼と橘さんはまだ寝てる。二人でお酒を飲んでそのままごろ寝をしたようだ。


「うっ、頭が痛。あれ?寝ちゃったのか」

橘さんが目を覚ました。

「朝だよね?」

「はい、おはようございます」

と私は答えた。

「うわー、くるみさん来てたんですか?」

と橘さんは驚いた。その声で仁も目を覚ました。

「あれ?橘、どうした?」

「仁起きろ!朝だぞ」

「あれ、いつの間にか寝ちゃったんだな」


「仁、おはよう」「おはよう、くるみ」

彼がキッチンに来て私を抱き寄せキスをした。

「朝から見せつけてくれるよ。ああ、俺帰るわ。

じゃあ」

「橘、くるみのご飯は上手いから食べていけよ。

まぁ座れって」渋々座った。

「仁はくるみさんといつもこんな感じなのか?」

と小声で言った。

「うん、そうだな。いつもと同じだ」

と気にしていない様子の仁。

「見てるこっちまで恥ずかしいよ。アツアツはいいけど人前では気をつけた方がいいぞ」

と忠告する橘。

「すまん。いつもの習慣が出ただけだ。橘も一条さんとはしないのか?」とニヤニヤして聞いた。

「まさか!でもたまにあるかな」

橘さんもまんざらでもない様子だった。


「お待たせー、二日酔いにも優しいご飯です。

召し上がれ」

「おー、すごいな、くるみさん」と驚いていた。

「いただきます」3人で楽しく食事をした。


「いやー美味かった。くるみさん料理上手なんですね」橘さんが褒めてくれた。

「実は私、料理出来なかったの。それで仁のお母様に特訓してもらって今があるの」

「くるみは僕の為に頑張ってくれたんだよねー」

と彼は得意気に言った。

「ハイハイ、仁はくるみさんの前だと別人になる事がよくわかった」


「ご馳走さまでした」

「じゃー、また明日」と橘さんは帰って行った。


「お父様、退院したんでしょ?」

「うん、父さんに院長になれって言われて。

僕はまだ早いと思ってる。その前に僕達の事を決めたいんだ。僕達の結婚のこと。くるみのご両親に挨拶に行こうと思っている。いつがいいかな?」


急だった。

「えー、いつがいいかな?父は今忙しくないし、母もいるから」と答えた。

「そうだな、来週の日曜日はどう?」

「うん、親には私から伝えておくね」

「仁、そんなに急がなくても。今お父様のことで病院の方を優先しないで大丈夫?」

「僕に任せるって父さんが言った。それに僕の優先順位はくるみと結婚する事から始まるんだ。譲れないよ、絶対に」


病院の朝礼に院長はいた。

「皆さん、おはようございます。私の事で皆さんには大変迷惑をかけてしまった。申し訳なかった。

また、今日から一緒に皆さんと頑張りますのでよろしくお願いします。では気を引き締めて取り組みましょう。以上」


いつもの病院に戻った。看護師達もホッとした様子だった。しばらくはこの状態で維持していきたいと仁は考えていた。


「仁、院長の件は保留だよな」

「ああ、しばらくはこのままでやりたい」

とコソコソ話していたら

「先生方、もう始まりますので診察室へお願いします」と一条さんが厳しい目つきで見ていた。

二人はそそくさと移動した。

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